(G)I-DLEの楽曲は“お守り”である。「いやらしい」「過激だ」と反対されても、彼女たちが“ヌード(裸)”と歌う理由

2023.7.14

(G)I-DLE 5thミニアルバム『I love』Born Ver.コンセプトイメージ1

文=紺野真利子 編集=菅原史稀


まさに今、この世は「ヨジャグル戦国時代」に突入している。「ヨジャグル」とは、女性(여자/ヨジャ)グループ(그룹/クルプ)を意味する韓国語を略したもので、主にK-POPファンがガールズグループを指すときに使われる言葉だ。もちろん男性グループの勢いもすごいのだが、ここ数年で魅力的なヨジャグルが次から次へと誕生してはヒット曲を連発し、K-POP界を大いに盛り上げている。

「K-POP第三世代」と言われているTWICEやBLACKPINKらの人気はそのままに、さらに「第四世代」のIVE、LE SSERAFIM、NewJeans、aespa、ITZY、STAYC、Kep1er、NMIXXなど多くのヨジャグルが頭角を現している。

どのグループもかわいくてキレイでかっこよくスタイルも抜群で、正直、筆者は“推しのヨジャグル”を決められないでいたのだが……出会ってしまったのだ、(G)I-DLEに。

(G)I-DLE(アイドゥル)って?

(G)I-DLE(読み方はアイドゥル、もしくはジー・アイドゥル)は、2018年に「LATATA」でデビュー。韓国出身のSOYEON(ソヨン)とMIYEON(ミヨン)、タイ出身のMINNIE(ミンニ)、中国出身のYUQI(ウギ)、台湾出身のSHUHUA(シュファ)の5人で構成されるグローバルガールズグループだ。

グループ名には“一人ひとり個性ある女の子たちが集まっている”という意味が込められており、その名のとおり(G)I-DLEの5人はそれぞれが個性的で、全員がただの“かわいい女の子”では収まらない。また、作詞作曲、振り付けまでを自分たちで行うセルフプロデュースグループでもある。楽曲のほとんどを手がけているリーダーのSOYEONは、その類まれな才能を惜しみなく発揮し、他事務所のアーティストにも楽曲を提供している。

大ヒット曲「TOMBOY」が与えた衝撃

昨年リリースした「TOMBOY」のMV再生回数は、現在2.4億回を突破。2022年のK-POPを代表する楽曲のひとつとなった。実際に「TOMBOY」を聴いて(G)I-DLEのファンになった方も多いのではないだろうか? 筆者もそのひとりだ。この楽曲を初めて聴いたとき、あまりのかっこよさに衝撃を受けた。

サビの「Yeah, I’m F*cking tomboy」の部分には、「ピー」と前代未聞の自主規制音が入り、MVでは、バチバチのアイメイクに赤リップの美女5人が挑発的な表情で「ブロンドのバービー人形でも求めてた? 残念だったね、私はお人形じゃないの」「たかが愛ごときで私の体には傷ひとつつかない」と歌っている。ちょっともう、こんなの、好きにならずにはいられない。

作詞作曲を手がけたSOYEONは「TOMBOY」の歌詞について「世界のすべての偏見に対する私たちの感情と思考を盛り込んだ」と話していた。だからこそ「TOMBOY」は、ただの“失恋しても傷つかない強い女の子の歌”では終わらなかった。そんな単純でありふれたメッセージではない。

SOYEONのラップパートには、「タバコなしで悪態をつくこともあるし ウィスキーを飲むのも好き 変えるつもりなんてないけど、だから何?」という一節がある。あえて男性的なイメージが強く、そして女性アイドルのイメージとはほど遠い「タバコ」と「ウィスキー」を歌詞に盛り込むことで、「女性はタバコを吸わないでほしい」とか「女性アイドルがこんなにお酒を飲むなんて」とか、そういった世間の偏見を一刀両断している。

そして最後は「男でも女でもない、私がまさにI-DLE」で締める……完璧だ、かっこよすぎる。「男性はこうであるべき、女性はこうであるべき」という世の中の偏見をぶち壊したいという彼女たちの想いはまさに、現代を生きる私たちが抱えている悩みそのものでもある。だからこそ「TOMBOY」の歌詞は、私たちに深く突き刺さったのだと思う。

彼女たちが「ヌード(裸)」と歌う理由

「TOMBOY」が収録されたアルバム『I NEVER DIE』のリリースから7カ月後の2022年10月、(G)I-DLEは5 thミニアルバム『I love』を発表。さまざまな愛を表現した6曲が収録されているのだが、彼女たちがリード曲に選んだのは「Nxde」だった。

「Nxde」を選んだ理由として、プロデューシングも務めたSOYEONが「私たちが最後に見つけた真の愛は結局、自分自身を愛すること。自分のありのままの姿で愛されること。これが私たちの結論だから」と語っているとおり、この曲では“ありのままの私”を「ヌード(裸)」という言葉で表現。事務所からは、「ヌードはいやらしい言葉だ」と反対されたそうだ。

しかしSOYEONは、曲名を変えずにリリースすることを決意。その理由を、上記の動画内でこのように語っている。

(「ヌードはいやらしい言葉だ」という)そのことを聞いて、絶対に(この曲名で)リリースしなければと思ったんです。私は「ヌード」という言葉を聞いたときに、いやらしい言葉だとは思いませんでした。だって、私たちはみんな、裸の状態で生まれるから

私は“本来の姿”という意味で曲を作ったのに、事務所に提案すると「過激な曲ですか?」というリアクションが返ってくる。その瞬間、“「ヌード」はいやらしい意味の言葉ではない”と見せなければならない、そう感じました。

事務所を説得するために、彼女はパワーポイントの資料まで作ったそうだ。

実際に曲中では「ヌードをそういうふうに考えるのは あなたの品性が欠けすぎてるから」「いやらしい作品を期待していらっしゃるなら そんなものはありません」と、「ヌード」という言葉に偏見を持っている人へ向けた皮肉を歌っている。

「Nxde」というタイトルにこだわったのにはさらに理由があり、SOYEONは「検索した際に出る“不適切なもの”を一掃したかった」とも語っている。実際に楽曲リリース後に「ヌード」と検索すると、(G)I-DLE関連のコンテンツが上位にヒットするようになり、性的なコンテンツを押し込むかたちとなった。事務所からの反対を押し切り、「二度と愛されなくても 本当の私を見せる」と歌う(G)I-DLEは、やっぱり「残念だったね、私はお人形じゃないの」なのだ。

マリリン・モンローをオマージュ。そこで表現されるメッセージ「偏見をぶち壊したい」

筆者が初めて(G)I-DLEの生パフォーマンスを見たのは、『2022 MAMA AWARDS』だった。ここ最近、黒髪ブームがつづいているヨジャグル界隈の中で、メンバー全員が派手な金髪でステージに登場した彼女たちはひと際異彩を放ち、目立っていた。当時は「金髪ギャルかわいい! 最高!」と5人にただただ見惚れていただけだったのだが、のちにその金髪にも意味が込められていたことを知り、さらに(G)I-DLEへの尊敬の念が深まった。

彼女たちは、「Nxde」のコンセプトをしっかり表現するためにマリリン・モンローをオマージュしていたのだ。「マリリン・モンローも白痴美とセックスシンボルとして見られていたが、実は賢くて本を愛する人物だった。私たちも芸能人だから『そういった人なのだろう』と偏見を持っていらっしゃる方々もいると思うが、違うと伝えたい」とSOYEONが語っているように、MVでは5人がマリリン・モンローに扮して「私のこと、どう見えてる?」と歌っている。「Nxde」も「TOMBOY」同様、「世間からの偏見をぶち壊したい」という彼女たちからの強いメッセージが込められている。

(G)I-DLEの楽曲は“お守り”

そして今年5月にリリースされた最新ミニアルバム『I feel』のリード曲「Queencard」も大ヒット中だ。「毎日生まれたことに感謝してる」「私は女王様」と自信たっぷりに、楽しそうに歌う彼女たちが非常に魅力的な楽曲。「自信あふれる姿は美しく見える」というメッセージが込められていて、MIYEONが“4分でプライドを取り戻せる魔法の曲”と表現しているように、聴くだけで自己肯定感が爆上がりして「私って最高!」という気持ちにさせてくれる一曲だ。「I’m a クィンカ」と繰り返されるサビも中毒性があり、一度聴いたら忘れられない。(Queen Cardの略語である퀸카/クィンカは、外見の優れた女性のことを指す言葉)

(G)I-DLEはK-POPアイドルで、本来であれば遠い存在で違う世界を生きている女の子たちのはずなのに、楽曲を聴いているとものすごく身近な存在に感じるのはなぜだろう。“TOMBOY”であり“女王様”でもある(G)I-DLEのように、強く美しく、男でも女でもない、私は私なんだと自信を持って生きていきたい。どんなに落ち込んでいてもいつでも味方でいてくれるような、いつでもそばにいてくれるような、彼女たちの楽曲はそんな“お守り”のような存在だ。

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紺野真利子

エンタメ系ライター。俳優、アイドル、声優などのインタビュー記事やK-POP関連のコラムなどを執筆中。

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