アニメ『映像研』にも負けてない!オタクジジイも唸るマンガ版の魅力とは?
1月からNHK総合で放送されているアニメ『映像研には手を出すな!』が好評だ。
そんな評判を受けて2月26日発売の『クイック・ジャパン』vol.148では、原作マンガの著者・大童澄瞳による書き下ろしイラストや、大童やアニメスタッフらのインタビューを収録した「『映像研には手を出すな!』最強の世界は自分たちでつくるのだ!!!」という特集も組んでいます。
ここでは『クイック・ジャパン』vol.148に収録されているマンガ『映像研には手を出すな!』のレビューを、同誌の発売に先駆けてお届けします。
※本記事は、2020年2月26日発売の『クイック・ジャパン』vol.148掲載の記事を転載したものです。
何度でも手を出したい、設定の強度
大童澄瞳の『映像研には手を出すな!』がアニメ化されるとの発表には身を乗り出した。3人の女子高校生が、私欲を合致させて「映像研」を設立し、アニメを制作するマンガだ。アニメを作るマンガがマンガの中のアニメもろともアニメになるとは、興味深い事例だ。もとより作者自身がアニメ制作をかじっており、基礎知識ありきで地道に技術が練磨されていくさまがリアル。だからこそ素人眼に、わかり難い部分もあり、今回のアニメ化はそこが見ものだったが、原作を忠実に生かしつつ、プロの現場側からの的を射た映像解説が加わり、登場人物たちの輪郭はくっきりと浮かび上がり、マンガ愛読者としては、視力が上がってゆくような快感があった。
と、同時に、ここまで磨き上げちゃって、もしや原作マンガのほうが不憫なことになってやしないかと、早々に再読したが、やはり面白い。でもこんなマンガだったっけ。初読時よりも、設定のキメ細やかさが際立って見える。
たとえば、営業気質の守銭奴である金森さやかに視点を置き続ければ、キラーなセリフ満載の、ハードボイルドに変じる。どこかに金森が細い煙草を燻らせているシーンがあった気がするが、そんなものは見つからない。
たとえば、映像研が古いアニメ研究部室から発掘した、ラベルが解読できない旧世代部員のミックステープ。おそらく『宇宙戦艦ヤマト』初回放送と、カルト番組『チンパン探偵ムッシュバラバラ』の主題歌から直録りと想像できる隠れ設定。持ち主はオタク黎明期のエリートだったとプロファイルするが、こういうジジイ殺しの仕掛けが随所に設置されている。
演出家気質で設定狂の浅草みどりを追えば、人の生活が重ねられたところに出現する「空間」への執着に気づく。時を経て奇妙な姿に発展した校舎や街に、絶好の空間を発見してはイメージを広げ、その広がりはマンガのコマには収まらず、見開きページの奔放な図解として現れる。アニメ映えも電子書籍映えもしない、紙の本ならではの映え。最近の映像研が、書店の再建に動き出すなかで、浅草が本を手に取り、綴じられた紙と紙の間に手つかずの空間を発見するのが、入れ子構造の迷路のよう。「『成し遂げること』を目指してはいけない」と朗らかに明言する浅草の思想は、「先行きが見えない」という言葉をネガティブに捉える風潮と真逆のものだ。先行きの見えない空間に期待する、それがこのインドアマンガの冒険活劇っぽさなのだろう。
大童澄瞳『映像研には手を出すな! 5』
2020年1月30日発売 591円(税別) 小学館
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