『M-1グランプリ2022』納言・薄幸が見た、密着カメラも届かない本当の舞台裏<酔いどれコラム#18>


年々盛り上がりを増す『M-1グランプリ』。
準々決勝ともなれば、進出したすべてのコンビが注目されることは必然。
いいか悪いかはさておき、近頃は“おもしろい”の裏側が観れるアナザーストーリーもひとつの見どころとなっている。

今回は、密着カメラすらも届かない、(ちょっぴり切ない)芸人の舞台裏を幸さんが教えてくれました。


アナザー・アナザーストーリー

『M-1グランプリ』の影響はえげつない。

私は2017年から納言として『M-1グランプリ』に出場している。
翌年2018年、私たちは準々決勝で敗退した。
敗退したくせに、翌年はバイトをせずにお笑いだけで飯を食う事が出来る様になった。
これは、完全に予選のGYAO!配信のおかげ。

決勝にも行ってないのに仕事が増える『M-1グランプリ』は本当にエグい大会だと思う。
2017年から出場し、今年で6年目。
2017年は二回戦で敗退し、2018年から今年2022年まで、全て準々決勝で敗退。
準々落ち5年目。
準々落ち、大好きみたいだ。


今年の準々で、印象深い出来事がある。

『M-1グランプリ』の予選では、毎回ネタ前やネタ終わりにインタビューが入る。
1、2回戦辺りはインタビューが入らないコンビも居るけど、3回戦辺りからは恐らくほとんどのコンビにインタビューが入る。

今年の準々はルミネだった。
廊下でネタ合わせをしたりして出番を待っていると、楽屋から、出番が終わったはずのウエストランドの井口(浩之)さんの声が聞こえて来た。
井口さんの事だから、何かの文句だということは言うまでもない。
井口さんの口は、不平不満しか出て来ない構造になっている。

今年の春が終わる頃。
「ったく何なんだよ。あちぃーしよ。いい加減にしてくれよ」
井口さんは1時間近く、季節を相手に文句を言っていた。
100歩譲って真夏だったらまだ分かる。
時はまだ、春だ。
そこまで怒らなくても良いじゃないか。
井口さんが酸素とかを相手に文句を言い始めるのも、そう時間は掛からないと思う。

「どうしました? 何の悪口ですか?」

準々の出番が終わった井口さんに聞く。

「インタビューが来ないんだよ。皆ネタ終わりインタビュー来るのに。待ってんだよ。全然来ないから、俺だけ」

インタビューが、来ないらしい。
『M-1グランプリ2020』のファイナリストなのに、インタビューが来ないらしい。
出番が終わって結構時間が経っているのに、律儀にもずっとインタビューを待っている井口さん。

「インタビューあると思ってゆっくり廊下歩いたのに。来ないんだよ」

正直出番終わりなんて、色々思う事があってインタビューどころじゃない時もある。
そんな中、ご丁寧にも出番終わりインタビューされる為に、ゆっくり廊下を歩いた井口さん。
インタビューが、来ないらしい。
ちょっと井口さんらし過ぎる。
爆笑だ。
井口さんのおかげで緊張が和らぎ、心なしか例年よりリラックスして私も出番を終える事が出来た。

出番終わり、私もインタビューが来なかった。
何でだよ。
大体ネタ終わり全組インタビューあるもんじゃないのかよ。
出番終わり、小声で反省会みたいなのしながらゆっくり廊下歩いちゃったよ。
インタビューあると思ったから。
何で無いんだよ。

ちなみに
「みゆきさん! 僕達もインタビュー無かったですよ!」
後々、ママタルト大鶴肥満が嬉しそうに報告してくれた。
何で嬉しそうなんだよ。

そしてインタビューが無かったウエストランドさん、ママタルトは準々通過していた。
おめでとう。
私たちだけ、シンプルインタビュー無し落ちした。
おめでとう。


5年連続準々落ちしている私たち。
本当に準々の壁は分厚い。

飲み会なんかで『M-1グランプリ』の話になると、皆準々の通り方とかを事細かく考えてネタを作っていたりする。
拍手笑いの作り方とか、後半に向けて盛り上がる様にしてたりとか。
そこまで考えて作れる芸人は、かっこいい。
私は、そんな話を聞いていても何が何だかよく分からない。
きっとお笑いの頭が良くないんだと思う。
頭が良くないけど、5年連続準々落ちはめちゃくちゃ悔しい。
だから、きっと来年も頭が良くないネタを引っ提げて『M-1グランプリ』にエントリーする事だろう。

今年の決勝、ウエストランドさんの文句をテレビで観れる事を楽しみにしている。

連載納言・薄幸の酔いどれコラムは、毎月1回の更新予定です。


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