ファンから貰った初めての煙草の味は、今でも忘れることができない|納言・薄幸、人生の起点となった一服


初めて煙草を差し入れてくれた男性

他にも、クランクアップしたかと勘違いしてしまう程のバカデカい花束を貰ったり、遅刻癖があると勝手に決めつけられて目覚まし時計を貰ったり、今食わなきゃ怖くてしゃーない刺身を貰ったり、中には突拍子のない差し入れもあるけど大抵は嬉しい。

中でも一番嬉しいのは、やっぱり煙草。
酒ももちろん嬉しいけど、5リットルの業務用焼酎を貰って、次の日話にならないレベルの筋肉痛になった苦い思い出がある。
その点煙草は筋肉痛にならないから、めちゃくちゃ嬉しい。
“筋肉痛にならない物”っていう差し入れの条件自体、変な話なんだけど。

10年前から煙草を吸っているけど、今のコンビを組む前までは、ライブに来てくれるお客さんには喫煙者という事は知られてなかったと思う。
まあ、わざわざ言う場も無かったから当たり前の話だ。
なので意外と煙草の差し入れを貰った事は無かった。
納言を組んでから、ネタの中でも煙草を吸う事に成功した私は、一気に煙草の差し入れを貰う機会が増えた。
お見事。あっぱれだ。
初めて煙草の差し入れを貰った日の事は、よく覚えている。

4年前のライブ終わりに、出待ちしてくれた男性からだった。
初めて出させて貰ったネタパレを見て気に入ってくれた様で、ライブまで足を運んでくれたそうだ。
「煙草です! どうぞ!」
そう言って、コンビニ袋に入っている煙草をくれた。

凄く嬉しかった。
テレビに出ている私を見てわざわざ来てくれて、私の好きな煙草を買ってくれて。
初めて納言としてテレビでネタをやらせて貰った後の事だったから、凄く感慨深いものがあった。
丁寧にお礼を言って別れた後、袋の中の煙草を手に取る。
私が当時吸っていた煙草は、セブンスターのボックス。
男性がくれた袋の中に入っていた煙草は、グロー(電子煙草)のケントだった。

なぜだ。

なぜ、グロー派だと思ったんだ。

私はそもそも、電子煙草派でもない。
電子煙草だとしても、数ある電子煙草の中から、なぜグローに決定してくれたんだ。
彼はネタパレを見て来たと言っていた。
私はネタ中、煙草を吸うジェスチャーをする。
記憶が正しければ人差し指と中指、つまり紙煙草を持つジェスチャーをしたはず。
緊張し過ぎて5本指で持っちゃってたか?
おっきく煙草持っちゃってたか?
おっきく煙草持っちゃってたら、流石に相方の安部も
「いやそれ、グローじゃねえか!」
ってツッコむハズだ。
それは、ツッコまないか。
安部にはそんな臨機応変に対応出来る程のスキルは無い。
スキルがあっても一瞬でグローとは分からないか。

考えても考えても、謎は深まるばかりだ。
でも、初めてのネタ番組を見て来てくれた人から貰った煙草。
無駄にはしたくない。
しかし、その時の私は、パッとグローの本体を変える程のお金も持っていなかった。
どうしようか迷ったが、捨てるのも心が痛むので、とりあえず貰ったケントは鞄にしまう。

それから数ヶ月後、両親と飲みに行く事に。
他愛無い話をしていると、父親がおもむろに電子煙草を吸い始めた。
そうだった。
父はグローを吸っていたんだ。
偶然にも私は男性から貰ったグローのケントを鞄に入れた後、存在をすっかり忘れ、入れたままにしていた。
「ちょっとグローを貸してくれ」
人に物を頼む態度ではない言い回しで、父からグローを借りる。
初めて貰った差し入れの煙草。
不慣れな手つきでケントをグロー本体に差し込み、一口吸う。

紙煙草派の私には、馴染みのない初めて吸う不思議な味。
いつものセブンスターだったら、この時の味は忘れていただろう。
今でも忘れられない、あの独特な味わい。
だから、初めての差し入れの煙草がグローのケントで良かったのかもしれない。
あの時の彼、ありがとう。

ちなみにグローを借りたついでに、父にその出来事を話すと、グロー大好きな父は
「良い人だね! 凄い良い人じゃん! グローが好きな人に、悪い人は居ないからな」
と、大いに感心していました。

個人的には、グロー好きにも悪い人は居ると思う。

連載納言・薄幸の煙たい記憶は、毎月1回の更新予定です。

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薄幸(納言)

(すすき・みゆき)お笑い芸人。1993年生まれ、千葉県出身。安部紀克との男女コンビ「納言」のメンバー。「三茶の女は返事が小せえな」「渋谷はもうバイオハザードみてえな街だな」など“街ディス”ネタが人気のコンビ。バラエティでは薄幸のヘビースモーカーっぷりや大酒飲みのやさぐれキャラクターにも注目が集まって..

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