BTS・SUGAソロライブは「すべてが伝説」だった。“3人のSUGA”が見せつけた、三者三様の生き様

2023.6.10
BTS

(P)&(C)BIGHIT MUSIC

文=紺野真利子 編集=菅原史稀


BTS・SUGAのソロライブ『SUGA | Agust D TOUR ‘D-DAY’ in JAPAN』が、6月2日から3日間にわたり行われた。「Dynamite」の世界的大ヒット以降、ここ日本でもBTSは爆発的に人気となった。にもかかわらず、今回のライブ会場はぴあアリーナMM(キャパ約12000人)。これまで日本各地のあらゆるドームやスタジアムを満員にしてきたBTSにとって、ソロ公演とはいえあまりにも小さい会場だ。

もうこの時点で「伝説」として語り継がれるに違いないと確信していたが、ライブを鑑賞した今、改めて思う。本当に今回のSUGAのライブ、すべてが伝説だった。

SUGA、Agust D、ミン・ユンギ、3つの名を持つ表現者

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SUGAは3つの名前を持つ。まず、BTSとして活動している“SUGA”、ソロ活動名の“Agust D”、そして本名の“ミン・ユンギ”だ。3つの名前についてSUGAは以前、このように話していた。

違いはあるとも言えるし、ないとも言える。彼らは違ってもいるし、同じでもあります。

billboardインタビューより

今回のライブは、パフォーマンスはもちろんVCRや演出も含めて、SUGAが自身のルーツをARMY(BTSのファンネーム)と一緒に丁寧に辿っていく旅路のように思えた。“3人のSUGA”は重なり合うこともあれば離れることもある。SUGAはライブを通して、三者三様の生き様を私たちARMYに思いっきり見せつけてくれた。

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1曲目の「Haegeum」からもう、SUGAは全力だった。汗だくになりながらラップをかます姿に一瞬で虜になる。「この曲は解禁だ」と歌うように、SUGAがBTSとして、アイドルとして生きていく中で感じている息苦しさからの“解禁”や“解放”を歌う一曲。「躊躇わないで乗ってみな」という歌詞に気持ちを込めて歌うSUGAにつられるように、会場のARMYもアミボム(BTS公式ペンライト)を大きく揺らした。

興奮冷めやらぬまま次に披露したのは「Daechwita」。この流れ、本当に最高だった。「Daechwita」は個人的には“SUGA”よりも、“Agust D”らしさが前面に出ている曲だと思っている。「王は誰だ? ボスは誰なんだ? 全員わかってんだろ俺の名前」というかっこよすぎる歌詞を、大邱出身のD-boyである“Agust D”が高速ラップで紡いでいく。ライブ開始から約10分、この2曲だけですでに「とんでもなくかっこいいものを見てしまった……!」という気持ちになった。かと思えば、「皆さん準備はいいですか〜?」「一緒に〜!」と、ちょっとかわいい日本語で会場を煽るんだから、彼の魅力は底知れない。

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「Trivia 轉: Seesaw」のアコースティックバージョンでは思わず泣きそうになってしまった。この曲は2018年に発売されたBTSのアルバム『LOVE YOURSELF 結 ‘Answer’』に収録されたSUGAのソロ曲だ。ギターに大きく書かれたBTSメンバーたちからのメッセージに、胸が熱くなる。アルバムが発売された当時のVLIVE(ライブ動画配信サービス)で、メンバーたちが「この曲が一番好き!」「名曲だよね!」と絶賛し、みんなで「Trivia 轉: Seesaw」の振り付けを楽しそうに踊っていた光景を今でもハッキリと思い出せる。

この曲を日本で披露するのは2019年のスタジアムツアー以来。エコパスタジアム2日目の公演では、「Trivia 轉: Seesaw」のARMYのかけ声があまりにも大きくてSUGAがうれしそうにニヤッと笑顔を見せるという、イルアミ(日本のARMY)にとってうれしい事件もあった。そんなことを思い出しながら聴く4年ぶりの「Seesaw」で感動しないわけがない。会場に響き渡るかけ声を聞きながら、会場いっぱいのアミボムを見渡しながら、あの日のようにSUGAはうれしそうな表情を見せていた。

楽曲を通して伝えられる、そのルーツと成長

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先述したように、このライブはSUGAのルーツを辿る“旅”のようなもの。まさに「People」と「People Pt.2(feat. IU)」は、彼の想いの変化や成長が感じられる2曲だ。

「People」は「これまで怒って戦う音楽ばかりやってきたけど、ちょっと丸く、角が取れたような感じ。すごく愛している曲です」とSUGAが語っていたように、優しいメロディと歌詞が印象的な楽曲。「俺も変わったように人は変わっていく」、「たくさん傷ついても、苦しくて涙を流してもいい。そうやって生きるのもいいよ」と心境の変化を歌っている。

そして「People Pt.2(feat. IU)」は自分自身の葛藤ではなく、人間関係を描いた一曲だ。コロナ禍で全てを失ったように感じたときに作られたそうだが、「涙が込み上げたら泣いてもいいんだよ あなたはもう愛されるに値しているんだから」という一節に、「People」とはまた違う、SUGAの想いや精神的な成長を感じられる気がする。IUのパートでSUGAが会場にマイクを向けると、ARMYたちの大きな歌声が響き渡った。

SUGAが今回のライブで“三者三様”のストーリーを描いていると確信したのが、VCRだった。デビュー前に実際にSUGAに起きたバイク事故を彷彿とさせるシーンや、「LOVE YOURSELF Highlight Reel ‘起承轉結’」に出てきた「Y.K.」と書かれた懐かしのライター、MVでもたびたび登場する左目に傷のあるSUGAと傷のないSUGAの対立……。

おそらくあのVCRには“SUGA”、“Agust D”、“ミン・ユンギ”が登場しているのだが、それがいったい何を意味するのか、正解はわからない。BTSはいつもこうしてMVやコンセプトムービーなどで私たちARMYに「この謎、解ける?」と難解な問題を出してくる。「こういう意味なのかな?」と、世界中のARMYたちで考察を繰り広げるのもまた楽しいのだ。

暗闇の中差し込んだ“ひと筋の光”

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全身真っ黒コーデだったSUGAが、まるで生まれ変わったかのように真っ白な衣装に着替えてから披露したのは、「Interlude : Shadow」。BTSとしてトップへ登り詰め、誰よりも輝いて見えるが、裏では実は苦しみを抱えている……。そんな彼の心の内を率直に描いた楽曲だ。「頼むから俺を照らさないでくれ 墜落させないでくれ 飛躍させないでくれ もう怖いんだよ」という悲痛な叫びをラップにして、全身全霊でパフォーマンスする。

この曲からの、BTSのラップライン(RM、SUGA、J-HOPE)メドレーは最高に痺れた。会場の盛り上がりも最高潮に達した。歌い終わったあとには「メンバーがいなくてひとりで歌うとすごく寂しいですね……。でも皆さんが一緒に歌ってくれて心強かったです!」と笑顔を見せた。「アミ(ARMY)しか勝たん!」というかわいい日本語も披露してくれ、先ほどまでのかっこよすぎるパフォーマンスとのギャップにクラクラする。「ユンギしか勝たん‼‼」と思わず叫びそうになった。

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BTSのヒット曲「Life Goes On」をSUGAが再解釈して作った楽曲「Life Goes On」はピアノの弾き語りで魅せる。優しく澄んだSUGAの歌声と、会場いっぱいにキラキラ光るアミボムがとても美しい。「時間は流れて誰かは忘れていくだろう」「それでも忘れずに僕を見つけてよ」というフレーズに、またもや泣きそうになってしまった。

そして、ラストソングは自身の壮絶な過去とこれまで体験した怒りを赤裸々に描いている「The Last」。アンコールに持ってくるにはあまりにも重すぎやしないか……! しかし、この楽曲を最後の最後に持ってきてこそ“ミン・ユンギ”という感じがする。超絶暗い歌詞がつづくのだが、「俺のファン達 堂々と顔を上げてくれ 俺ほどの奴なんていないんだから」という、まるで暗闇の中にひと筋の光が差し込んでくるかのような一節がある。

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そしてこの一節は、このライブを通して私たちARMYが改めて感じた“覚悟”だ。いつ7人が再集結するかはわからないし、またいつメンバーが日本に来てライブをしてくれるかもわからない。だけど私たちは、「次、日本で公演をするときは、7人で行います」というSUGAの言葉を信じて、堂々と顔を上げて、その瞬間をいつまでも待っていたい。

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紺野真利子

エンタメ系ライター。俳優、アイドル、声優などのインタビュー記事やK-POP関連のコラムなどを執筆中。

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