「納言・薄幸の煙たい記憶」。
この連載は、愛煙家である幸さんに人生の起点となった一服を綴っていただく“煙草回想録”です。
今月の記憶は、幸さんの下積み時代のお話。
懐かしき下積み時代
芸人という仕事だけでは全く食っていけなかった時代、シミュレーションと呼ばれる仕事によく行っていた。
シミュレーションというのは、本番でカメラミスが起きない様に、クイズ番組だったら問題が簡単過ぎないか?難し過ぎないか?等を判断する為、若手芸人達が出演者になりきって、その出演者のネームプレートを首からぶら下げて、本番さながらの動きをする、いわゆるリハーサルの事。
私も20代前半の頃は、よく呼ばれたものだ。
中でもよく行っていた番組が2つある。
1つは、もう終わってしまった『ペケ×ポン』というフジテレビの番組。
くりぃむしちゅーさん、タカアンドトシさん、柳原可奈子さんがレギュラーで出演していた様々なジャンルのクイズに答える番組。
その中の1つに、サラリーマン川柳等の下の句を当てるクイズがあった。
クイズは大苦手な私。
しかし『ペケ×ポン』のシミュレーションに行き過ぎて、下の句を当てるのだけは大得意になった。
中々役に立たない特技だ。
5対5のチーム戦で戦う川柳クイズ。
クイズに負けたチームは、頭の上に設置してある“ししおどし”が落ちて来て、頭頂部をししおどしにチョップされるという、風流台無しな罰ゲームを受ける。
もう10回以上シミュレーションに参加している若手芸人達は、私を含め全員、ししおどしが落ちてくるタイミングを熟知していた。
ある時、私のチームが負け、罰ゲームをくらう!という瞬間、タイミングを把握している5人全員が、落ちてくるししおどしを綺麗に避けた事があった。
5分の5が避けた。
ししおどしを避ける為、左右どちらかに全員が同じタイミングに首を傾げるという奇妙な映像がモニターに映った。
肩にカコーン!と、ししおどしが落ち、全員ちょっと肩こりが改善されて帰って行った。
『ペケ×ポン』には、高級料理か大衆料理かを当てるクイズもあった。
普段、ネズミが食う様な飯しか食えない若手芸人達は、このクイズのシミュレーションが大好きだった。
川柳やその他のクイズは回を重ねるごとにコツを掴んで得意になっていった芸人達だったが、このクイズだけは苦手だった。
なぜなら、ネズミが食う飯しか食っていないからだ。
マックでギリギリ。
モスはパーティー。
フレッシュネスバーガーは知らない。
そんな若手芸人達が高級か大衆かなんか分かるはずが無い。
大衆料理でも我々にとっては高級料理なのだ。
そんな中、前の相方(女性)はこのクイズが得意だった。
お金持ちとか、舌が肥えてるとかでは無い。
その正反対。
高級料理を食べると、普段食ってない物だから体がパニックを起こしてお腹が痛くなっちゃうのだ。
彼女が「あ!お腹痛いので高級!」と言うと、ほぼほぼ正解だった。
せっかくの高級料理を腹痛で当てられるスタッフさん達は、良い顔をしてなかった。
誰も幸せじゃない、悲しい話だ。
普段食べられない高級料理と、それを食べた後に吸う煙草は、シミュレーションの唯一の楽しみだった。
よく行っていたシミュレーションのもう1つは、フジテレビの『VS嵐』(現『VS魂』)だ。
色んなアトラクションに挑戦する番組。
シミュレーションというのは、スタッフさんから「貴方はこの人役、君はこの人役」と演じる出演者を割り振られる。
性別、身長、体型、何となく出演者本人に近しい役を割り振られる事が多かったが、ある時私が
「はい、じゃあ君はコレ」
と渡されたネームプレートには“加藤一二三”と書いてあった。
モデルさんや女優さんもいる中のひふみん。
何でだよ。
何から何まで違うだろ、絶対。
疑問を持ちながらも、その後1時間程、低レベルなひふみんの物真似をしながらシミュレーションに参加するという何とも不思議な時間を過ごした。
ひふみん後の煙草は、ひふみんになり切った後だったからだろうか。
ちょっとむせた。
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