卑怯者だが動じない、エバース町田和樹の根源──人生を変えた“キャバクラでの大ウケ”とは?【ソロインタビュー】

2026.8.19
エバース町田 サムネイル

文=西澤千央 撮影=小見山峻 編集=Quick Japan編集部


2025年、2度目の『M-1グランプリ』決勝で歴代最高得点に迫る点数を叩き出したエバース。そのツッコミを担当する町田和樹の芸人人生は、高校を中退した直後、交通事故で重症を負った際の「人生、終わったな」という諦念からスタートした。

ディーラーの営業マンとして働き、夜はキャバクラでウケを取る……。そんな男が漫才師として『M-1』の決勝の舞台に立つなんて、誰が想像しただろうか。卑怯者だけどブレない、どこまでも「町田」としかいいようのないスタイルの根源を探る。

本記事では『Quick Japan』vol.184に掲載されたソロインタビューより、一部抜粋してお届けする。

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芸人の原点にある「プラス思考」

エバース町田ソロカット『Quick Japan』vol.184
町田和樹(まちだ・かずき)
1992年生まれ、神奈川県出身。エバースのツッコミ担当

──小さいころから芸人になりたいって気持ちは強かったのでしょうか。

町田 あんまりなかったですね、子供のころは。お笑いを意識したのはブラマヨ(ブラックマヨネーズ)さんがきっかけで、クリスマスイブに『M-1』を観たんですよ。モテなさそうな男がふたり出てきて「俺たちを見ろ」みたいなやつ。あれが最初の衝撃でした。「漫才っておもしろいな」とは思ったけど、自分がやろうとはまだなってなかったですね。『(爆笑)オンエアバトル』(NHK)とかも見てなかったし。

──「自分もやってみたい」となったのはいつ?

町田 中学の同級生が卒業してNSCに入ったのを見て「そんなんあるんだ」くらいにはなりましたけど、まだ遠い話で。直接のきっかけは……キャバクラです。

──キャバクラ?

町田 就職してからなんですよ(笑)。まわりの大学生よりちょっとお金があって、夜に飲みに行くことが多くて。そこでしゃべってウケてたら「いけるんじゃないか」って完全に勘違いして。まあ勘違いなんですけど、それでNSCに入りました。一度就職してたので「何年かやっても戻れるかな」くらいの気持ちで。

──実際にNSCに入ってみて、いかがでしたか。

町田 厳しかったですね。すごいヤツがいっぱいいるし、選抜クラスにも入れなかったし。「ボケは無理だな、ツッコミでいこう」というのはわりと早い段階で決まりました。

──ツッコミに向いてると感じたのはなぜ?

町田 何かに対してツッコミを入れるほうが自分に向いてる感じがあって。思えば学生時代からそんな感じで、ムチャブリみたいなのを返すのが得意で。先輩にイジられたときの返しがいいって言ってもらえることが多くて、じゃあそっちかなって。今と昔あんま変わってないですね。

──イジられるのが嫌だという感覚はなかったですか?

町田 あんまなかったですね。もちろん雑なやつは嫌ですけど。みんなが楽しければそれでいい。

──イジられても大丈夫なのは、ご自身の自己肯定感の高さゆえ、でしょうか。

町田 そんないいもんじゃない(笑)。人より恐ろしくプラス思考というだけ。俺のこと好きだからイジってるんだなって思う。悩むこともないし、いい方向にしか考えない。ネットに悪口書かれても「俺のことが頭から離れなくなって書き込んじゃってるんだな、こいつ」って思う。

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──そのプラス思考は小さいころに褒められて育ったからとか?

町田 あんまり褒られてきてないですよ。ただそう思わないとやっていけないくらい終わってたという。高校中退して、辞めた瞬間事故って入院して……。

──町田さんが通われていた高校、めっちゃ進学校ですよね。なぜ中退という道を選ばれたのですか?

町田 単純に進級できなかった。辞めたくて辞めたというより、辞めるしかなくなって。親が高校の先生なのに子供が中退って、とんでもないことですよね。それで「どうしようかな」ってなった瞬間に、バイクで事故って1カ月入院して。

──それは……。

町田 太ももが真っぷたつになるくらいのケガで。当たりどころによっては余裕で死んでたと思います。「終わったな、人生」と。

──そういう大きな事故を経験すると人生観が変わるとかよく聞きますが、そういった変化は?

町田 全然ないです。ただただ「終わった終わった。もうこれからの巻き返しはキツいな」くらい。

──NSCで人生巻き返してやろうと思いましたか?

町田 あ、それはどうだろうなぁ。事故のあと、俺ディーラーに就職して、なんか車売れたんですよ。

──(大王・)渡辺ポットさんも言ってました。「あいつすごい車売ってた」って。

町田 ポットさんそれ知らない。出会ってもいない(笑)。生意気ですけど、「まあ何年か(芸人)やってみて、ダメなら戻れるかな」くらいの感覚ではいました。そのときキャバクラ通ってたんで、自分おもしろいと勘違いして、NSCに。

──プラス思考ですね。

町田 あの事故のときに「終わった」と思ったあとに比べれば、だいたいのことはマシなんですよね。NSCに入ってなかなか評価されないとか、無限大(ヨシモト∞ホール)のライブで誰も褒めてくれないとかがあっても、「あのときよりはマシだし、まだ伝わってないだけ」って思えて。ほんと恐ろしくプラス思考なんですよ、俺。

エバース町田ソロカット『Quick Japan』vol.184

常にそのまんまの「町田」でいる

──『M-1』2023年の敗者復活からブレイクして、街で声をかけられることも増えたと思いますが。

町田 増えましたね、だいぶ。最高ですよ。変装とかしないんですかってよく聞かれるんですけど、公共機関でご惑になりそうなところ以外は基本しません。声かけてもらえるの、普通にうれしいんで。かなりうれしい。気づいてほしい派です。

──大阪中のキャバクラのボーイと知り合いとお聞きしました。

町田 ポットさんでしょそれ(笑)。そこまででもないです。何人か知ってるだけです。

──認知度が上がって、人気者になって仕事も忙しくなって。実際生活や周囲の反応が変わっていくと「こんなはずでは」と考える方も少なくないと聞きますが、町田さんはいかがですか?

町田 あんまりないですね。キャラを入れるとかが基本なくて、普段の自分のまま現場に行って、普段の自分のままでしゃべってる。スイッチ入れるとかないので。常に「町田」というか。だから帰ってきて「やっと素の自分に戻れた」みたいなのもなくて。そのまんまだから。そのまんまでもっと上に行けたらいいなとは思ってます。まあ、そのまんまでいるのが一番得意なんで(笑)。

──人間としての「体幹」が強い。ブレない。

町田 ブレないなんてこともないんですけどね(笑)。でも佐々木にも「卑怯者だけど動じない」って言われるな。自分では意識してないんですけど、あんまり何も考えてないからかもしれないです。ただ、いい方向にしか考えない癖がついてるというか。社会人のころのほうが全然しんどかったですよ。ノルマあるし、苦手な営業を自分からやらなきゃいけないし。そう考えたら今のほうがずっと楽ですね。

──笑いを「ノルマ」とは考えていらっしゃらない。

町田 いやいや、まあでもそうですね。ある程度打席回ってきて、3割残せたらと……いう感じですかね。

エバース町田ソロカット『Quick Japan』vol.184

※『Quick Japan』vol.184では、エバースのふたりへのソロインタビューのほか、パーソナリティを務めるラジオ番組『GURU GURU!』(J-WAVE)や5月8日からスタートした全国ツアー『エンタイトルスリーベース』での密着取材、ふたりをブレイク前からよく知る関係者への取材など、ここでは公開できなかったさまざまなコンテンツを掲載しています。

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サイズ:A5/並製/144ページ
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『Quick Japan』vol.184(2026年6月24日発売)には、エバースが表紙&総力特集に登場。“TRUST YOUR FEELINGS.”をテーマに、芸人人生の中のいくつもの分岐で、自分たちにとってリアルであること、向いていること、ダサくないことをその都度選んできた、エバースの研ぎ澄まされた感覚を徹底取材する総力特集になっている。

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西澤千央

(にしざわ・ちひろ)1976年生まれ。神奈川県出身。実家の飲み屋手伝い→ライター。『クイック・ジャパン』(太田出版)や『文春オンライン』、『GINZA』(マガジンハウス)などで執筆。ベイスターズとねこと酒が好き。