極楽とんぼを介して受け継いだ“TBSラジオの教え”
宮嵜が最初に『JUNK』の枠でディレクターを担当したのは『極楽とんぼの吠え魂』。極楽とんぼの威圧感にビビりながらも、ふたりからCMに入るタイミング、ロケ音源を作る際の注意点、中継企画の進め方など、ディレクターという仕事の肝になる部分を叩き込まれた。
実際は加藤浩次が山本圭壱に文句を言っていただけのこともあったが、宮嵜は間接的に自分に向けられた言葉だと受け止め、ラジオと向き合う姿勢を作り上げていく。ここで身につけた技術や考え方がのちの『JUNK』に活きてくるのだが、対談の中で、このときに宮嵜が学んだことは、極楽とんぼが前任のディレクターたちに教わったものだったと明らかになる。
結果的に極楽とんぼを介して受け継いだTBSラジオの教えを、宮嵜はおぎやはぎやバナナマンの番組で実践していく。そこには伊集院光や爆笑問題から教わったことも、山里亮太と向き合って気づいたこともプラスされる。試行錯誤しながら、時間をかけて育まれた技術やラジオ観を、かつての極楽とんぼがそうだったように、今度は宮嵜がアルコ&ピースやハライチ、後輩のスタッフにたちに伝えていく。さらに下の世代にあたるパンサー向井やヒコロヒーが新たな一歩を踏み出すときには助言もしていく。
その過程で起こった事件や詳細なやりとりは本書を読んで確認していただきたい。“ラジオの伝統”というと大げさ過ぎる気もするが、パーソナリティとスタッフのキャッチボールによって紡がれていく“ラジオの流儀”は歴史を掘り下げるのが好きなマニアにとってとにかく興味深い部分だ。普段めったに語られない裏話だが、TBSラジオらしさ、JUNKらしさにも通じる部分だろう。
ラジオじゃないと届かない?
「今はradikoのアプリがあるから、スマホの中にラジオが1台ずつあるのと変わらない。でも、スマホの中にはNetflixもYouTubeも他の音声アプリもある。普通に考えたら、ラジオは選ばれないと思うけれど、なぜそれでもみんなラジオを聴いているのだろうか?」
宮嵜はその問いかけを対談した芸人たちにぶつけていく。ああでもない、こうでもないと語り合いながら、宮嵜が自分なりの考えをまとめていくのが『ラジオじゃないと届かない』のテーマのひとつになっている。
芸人たちから返ってきた答えは十人十色だ。ただ、ほかのインタビューと違うのは、宮嵜が質問しているという部分。スタッフとパーソナリティという関係性があるからこそ、芸人たちは普段以上に深く熱のこもった言葉で語ってくれている。
『ラジオじゃないと届かない』というタイトルからはまっすぐで力強いメッセージ性を感じる。だが、読み進めていくと、そこに隠された宮嵜らしい、そしてラジオらしいニュアンスが見えてくるはずだ。
深夜ラジオを聴きながら放送局の情景を思い浮かべるとき、以前の私はラジオのブースだけを想像していた。そういうリスナーは多いだろう。中にいるのはパーソナリティと構成作家ぐらい。そこだけが“秘密基地”であり、“放課後の部室”であって、ディレクターやADたちが仕事をしているサブと呼ばれる副調整室の様子はモヤがかかり、かなり漠然としていた。
しかし、この本を読み終えたとき、サブにいるスタッフたちの細かな動きや表情、さらには気持ちまでがありありと思い浮かぶようになった。これから本を手に取る読者も同じような感覚になっていただけると思う。頭の中にあるラジオブースに奥行きができて、ラジオを聴くのがさらに楽しくなるはずだ。