圧倒的な男社会で「私は女性監督ではなく映画監督」。再評価される至宝の5作品
1975年、『アダプション/ある母と娘の記録』で女性監督初のベルリン国際映画祭最高賞(金熊賞)受賞者となるなど、数々の名作を生み出したメーサーロシュ・マールタ。
金熊賞受賞作をはじめとする初期傑作5作品が、レストア版になって日本で一挙公開となった。
今回は、ハンガリーの至宝、メーサーロシュ・マールタ監督特集をレビューする。
※この記事は『クイック・ジャパン』vol.166掲載のコラムを再編成し、転載したものです。
今、再評価される「女性監督」のオリジネーター
さて誰が言ったか知らないが、言われてみればたしかに感じる「女性監督」という冠言葉へのモヤり。男の場合だと、いちいち「男性監督」とは添えないのでは?
が、その単語は含意として、映画界が“圧倒的な男社会であること”を示してもいるわけで、環境上、死語にならないと消滅はしないのかも。従って「女性監督」と記す際は極力、悪目立ちしないように用いているのだが、当事者の姿勢はもっとストレートだ。たとえば早くから、「私は映画を作る女性ではなく、単に映画監督です」と表明していたメーサーロシュ・マールタ。彼女は世界三大映画祭のひとつ、1975年開催の第25回ベルリン国際映画祭で『アダプション/ある母と娘の記録』が絶賛され、女性として、またハンガリーの監督としても史上初の金熊賞(最高賞)を手にした人だ。
にしては一般化していない名前だろう。言わば「女性監督」のオリジネーターと呼べる存在なのだけれど、でも知らなくて当たり前。これまで日本ではその作品群に光が当たらず、劇場公開される機会もなかったのだ。しかし近年、国際的にも再評価が進み、ついにこうして、貴重な5作品の特集上映が実現した。
では、年代順に紹介していこう。『ドント・クライ プリティ・ガールズ!』(70)は、婚約者がいながらミュージシャンに惹かれ、一緒にツアーバスへと乗り込む女性を描いたもの。このヒロインの一挙一動が緊迫感を煽り、さらにハンガリー独自に発酵したロックやフォークの楽曲が彼女の心理を代弁して全篇を彩る。次が先の『アダプション/ある母と娘の記録』で、不倫している男に「子供が欲しい」と迫る43歳の未亡人が主人公。不意に出会った17歳の少女との絆も紡ぎ、本作は同時代のアニエス・ヴァルダのオールタイム・ベストに入り、現在活躍中のケリー・ライカートも「私の思考を広げうる作品」と評すなど、「女性監督」のバイブルとなっている。
残りの3本はカラー作品で、『ナイン・マンス』(76)は秘密を抱えたギャルの恋と生活に密着、“最後の選択”でのドキュメンタルなショットにはたまげること間違いなし。『マリとユリ』(77)はツラい夫婦関係に苦しむ妻たちの連帯の映画であり、『ふたりの女、ひとつの宿命』(80)は代理出産をめぐる物語──。
91歳のメーサーロシュ・マールタ監督は、今回の特集にこうコメントする。「自由の問題も女性の状況も私が映画を撮ったころからあまり良くはなっていないのですから、これらの作品はきっと、今の時代にも有効でしょう」。
そう。まったくもって彼女の言う通りなのだ!
『メーサーロシュ・マールタ監督特集』
監督:メーサーロシュ・マールタ
配給:東映ビデオ
5月26日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次公開
(C)National Film Institute Hungary - Film Archive
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