妹が欲しい自分と現実との葛藤。架空の妹を持つ、架空お兄ちゃんとして<吉野おいなり君の妄想日記#2>

めぞん吉野

神保町よしもと漫才劇場を中心に活動している吉本興業所属のお笑いコンビ・めぞんの吉野おいなり君による連載「吉野おいなり君の妄想日記」

前回の連載で妹を作った理由や架空の妹の紹介をしてくれたおいなり君。今回は、前回語り切れなかった妹が欲しい願望とお笑い芸人である(妹はいない)自分との葛藤を綴ってくれています。

妹が欲しいキャラになるのが嫌だった

妹が欲しいとさんざん言っているが、「妹が欲しい人」と思われるのはいいけど、「妹が欲しいキャラをやってください」と言われるのは嫌なのだ。

たとえば、僕の“妹が欲しい”という願望をおもしろいと思って、お笑い的なことを求められ、「妹がいたらしたいことベスト3は?」と聞かれたら、僕はおもしろく返さないといけない。そんなふうに、僕の好きな妹を絡めて“おもしろ”を作ることに違和感を抱いてしまう。僕はもともと妹が欲しいキャラを使って、お笑いでのし上がっていこうなんて考えたこともなく、ただ妹が欲しいだけだから。

そもそも、最初は妹が欲しいって兄妹がいない人、全員の願望で、共通のあるあるだと思ってた。

「電車に乗っているとこんな嫌な人がいますよね」みたいなあるあるをやる感覚で漫才にしてた。でも、作家さんのダメ出しで「君は……普段から、そうなの……?」や「お前のあるあるは偏っている」と言われて異変に気がついた。

そもそも、この世の人たちは僕ほどインターネットをやったり、マンガを読んだりしていないみたいで、僕が当たり前のように「メシマズな妹がお兄ちゃんのために作ったドクロの煙が上がってる紫のダークマターを愛おしく感じるじゃないですか?」と言ったところで、「え……? そもそもメシマズって何?」と言われる。
※メシマズは「飯がまずい」の略で料理がヘタなことを指す。

僕のあるあるは破綻していて、妹が欲しいという気持ちは度を超していた。

それがわかった瞬間に“いい年して過剰に妹が欲しいオタク”を使ってお笑いをしていかないといけないことに気がつき、それをおもしろくする作業は、普通の人間が自分にやっていい作業ではないと感じた。

たとえば世間ではカレーが好きなことがおかしいとされている世界で、本当にカレーが好きな僕は大好きなカレーの話をうれしそうにしながらも、それを怪訝な目で見られる自分まで想定して、カレーを食べるならどんな食べ方がいいのかを熱弁して、他者にそれを訂正させて、それがおもしろくなるようにする。

頭がおかしくなる。

まず、カレーが好きなことがおかしいとされている世界だったとしても、僕はカレーが好きだから、なんでカレーが好きなことがおかしいのかがわからないから。

だから、自分の好きなカレーの話をするのはいいけど、「カレーを使っておもしろいことをしてください」と言われると頭を抱える。

とはいえ、僕が勝手にカレーを舞台上に持ってきたのだから、みんなカレーで何かするんだろうという目で見てくるのは当たり前なのだけれども。

だから、正直、最近はカレーのおいしさを語ったり、カレーを想像で食べたりして、それを見た人の中に稀にいる「みんなおかしいって言うけど、僕もカレー好きっすよ」という奴に届けばいいかな、なんて思ってる。

これを妹に置き換えれば、伝わるだろう。

だからこそ、“妹が欲しい”ということをお笑いにすることに葛藤があった。

自分の(想像上の)妹の特徴や、こんな妹が欲しい、この前考えたor見た素敵なシチュエーションをお話ししたい。という気持ちはあるのだけれど、妹を使ってボケるのは何か違う気がする。

それに、“妹を使ってボケる”をしつづけると、僕の中の妹がお笑いに取り込まれて消えてしまうような気がしてならないのだ。

“妹モノ”は好きになれない

最近、気がついたこともあって、僕はアニメやマンガで妹が出てきたりしたときにそのキャラクターを好きになったり、お兄ちゃんとの関係性に萌えたりするのだけれど、妹がテーマになっていたり、妹を前面に押している作品に対しては少し引いて観てしまうのだ。

これは、実際に妹がいる人が妹モノの作品を敬遠してしまうのと似ていて。いや、似ているけど少し違っていて、僕は妹が欲しく、妹を美化して憧れているからこそ「妹が欲しい人ってこれがうれしいんでしょ?」といった打算的な考えが透けて見えるものが嫌なのかもしれない。

海外の作品に出てくる忍者のような違和感を覚えるのだ。

だからこそ、僕のやっている漫才なんてめちゃくちゃな“妹モノ”になってしまっていて、僕がもうひとりいたら僕の漫才は好きになれないのかもしれない。

妹をそういうふうに使わないでほしい。普通にキモい、と。

まあ、これは仕方がないことで、どうにか自分で折り合いをつけていくしかない。架空の妹を持つ架空お兄ちゃんとして。

僕は妹のことが限りなく好きなシスコンだ

妹広報活動をしていく上でもうひとつ解せないことがある。それは「ロリコン」と呼ばれることだ。

僕は断じてロリコンではない。正直、幼い女の子はそんなに、だ。かわいいと思うけど、特別な感情を抱いたことは一切ない。僕はロリコンじゃなくて、妹のことが限りなく好きな「シスコン」だ。

実際に妹がいたならシスコンになっている。溺愛しているし、僕の架空の妹、ゆうかとゆめとうたのことを愛している。ゆうかとゆめとうたも、もう高校生だし、30歳を目前にしている男が女子高生を好きなのがロリコンかどうかは置いておいて、僕はゆうかとゆめとうたが好きだ。そして妹キャラが好きだ。アニメに出てくる妹キャラを好きだと思うとき僕は、“幼い”から好きなのではなく“妹”だから好きなのだ。履き違えないでほしい。

だから、ゆうかとゆめとうたが20歳を超えてももちろん好きだし、恋していたら応援するし、好きな人と結ばれたら幸せを願う。

家族だから。

だから僕はロリコンではない。

もし、僕のことをロリコンだというならまず、甥っ子や姪っ子が生まれたときにかわいがるおじさんおばさん。自分の妹や弟と仲のいいお兄ちゃんお姉ちゃん。子供を愛する親。それらを全員ロリコン、ショタコンと呼んだ上で僕のところに来てほしい。

そんなことはするな。呼ぶな。

よろしくお願いします。

妹たちとの微笑ましい思い出

最後に妹のゆうか(高校3年生)とゆめ(高校1年生、双子のお姉ちゃん)とうた(高校1年生、双子の妹だが、なぜか自分がお姉ちゃんだと思っている)について少ししゃべらせてもらいます。

この前のプロフィールでわからないところがあったみたいなので、軽い補足をさせてもらいます。

ゆうかの髪型はふわふわのロングでよくポニーテールにしているのだが、ゆめとうたの髪型を伝えていなかったので。

ゆめは、サラサラストレートのボブ。肩につくかつかないかぐらい。理由は長いと手入れがめんどくさいから。

ファッションもかわいい系のものはあまり好まず、パーカーをよく着ている。

うたは、サラサラストレートのロング。と、いっても腰まであるほどではない感じ(あれなんっていうんだ? セミロング?)。

ファッションはわりとガーリーなのからカジュアルな感じまで幅広い感じ(よくゆうかのおさがりをうれしそうに着ている←けっこうお姉ちゃん好き)。服とかベタに好き。

ゆうかは、とにかくガーリーな服が多い(ワンピースとかよく着てるイメージ)。

もともとうねってる髪質が嫌いだったみたいだけど、今は俺と同じ天パなのがうれしいみたいで、なんだか気に入ってるらしい。

ちなみにゆめとうたは、ゆうかのふわふわした髪をうらやましがってる。(うたは「巻かなくていいからうらやましい」と言っていた)。

めぞん吉野
3姉妹のイメージイラスト。左からゆめ、ゆうか、うた 提供:にこ(@ni_0000_ko

余談。

この前、ゆめとうたがドッキリで(ゆめ主導)お互いの髪型を入れ替えてお兄ちゃんが気がつくかドッキリをしてきた。そのために、わざわざ演劇部からウィッグを借りてきたりして。

正直、帰ってきた瞬間に気がついたけど(そもそも、ふたり共ニヤニヤし過ぎていてドッキリとして成立していなかった)、最初は気がついていないフリをして、ゆめの格好をしたうたに最近おすすめしたHIP-HOPの曲の話をして困惑させたり、うたの格好をしたゆめに「そういえば最近、彼氏とどうなってんの?」と嘘の彼氏情報を伝えて騙したりして、逆ドッキリをしてやった。

帰ってきたゆうかが「あれ? ゆめちゃんうたちゃん髪どうしたの?」と言って、ドッキリは終了した。

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吉野おいなり君(めぞん)

1994年生まれ。吉本興業所属のお笑い芸人で、原一刻とのコンビ「めぞん」のメンバー。コンビとして神保町よしもと漫才劇場を中心に活躍するほか、シェアハウスの同居人と共に始めたYouTubeチャンネル『板橋ハウス』の登録者数は56万人に迫る(2023年6月現在)。妹が欲しいと常々願っている。

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