『THE W』決勝直前!「おもしろいのにもったいない」世間の低評価を覆す“究極の多様性”とは

2022.12.10

文=ラリー遠田 編集=高橋千里


いよいよ今日、12月10日(土)午後7時から日本テレビにて生放送される『女芸人No.1決定戦 THE W 2022』(以下『THE W』)決勝戦。

Aマッソ、エルフ、河邑ミク、さとなかほがらか、スパイク、TEAM BANANA、天才ピアニスト、にぼしいわし、フタリシズカかりこる、紅しょうが、ヨネダ2000、爛々の12組が決勝進出を決めた。

今年はどのような盛り上がりを見せるのか。お笑い評論家・ラリー遠田が、決勝直前にチェックしたい本大会の注目ポイントを紹介する。


主婦TikTokerから市役所職員まで!『THE W』予選は“多様性”の塊

最初に言っておくと、私は『THE W』に対する世間の評価の低さに不満がある。

後発の大会であるという点を差し引いても、『M-1グランプリ』や『キングオブコント』に比べると、どうも盛り上がりに欠ける感じがする。単純に、こんなにおもしろいのにもったいないな、と思う。

そう、『THE W』はおもしろい。特に、観客を入れてライブとして行われている準決勝は、お笑い好きなら誰もが一度は観ておいたほうがいい、と断言できるくらいおもしろい。

何がおもしろいのかというと、とにかく出場者のキャラクターやネタの種類が豊富なのだ。あらゆるお笑いの現場の中で、最も「多様性」を感じられるのが『THE W』の予選である。

ここでは、プロとして活動する芸人だけではなく、さまざまな職業、経歴、芸風の人たちがしのぎを削っている。その中には、ほかのネタ番組やお笑いライブではあまり見かけないような人たちもいる。

妙に舞台慣れしていて発声も演技もできているが芸人っぽくない役者やアイドル上がりの人もいれば、子育て主婦の人気TikTokerもいたりする。過去には市役所職員の押しだしましょう子が決勝に上がったこともあった。

こういう人材をすべて受け入れるのが『THE W』という器の大きさなのだ。

芸人を“性別”で区切ることは必要なのか?

『THE W』という大会が参加資格を「女性」に限っていることには議論の余地がある。

ほかのお笑いコンテストには性別の規定はなく、男性でも女性でも出場することができる。そもそも人を笑わせる能力には男女差はないと考えられる。

スポーツの場合、生まれつきの筋肉量などに差があるので、大会の出場者を性別で区切ることに一定の合理性があるが、お笑いにそれは必要なのか。

これは本当に難しい論点を含んでおり、ここを深入りするのは本稿の主旨とするところではない。

個人的には、そういうところも含めて、議論を喚起するような新しい試みが行われること自体は興味深いと思っているし、後発のお笑いコンテストを行う上でのひとつのアプローチとして納得はしている。


『THE W』は「女性芸人の多様なおもしろいネタをたくさん観られる番組」

それよりも『THE W』の本当におもしろいところは、参加資格を性別で限定する一方で、それ以外には一切の規定を設けていないところだ。

だから、アマチュアが参加できるのはもちろん、漫才、コント、ピン芸、落語、歌ネタ、音ネタなど、ネタの形式はなんでもあり。認められる芸の幅が恐ろしく広い。

それを象徴していたのが、Aマッソが過去に決勝で見せた「プロジェクションマッピング漫才」である。

Aマッソ
Aマッソ

彼女たちは、巨大なスクリーンを背景にして、映像と音を駆使して派手に演出された漫才を演じていた。これは漫才でもなくコントでもない、ジャンル分け不能のネタだった。『M-1』でも『キングオブコント』でもこのネタはできない。『THE W』でしか観られない珍品だった。

一方、この多様性こそが『THE W』の欠点ともいえる。審査する側にとっては悩ましい局面が多い。性質の違う芸を、横並びで評価しなければいけないからだ。

また、観るほうとしても、競技としてやや観づらいし、純粋に勝負を楽しみづらい部分もある。『THE W』が今ひとつ盛り上がらないといわれることが多いのは、こういう構造的な弱みもあるのではないかと思う。

さらにいえば、同じ12月の開催ということで、どうしても『M-1』と比較されがちだ。

同時期の『M-1』で準決勝や準々決勝で落ちているような芸人が、『THE W』では決勝に残ったりすることがあると、半可通から「『THE W』のほうがレベルが低い」などと言われる余地を与えてしまうことになる。

比較せざるを得ない状況を作っていることで、比較され、下に見られてしまう。無理もないことだが、すべてのお笑いコンテストが『M-1』を目指す必要はないし、『M-1』のようになる必要もないのではないかと思う。

『THE W』は、単純に「女性芸人の多様なおもしろいネタをたくさん観られるネタ番組」と考えればいいのではないか。それをゴールデンタイムの生放送でやるというのは、今のテレビの中ではなかなか挑戦的な企画であるともいえる。

決勝進出者12組をマンガにたとえると「全員の作者が違う」

今年の決勝に進んだのは、Aマッソ、エルフ、河邑ミク、さとなかほがらか、スパイク、TEAM BANANA、天才ピアニスト、にぼしいわし、フタリシズカかりこる、紅しょうが、ヨネダ2000、爛々の12組である。

「女性」としても「芸人」としても実に多様性のある顔ぶれがそろった。彼女たちをマンガのキャラにたとえるなら、全員の作者が違う感じがする。

『THE W』も回を重ねて、決勝経験者がどんどん増えていて、常連の風格が漂う人も出てきている。Aマッソ、TEAM BANANA、スパイク、にぼしいわしは3回目の決勝進出であり、紅しょうがに至っては4回目になる。この常連組はそろそろ優勝を決めたいと焦りを感じているだろう。

にぼしいわし
にぼしいわし
紅しょうが
紅しょうが

一方、昨年準優勝の天才ピアニスト、今年の『M-1』でも決勝進出を決めたヨネダ2000、バラエティ番組でも活躍中のエルフは、まさに乗りに乗っている時期であり、この勢いのまま栄冠を手にしたいと思っているに違いない。

天才ピアニスト
天才ピアニスト
ヨネダ2000
ヨネダ2000
エルフ
エルフ

「ライバルは松岡茉優」と公言する自他共に認める美女芸人の河邑ミク、不気味な存在感を漂わせる関西の注目株・爛々も、業界内では実力者として知られる存在だ。

準決勝でも文句なしの爆笑を起こしていたフタリシズカかりこる、さとなかほがらかは、今大会のダークホースである。

究極の「なんでもあり」の大会である『女芸人No.1決定戦 THE W 2022』を制する新女王は誰なのか。楽しみで仕方がない。


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ラリー遠田

(らりー・とおだ)1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わ..

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