平野紫耀が生み出すエキサイティングな“沈黙”
では、平野はいかにして、この【臨場】と【真剣】を放出しているのか。
第二に触れなければいけないのは、【沈黙】の醸成である。
黙して語らず。古今東西、多くの演じ手たちが【沈黙】を武器に、画面を持続させてきた。演じるとは、セリフを口にすることではなく、いかに黙ったまま、映像の中に存在できるか、である。
寡黙な表情に、雄弁な背中。たとえば、そんな陳腐なクリシェ(紋切り型)で、男の美学とやらがもてはやされてきたが、そのようなありきたりの【沈黙】ではない。
平野紫耀は、躍動的な【沈黙】をかたちにする。それは、いきいきとした【沈黙】、じっとしていられない【沈黙】である。
これまで私たちは【沈黙】を静謐なものとして、あるいは聖性を感じさせるものとして、捉えてきた。いや、それを信じて疑わなかったと言ってもいい。
だが、平野が果敢に繰り出すのは、ボクシングにおけるジャブのような【沈黙】である。
長ゼリフのときは、自分語りの中に【沈黙】を紛れ込ませる。感情を溜め込む、わけではない。そんな、もっともらしい素振りから離れたところに、平野の運動としての【沈黙】はある。
そう、【沈黙】とは運動なのだ。
次に何が起きるか。その予感としての【沈黙】を、予兆としての【沈黙】を、平野は忍ばせる。
もちろん、対話の中でも積極的に、この【沈黙】は姿を現す。あるときは時間が停止し、あるときは空間がズラされ、あるときは時空が歪む。それをあくまでもファニーに、どこまでもカジュアルに行う。
構えたところが、まるでない。
無造作に、無頓着に、無防備に、その【沈黙】はやってくる。
平野特有のハスキーな、少しチャイルディッシュなあのボイスが、このオリジナルな【沈黙】を後方支援している。
【沈黙】とは、声の不在であるだけでなく、声の残像であることを彼は知り抜いている。
来るべき声を、待ち受ける【沈黙】。それを絶妙なタイミングで、時間に練り込んでくる。丹念に、精緻に、慎重に、妥協なく。
縦横無尽に飛び回る【沈黙】が、演技の場を活性化する。
そこで呼び込まれるのは、緊張ではなく、躍動だ。演じ者同士の生命たちが、あの【沈黙】によって乱舞する。
だから、観ていておもしろい。とにかくエキサイティングなのだ。
景気のいい【沈黙】!
そんなものを私たちは、かつて、見たことがあっただろうか。
これは自然発生しているものではない。平野紫耀が、人為的に、生み落としている【沈黙】なのだ。
平野紫耀に“揺さぶられる”快感
最後に、【揺らぎ】を挙げておきたい。
この俳優の決め技のひとつに、顔を揺らしながら話す、どきどきするような接近戦がある。遠近感が歪むと形容すればいいだろうか。
ここぞ、というときに、このテクニックは駆使されるのだが、微かにして最大限の効果をもたらす。
考えてみれば、通常、人は顔を揺らしながら話したりはしない。酒に酔って饒舌になったときなどそのような癖が出現したりもするが、大人は、だいたいあまり頭部を動かさずに話すものだ。
取り分け、映像フィクションの場合、プロフェッショナルな役者によって構築された人物は、主に静止した状態で会話している。画面に、安定感が必要だからだ。
ところが、平野紫耀は、肝心なときほど、顔を仄かに揺らし、攪乱する。
相手を、ではない。
映像を、そして、見つめている私たちを攪乱する。
カメラは平野の動きに吸い寄せられ、私たちの視線も吸い込まれる。【揺らぎ】によって眼差しが集中し、対象を拡大し、遠近感が迷子になる。
だから、どきどきするのだ。
だが、不安になることはない。
そこにあるのは、【揺さぶられる】快感にほかならない。
世界でたったひとつの芸術
固定化された人物像を、硬質な揺るぎない佇まいで、感情の起伏も豊かに表現する。もしそれが、演技だと信じられているのだとすれば、平野紫耀は、その対極の場所で演じている。
【臨場】を、【沈黙】と【揺らぎ】で炙り出す。
それは感情芝居ではないし、感覚芝居でもない。主人公に成り切ったり、人物を解釈するのとはまったく別の、【新種のときめき】が、そこにはある。私たちは、その【ときめき】を通して感情を発見したり、感覚を見出したりする。
平野紫耀は、感情も、感覚も、否定していない。しかし、感情にも、感覚にも、縛られていない。彼は、多様で、多彩で、自由だ。
演技とは、見つめるに値する、計り知れなく、果てのない、何かだ。私たちは、生まれて初めて、演技というものに出逢うように、彼を見つめる。
平野紫耀は唯一無二、世界でたったひとつの芸術だ。
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