テレ東P・佐久間宣行は中年深夜ラジオリスナーにとって最後の“兄貴”である

2020.2.19


佐久間宣行は紛れもなく深夜の“兄貴”である!

アラフォー深夜リスナーの事情が少々複雑なのは、さきほど挙げた“卒業”するタイミングを逸したことが大きい。もう少し年齢が上だと、ビートたけしやとんねるずが深夜ラジオを去ったタイミングでひとつの区切りができた。しかし、アラフォー世代が開始当初から聴いてきた伊集院光、爆笑問題、ナインティナイン(岡村隆史)の番組は幸運にも現在までつづいている。

同時にこの期間で「深夜ラジオ=若者向け」という図式も形骸化。深夜ラジオから“卒業”する理由がなくなり、喜び勇んで5年、10年と“留年”するリスナーが続出したのである。リスナーが卒業せずに深夜帯に踏みとどまり、反対にパーソナリティや番組枠だけが変化していくという逆転現象が起きたのはアラフォー世代からである。

留年を繰り返すことで、かつては数年で失っていた深夜ラジオの“兄貴”という存在を、この世代は20年以上も持ちつづけることができた。次々と新しい“兄貴”に出会うことができた。深夜ラジオを知らない人にとって「真夜中に“留年”したオジサンリスナーがオジサンパーソナリティを兄貴扱いする」のはとても不気味に映るかもしれないが、ずっと充実したラジオライフを送り、年上のパーソナリティから刺激を受けつづけてきたのは紛れもない事実である。

しかし、そんな時間もいつかは終わる。長寿番組が常につづいていることであまり意識しないできたが、いつの間にか新たに始まる深夜ラジオのパーソナリティは同世代が中心になり、今や年下ばかりになった。年上の新しいパーソナリティが誕生する機会がめっきり減ってしまったのだ。長寿番組を聴きつづけていると、自分の思い出ともリンクして、パーソナリティとの距離は縮まり、生活の一部になっていくが、新しい出会いは不安定な分、特に刺激的だ。もう新番組で“兄貴”と会うことはないのではないか。そんな喪失感を覚えたときに始まったのが『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』だった。

佐久間宣行は学生時代からのラジオ好きで、「オールナイトニッポンに携わりたい」という思いから、そもそも就職活動でもニッポン放送が第一志望だった男(3次面接で脱落)。それゆえに、深夜ラジオのパーソナリティになった喜びが番組全体からあふれていた。タイトルコールで喜び、リスナーからメールで突っ込まれても喜び、番組中に機材トラブルが起きても喜ぶ。毎週語られるテレビ業界の裏側やさまざまな‪エンターテインメントの魅力は刺激的だが、何よりリスナーの心に刺さったのは、そんな「楽しそうにラジオと向き合う姿」。そこから「仕事もプライベートも目一杯楽しむ」という姿勢が大切なのだと改めて確認することができた。

パーソナリティもリスナーもオジサンだったが、紛れもなく佐久間宣行は深夜の“兄貴”だった。そんな気持ちは中年リスナーだけでなく、今の学生リスナーも同じかもしれない。

もちろん同じ時間帯を担当するCreepy Nutsや霜降り明星といった20代のパーソナリティからも刺激は受ける。ただ、年上のパーソナリティから感じるそれとは絶対的に違うのだ。どちらがいいか、という話ではない。あまりにも年上から刺激を受けるという形に慣れ親しみすぎたのだ。

もうすぐ春の改編期がやってくる。『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』が継続するのか終了するのか。どちらになるのかは知る由もないが、自分でも驚くほど「もうこの番組を最後に新しい“兄貴”と出会うことはないだろうな」という喪失感はある。「“留年”生活が終わり、ラジオとの向き合い方が変わってしまうのではないか」という予感すらある。

オールナイトニッポンがつづく、別の時間帯で番組を持つ、ラジオから離れてテレビのプロデューサーに専念する……。さまざまな可能性が考えられるが、もう少しだけでもいいから、“最後の兄貴”との関係を保ち続けたい。傍から見れば滑稽に映るかもしれないが、それがいち中年リスナーの密かな願いだ。


この記事が掲載されているカテゴリ

村上謙三久_プロフィール

Written by

村上謙三久

(むらかみ・けんさく)編集者、ライター。1978年生まれ。プロレス、ラジオ関連を中心に活動。『声優ラジオの時間』『お笑いラジオの時間』(綜合図書)の編集長を務め、著書に『深夜のラジオっ子』(筑摩書房)、『声優ラジオ“愛”史 声優とラジオの50年』(辰巳出版)がある。

CONTRIBUTOR

QJWeb今月の執筆陣

酔いどれ燻し銀コラムが話題

お笑い芸人

薄幸(納言)

「金借り」哲学を説くピン芸人

お笑い芸人

岡野陽一

“ラジオ変態”の女子高生

タレント・女優

奥森皐月

ドイツ公共テレビプロデューサー

翻訳・通訳・よろず物書き業

マライ・メントライン

毎日更新「きのうのテレビ」

テレビっ子ライター

てれびのスキマ

7ORDER/FLATLAND

アーティスト・モデル

森⽥美勇⼈

ケモノバカ一代

ライター・書評家

豊崎由美

VTuber記事を連載中

道民ライター

たまごまご

ホフディランのボーカルであり、カレーマニア

ミュージシャン

小宮山雄飛

俳優の魅力に迫る「告白的男優論」

ライター、ノベライザー、映画批評家

相田冬二

お笑い・音楽・ドラマの「感想」連載

ブロガー

かんそう

若手コント職人

お笑い芸人

加賀 翔(かが屋)

『キングオブコント2021』ファイナリスト

お笑い芸人

林田洋平(ザ・マミィ)

2023年に解散予定

"楽器を持たないパンクバンド"

セントチヒロ・チッチ(BiSH)

ドラマやバラエティでも活躍する“げんじぶ”メンバー

ボーカルダンスグループ

長野凌大(原因は自分にある。)

「お笑いクイズランド」連載中

お笑い芸人

仲嶺 巧(三日月マンハッタン)

“永遠に中学生”エビ中メンバー

アイドル

中山莉子(私立恵比寿中学)
ふっとう茶☆そそぐ子ちゃん(ランジャタイ国崎和也)
竹中夏海
でか美ちゃん
藤津亮太

QJWebはほぼ毎日更新
新着・人気記事をお知らせします。