また明日(ランジャタイ国崎)


お笑いコンビ・ランジャタイの国崎和也が、徒然なるままにコラムを執筆。本連載での名義は「ふっとう茶☆そそぐ子ちゃん」です。

しゃべり戦

「お母さんありがとうね」

笑いながら話すとしさんとのトークライブは、
大いに盛り上がった。

ずっと笑っていたと思う。

ひたすらに話すとしさんを隣で見ていると、
人生を見ているようだった。

モダンタイムスとしみつさんと、
昔から開催しているトークライブ『しゃべり戦』。

もう何年も前からずっとやってきて、最初の会場は「ハイライフプラザいたばし」という施設の、完全なる会議室でひっそりと開催して、受付はとしさんと自分の2人。

ライブに出る本人たちが
「いらっしゃいませ〜」と受付にいるので、
お客さんがギョッとしていたのを覚えている。

ここで開場中に、90年代ベストメドレーを携帯から流していた。
並んでるお客さんたちを受付していると、いろんな曲が15秒くらい間隔で流れるのと、お客さん1人の対応時間もそれくらいなので、ちょうどよく次のお客さんが来たら次の曲も流れてきて、その人のテーマソングに見えてくるのだ。
さらに、入り口からお客さんが来るのと、曲のタイミングが相まって、ちょっとしたMステみたいだった。

そんなことをポロッととしさんに話すと、

「お客さんを面白おかしくそんな目で見るな。
真面目にやれよォお前〜!」

と言われた。

そうだな、受付は真面目にやらなきゃな…!
そう思っていたら、
としさんはとしさんで、なにやらしている。

よく見ると、別売りで
自分たちモダンタイムスのグッズを1000円で売り、このトークライブとはまったく関係ない販売をして、お客さんからお金を貰っている。

としみつ「ありがとうございます〜…!」

お客さんから貰った1000円を、見たことない緑色の封筒に入れている。

「としさん、このライブと関係ないやつじゃないすか!」

そう言うと、

「いいから、いいから..」

と、

また緑色の封筒に1000円を入れる。

「いいから、いいから…」

「何がいいんですか、ねえ!」

「いいから、いいから。大丈夫だから…」



まったく、よくなかった。

そんなトークライブ、『しゃべり戦』。

久しぶりの開催で、場所は新宿のナルゲキという劇場でやらせて頂いた。

会場のキャパは、148席もあるという。

あの、板橋の会議室の机を2人でずらして、
イスを並べて、30人埋まれば万々歳の頃から比べたら、
とても恵まれている環境になった。

そう思いながら会場について、
しばらく楽屋でボーっとしていると、スタッフさんが慌て出した。

そういえば、としさんがまだ来ていないという。

開演は17時半。
今、17時15分。


珍しい。
としさんは、いつもなら自分より早く、開演1時間前くらいには到着しているのだ。
やべー、とか、何話そ〜!とか、地下の話しかねえな今日〜!とか、あわあわ言うのだ。

スタッフさんが
どうしましょう!?と
としさんに電話をかけ、

「最悪、1人でもいいですよ〜、アハハ」

と笑っているうちに、いよいよ時間が迫ってきた。

『これ2人ともライブ出なかったら面白いな〜』
『でもなあ、お客さん怒るだろうなあ〜』
『まいっか〜!』

そう考えていると、バタバタ足音が近づいてきた。

「すんません、ごめんなさいごめんなさいっ」

としさんがやってきた。

「いやーギリギリ!すみませんあぶねぇ〜」

開演間近だった。

「間に合いましたねとしさん!」

「おぉ、あぶねえ、何分前??」

「もうすぐ開演ですよ!」

「そうだよな、あぶねぇ〜どうすっかな」

としさんがバタバタ着替えていると、スタッフさんがやってきた。

スタッフさん「大丈夫ですか?行けます?」

「としさん、大丈夫です??」

「おお、おお、いけるよ」

開演に向けて音楽が変わる。

としさんと2人で舞台に向かう。

ふと、袖に向かうとしさんに、

「ギリギリでしたね〜!どうしました?」

なんとなく聞いてみた。

「ああ、いやさ、」

するととしさんは

「俺、母ちゃん死んだんだよ。」


続けて、

「昨日葬式で、雪降って、ギリギリ帰ってきて」

「え」

「そんで、 今。」

開演の音が大きくなっていく。

この人は、お母さんが亡くなって

今 舞台なのだ。

「としさん、昨日本田らいだ〜△も差押えにあったんですよ!」

「一緒にすんなよォ、お前そのメール送ってきた時俺母ちゃんの骨拾ってたんだよ」

「ははは!だから返信なかったんですね、あれ!」

「すげームカついたわ!」

開演の音が最大になる

舞台が明るく、照らされる

「としさん!これネタになりますよ!オープニングトークで話しましょうよ!ね!」

「バカふざけんなよぉ!」

そして、

「こっちは母ちゃん死んでんだよ!」

そう言って、舞台に向かって行った。

どこまでも、芸人だった。

それはそれは不思議な感覚で、

大きな拍手で迎え入れられ、大勢のお客さんの前に
としさんが立っている。

今どんな気持ちで立っているのか、
なんて言うんだろうこの人とか、

ひたすらにとしさんの背中を見ていた。

開口一番で、いやー遅れてすみませんね、と
としさんが言ってきた。

「としさん、ほんとですよー、こっちは焦りましたよ〜!昨日から連絡ないんですもん。僕が昨日本田らいだ〜△と映画に行ってた時から」

「のっけから誰なんだよ本田らいだ〜△ってよォ」

「あなたと僕の友人じゃないですか!そんで映画の後は、本田らいだ〜△がステーキを奢ってくれるっていうから、高いレストランに入ったんですよ」

「誰がわかるんだよ本田らいだ〜△ってよォ、すみませんねお客さん」

「ステーキが本当に美味しくて、映画も最高だったしで、もう大満足。ちょっと、僕トイレに行って」

「はいはい、」

「帰ってきたら、本田らいだ〜△が頭抱えてて、全然元気ないんですよ」

「あら、おかしいじゃない」

「そしたらなんと本田らいだ〜△さん、
『差押え』にあってたんですよ。信じられます!?このトイレの間に!口座の金、ゴッソリいかれてて!!あの歳で!」

「キツイなあー、43歳。本田らいだ〜△」

「あまりにミラクルだったんで、その場で動画で撮って、としさんに送ったんですよ。そしたら、そのとしさんから全然返事がないの!」

ここで、としさんと目が合った。

お互い、やることは決まっていた。

「そりゃそうだろ!」

「なんでですか!としさん!」


「こっちは母ちゃん死んでんだよ!」

「あはは!」

瞬間、

『ドオオオオオ』と、

悲鳴と、とまどい笑いがやってくる。

「骨拾ってる真っ只中にそのメール来て、
すげームカついたわ!」

差押えどころじゃねんだよこっちは!母ちゃん死んでんだこっちは、本田らいだ〜△ってなんなんだよ!
骨拾ってんだよ!それどころじゃねぇんだよ、

「母ちゃん死んでんだよこっちは!」

『ドカーン!』

笑いになっていく。

としさんだから笑える。

普通、
母親が死にました!ドカーン!と
ウケることなんかない。
とんでもないことだ。

さらに、空いた席めがけて
お母ちゃん見に来てるかもしれないなあと、

「お母さんありがとねー!」

と手を振って、

「成仏して〜!!」

と笑っている。

人生を見ているようだった。
お笑いはこうでなくっちゃ。
を体現していた。

それからはノンストップで話し続け、ずっと会場を沸かせては、「しんちゃんず」や「しゃばぞう」の話をし続けて、爆笑をとっていた。

どんどん盛り上がる会場、みんなもうお母さんのことを忘れているように笑った。

最後には空いた席めがけて
「お母さん売れてなくてごめんねェ」
の哀愁よろしく、暗転した。

ライブが終わって、楽屋に戻ると


「打ち上げ行くか〜!どっかある?」

とはしゃいでいる。

居酒屋に入って、合コンしている集団の隣で、
2人で飲んだ。

あっちはワイワイガヤガヤ楽しそうにしている中、

おじさんが、

「お母ちゃん死んで、何が本田らいだ〜△の差押えだよ。骨拾ってるからこっちは!なあ?」

まだ言っている。

「としさん、葬式の時、ネタとか考えました?」

聞いてみたいことがあった。

「おお、それなあ。それが葬式の最中、
面白いネタの設定、浮かんで、さ。」

嬉しくなった。
自分も似たような経験があるからだ。

「ですよね!どんなです?」

「これがさあ〜〇〇が、〇〇してて、そんで」

「はははは!面白いすねソレ!」

それからカラオケに行った。

「いいか?俺母ちゃん死んでんだ。
お母ちゃんを連想させる曲、歌ってくれよ。」

リクエストは、『お母さんを連想する曲』

そう言われたので、題名も
あんまり知らない曲を入れて、
全然歌えないまま、フガフガ歌った。

「なんなんだよこれよォ!お母ちゃん出てこねえんだよそれじゃあよォ、誰の曲なんだよコレよぉ」

楽しくなってきた。

「お母ちゃん死んでんだよォ、『ふるさと』も思い出させてくれる曲、歌ってくれよォ」

『ふるさとを思い出す』が追加された。

しばらくして、
マツモトクラブさんも駆けつけてくれた。
上野で飲んでたところを、事情を知りすぐ駆けつけてくれる色男。

「聞かせてくれよマツクラ、お母ちゃん死んでんだよこっちは」

リクエストは、
『母を連想できて、ふるさとも思い出せる曲』

マツクラさんは、『涙そうそう』を熱唱していた。

めっちゃくちゃによかった。
マツクラさんの声と『涙そうそう』で、ダイレクトに心に響いた。

「いいねぇ。マツクラ、いいんだけど、なんか、こう、なあ〜…」

としさんが、うーんと言いだした。

「女っ気がねえなあ。女の子の声聞きたいのよ、
こっちは。母ちゃん死んでんのよ」

母ちゃんが死んで、女っ気がなくなったと言いだした。

「母ちゃん死んでんのよこっちは」

午前4時。
母ちゃん死んで、女っ気がなくなった。

マツクラさんが、
知り合いに、手当たり次第連絡している。

結果。

納言みゆき「オイッス〜!」

何も知らずに、納言みゆきがカラオケにやってきた。

午前4時でも飲みにくる女、納言みゆき。

何も知らない彼女に、としさんが開口一番

「みゆきちゃん、俺お母さん死んでんのよ。
一曲歌ってよ」

「マジっすか〜…アハハ!!」

みゆきちゃんが、
「アハハ!」と手を叩いて笑っている。

「大変ですねえ〜としさん!飲みましょう〜!」

なんて豪快な女なんだ。
としさんの悲しいお知らせに、
手を叩いて笑っている。

「みゆきちゃん聞かせてよ、みゆきちゃんの歌で泣きたいのよ俺は」

としさんが真面目な顔になる。

「お母さんを連想させて、ふるさとを思い出すような歌、聞きたいのよ俺は」

「まかせて下さい。ワタシ、心を込めて歌います」

みゆきちゃんがデンモクに曲を入れる

『ピピピピ ピッ。』

     丸の内サディスティック

     作詞・作曲  椎名林檎

報酬は入社後並行線で
東京は愛せど何も無い

リッケン620頂戴
19万も持って居ない 御茶の水

マーシャルの匂いで飛んじゃって大変さ
毎晩絶頂に達して居るだけ
ラット1つを商売道具にしているさ
そしたらベンジーが肺に映ってトリップ

最近は銀座で警官ごっこ
国境は越えても盛者必衰

領収書を書いて頂戴
税理士なんて就いて居ない 後楽園

将来僧に成って結婚して欲しい
毎晩寝具で遊戯するだけ
ピザ屋の彼女になってみたい
そしたらベンジー、あたしをグレッチで殴って

青 噛んで熟って頂戴
終電で帰るってば 池袋

マーシャルの匂いで飛んじゃって大変さ
毎晩絶頂に達して居るだけ
ラット1つを商売道具にしているさ
そしたらベンジーが肺に映ってトリップ

将来僧に成って結婚して欲しい
毎晩寝具で遊戯するだけ
ピザ屋の彼女になってみたい
そしたらベンジー、あたしをグレッチで殴って

「何言ってんだよぉ〜!お前よぉ〜!!!」

としさんが突っ込んで、全員で、笑った。

みゆき「そしたらベンジー、あたしをグレッチで殴って♫」

としみつ「誰なんだよベンジーってよォー」

みゆき「ピザ屋の彼女になってみたい♬」

としみつ「勝手になってくれよ、母ちゃん出てこねえじゃねえかよォ〜!」

みゆき「将来僧に成って結婚して欲しい♫」

としみつ「なんなんだよお前よぉ〜」

みゆき「そしたらベンジー、あたしをグレッチで殴って♫」

としみつ「誰なんだよベンジーってよォー!
母ちゃん死んでんだよ こっちは!」

ひっどいカラオケだった。

それでも皆、としさんのために歌っていた。

マツクラさんなんか、特にだ。
上野から、タクシーに乗ってまで来てくれた。
としさんのために、心から熱唱してくれた。

何度も何度も、としさんに届け!と、
いろんな曲を、心を込めて歌っていた。

僕は目頭が熱くなり、としさんを見ると、

画像

爆睡していた。

それを見たマツクラさんは、

以降

自分の好きな歌を、ただ歌っていた。

ミスチルとか、サザンとか、歌っていた。

どうしようもない日々の、
どうしようもない1日だった。

としさんは居酒屋で、

「お前も俺も、芸人から逃げられないぞ。」

と言っていた。

いつかはやってくる、何かがある日に。

どう芸人でいるか。


「バカしょうもねえ会だったな、来て損したわ」


カラオケの帰り

としさんは、ふらふらしながら、教えてくれる。

どう芸人でいるか。

ふらふらしながら、教えてくれる。

きっと明日も、芸人でいる。

芸人でいる。

明日がやってくる。

さーて!
いきなりですが、
あたくしはそろそろドロンさせていただこうと思います〜!

ひぃいぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃいいいぃぃいいいいいぃいいぃいいいいい
ヒャッほーーーーーーー!!!!!!!!

前にも言いましたが、
芸人はだいたいがどうしようもない連中で、
『働きたくない』をモットーにやっております。

今日もいたるところで、どこかの劇場で、
芸人たちは生きています。

毎日、芸人たちは、いろんなトークやギャグや、
ジョークを飛ばしています。

もちろん、スベる芸人もいます。

中には、芸人を辞めないといけないくらいスベる芸人もいます。

でも、彼らは辞めません。

みんな、「働きたくない」からです。

働いて、ミスして怒られたりするのが嫌だからです。

朝早く起きるのが、嫌だからです。

しかし、「それは違う!」とみんな声を大にして言います。

「夢がある!」「お客さんを笑顔にしたい!」「賞レースの決勝に行きたい!」「面白いことをやりたいだけだ!」

「命をかけているんだ…!!!」

しかし、その人たちと仲良くなって、居酒屋などに行き、深い話になると
だいたい皆さん、小さな声で、

「働きたくない…」

と、言います。


そうです。

根にあるのは間違いなく、

『働きたくない』

でございます。

楽しいことがある方向に行く。

花火があがると目の前で確かめたい。

お金や酒の匂いがあるとすぐ近づいていく。

女の子や噂話には飛びつく。

とにかく笑っていたい。

屁をこいて、わーっ!!と逃げる。

どうしようもない

とうしようもない連中の、集まり✨

アハハの、ハ!!!!

ハのハの、アハハ!!

ハハハの、ハ!!!!

さぁて最後は!
差押えられた瞬間の
本田らいだ〜△でお別れしましょう〜!!!!
それでは皆さま、ごきげんよう〜!
また会う日まで〜!!!

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