お笑い芸人として活動しながら、キャバクラで働いていた経験のある、本日は晴天なり。
今回は約10年間の勤務の中で、良くも悪くも印象に残っているお客様を紹介。250円でキャバ嬢をのけ反らせる神客から、殴られたいがために来店し、鬼LINE送ってくる困った指名客まで。彼女が忘れられないおじさんたちはまだまだいる。
スタンプで終われないおじさん
指名客を増やすためにも、頻繁に来てもらうためにも、まめなLINEのやりとりは必要不可欠だが、私はお客様と連絡を取り合うのが苦手……いや、不得意だった。本業が芸人だから、という言い訳もあるが、出勤している以外の時間をお客様のために費やそうと思えなかった。(だから指名客もほとんどいなかったんだが……)
LINEのやりとりをしていたフリーのお客様が次にお店で見かけたときには別の女の子を指名している、というのは私の中ではよくある光景だ。競り負けたなって思いつつ、そりゃそうだという思いのほうが大きく悔しさはなかった。それでも連絡先を聞かれたら教えるし、未読スルーしたら次に会ったときに気まずいので最低限のやりとりはしていた。
さっさと終わらせるべく2、3ターンのやりとりをしてスタンプを押していた。会話を終わりたいときにスタンプを押すのは一般的にも広く認識されていることだが、その意味を理解せずに延々と会話してくるおじさんもいた。
(猫のスタンプ)
「その猫、かわいいね」
「何そのキャラクター(笑)」
「すごいジャンプしてるね!」
「わー、変な顔ー!!」
など、スタンプのイラストについて延々と感想を述べてくるのだ。
終われない。全然、終われない。どこまで返してくるのだろうとずっとスタンプを送りつづけたが、延々に返ってきた。
私のLINE人生でも初めての出来事だったので、わざと終わらせないようにしてるのか?とも考えたが、次にお店で見かけた際、しっかりと別のキャバ嬢を指名していた。
コスパ最強神客おじさん
キャバ嬢にとって神客とはお金を使ってくれるかつ、紳士的な対応をしてくれるお客様のことを指す。どんなにお金を使ってもセクハラパワハラがひどかったら神客とは呼ばないし、どんなに優しくて居心地がよくても、お金を使ってくれなければ神客とは呼べないのがキャバクラだ。
そんななか、たった250円で忘れられない神客となったお客様がいた。
彼は1、2個ほど年上の同年代。清潔感のある服装と爽やかな笑顔が印象だった。
話の流れからLINEを交換した。私の知り得る限り、LINEの登録名が源氏名であるキャバ嬢はいなかった。なので、お互いにあとから「こいつ、誰だっけ?」とならぬよう、その場でスタンプを送ったり源氏名を送ったりする。
私はそのとき、自分が推しているアイドルのスタンプを送った。(推しの話をしたいのではなく、ここから相手の推しや趣味の話につなげられるので、あえてアイドルのスタンプを使っていた)
すると、その場ですぐに同じスタンプが送られてきたのだ。状況が飲み込めず、すぐに尋ねた。
「え? なんでこのスタンプ持ってるの?」
「今、買った」
「なんで!?」
「これ買ったら、君の推しのためになるんでしょ?」
感動で大きくのけ反ってしまった。しかし、ずいぶんと女性の扱いに慣れてるな、とも思った。善意をまっすぐに受け止められないのは職業病なのかもともと持ち合わせた性格なのかはわからないが、それでも感動したのは事実だ。
彼とはいい関係を築いていけそう!と期待したが、アイドルのスタンプを数回送り合っただけで、お察しのとおり、次に見かけたときは別の子を指名していた。
たった250円でキャバ嬢をのけ反らせるほど感動させた彼のコスパは最強だと思う。
大嘘ぶっこくグローバルおじさん
渋谷の一等地にあるこの店には外国人のお客様も来店するので、店長が「英語できる女の子いる~?」と探し回っていた。
私は“CAMERA”をカナダと読み、カメラと書く際は“KAMERA”と書いてしまうレベルなので、英語オンリースピークなお客様はノーセンキューだったが、日本語も話せるお客様は積極的に接客したいと思っていた。会話のネタが尽きることがほとんどないし「最近、寒くなりましたよね~」などの気温の話から入る必要もなかったからだ。
とある西洋人のお客様は「なぜ日本に来たのか」と尋ねると、まわりをキョロキョロと見回してから急に耳打ちしてきた。「実は僕は国際警察なんだ。捜査のために半年前から日本に来ている」と告げた。
さすがにワクワクした。質問攻めをすると、警察手帳と手錠まで見せてくれた。念のために言っておくと、この日はハロウィンでもなんでもない。しかし、本当かどうかは重要ではない。きっと本物の国際警察は、出会ったばかりのキャバ嬢に身分を教えないし、警察手帳も手錠も見せはしない。そんなのわかってる。
それでも、耳打ちをする前にわざわざキョロキョロする細かな演技や、どこまで掘り下げて質問してもずっと答えてくれる徹底ぶりにワクワクしていた。だから「設定なんでしょ?」なんて野暮なことは聞かない。
でも、LINEを交換したらプロフィールのひと言に「春日部です」と書いてあった。住まいなのか名字なのかはわからないまま彼と会うことは二度となかった。
殴ってほしい男
年齢的には私の2個下なので、見る人から見れば彼も「殴ってほしいおじさん」なのだが、私より年下なのでおじさんとは呼ぶのはやめておこう。私の数少ない指名客の中で唯一、年下のお客様だった。
彼はちょっとしたセクハラを継続的にしてきたので、シンプルに不快なタイプのお客様。最初は手を握って抑圧していたものの、あまりにもしつこく触ろうとするため、我慢できずある日、突発的に思いっきり殴った。
しかし、彼はジムで鍛えているらしく職業も力仕事だったのでまったく効かなかった。それどころか私のこぶしを積極的なスキンスップと捉え、ことあるごとに殴るように要求してきた。
「ンフー! ンフー!」と脚を触ろうとする。「ふぇふぇ~い!」と二の腕をツンツンしようする。「いいの~? 触っちゃうよ~?」と胸に手を近づけてくる。
にやにやデレデレしながら、あの手この手で殴られようとしてくるのがうっとうし過ぎて、話題を変えようと世間話を始めるが、そうすると「ん? 別に」と、人が変わったかのように興味を示さなくなる。殴る殴らないの攻防でしか会話ができないのだ。
殴ってもらうために来店し、殴ってもらうために延長する。しかし、私の拳は素人だ。ジムで鍛えた男を何度も殴れるようなパワーは持ち合わせていないし、そもそも最初はセクハラを制するためにやったことなので、殴るのが好きなわけじゃない。『ブレイキングダウン』も試合シーンは薄目でしか見れないくらい、どちらかというと苦手な部類だ。
別に彼も打撃を求めていたわけじゃないのもわかる。彼が求めていたのはスキンシップだ。しかし、どこを触ろうとしても嫌がる私と唯一つながれるのが、拳だった。ただそれだけなのだ。
だが、殴られたい欲求以上に私を悩ませたのは、彼からの鬼LINEだった。
用もなく無限に、ただただ「お姉さん♡」と送ってくる。スタンプに返信が来るよりもキツイ。
照らしたいおじさん
キャバクラに限らない話だが、夜のお店はどこもだいたい薄暗いものである。日高屋のような明るさの店は皆無だと断言できる。実際キャバ嬢は明るいところであんまり顔を見られたくない。特に私のような30代以上のキャバ嬢はよりその願いが強かったように思う。そして、その願いをきっちりと叶えるべく、店の照明はめちゃくちゃいい感じに設定してくれてあった。
その明るさは私の年代のキャバ嬢がちょうど一番かわいく美しく艶っぽく見えるよう見事に調整されていた。研究に研究を重ねたであろう努力がうかがえた。
照明のスイッチにはどこに合わせるべきかマジックで線が書いてあったし、ちょっとでも明るいとみんな「なんか今日明るくない?」とすぐに気がついていた。そういうときはやっぱり線より少し上になっているのだ。
誰かが壁に寄りかかった拍子にスイッチがグイッと上がってしまい、急に店内が明るくなってしまうことがたまにある。そんなとき、キャバ嬢たちは「きゃあ!」ととっさに顔を覆う。まぶしいからなのか顔を見られたくないからかはわからないが、私はあからさまに「見ないで!」と言いながら顔を覆っていた。
薄暗いところに慣れ過ぎて、プライベートでも昼間のデートなんて絶対にあり得ないと思うようになってしまった。
そんな我々の心情を逆手に取り、スマホのライトで照らしてくるおじさんがいた。そのおじさんの口癖は「明るい時間にデートしようよ」だった。最初は健全なデートをしたいのか外見の本当の状態が見たいのかわからなかったが、スマホのライトで照らし始めたときに、後者なのだと気づいた。
薄暗いところで強い光を向けられたら単純にまぶしさでしかめっ面になる。照らしたいおじさんはその様子を見て「わっはっは」と笑い楽しんでいたので、ただ女の子の嫌がる姿を見たいだけのセクハラなのかもしれない。動機は古典的だが、手法は新し過ぎた。
まだ理性はあるのに本能を語るおじさん
酔いが回って「やらせて」とド直球で言ってくるお客様はあっさりとキャバ嬢に玉砕されるが、まだ理性があるお客様はなんともまどろっこしい言い方で誘ってくる。彼らは説得力があると思っているのか“本能”とか“遺伝子レベル”とかを言いたがる傾向にある。
「男は昔から狩りをしていたから狩猟本能で女の子をハンティングしちゃうんだ」
「男は本能でイヤリングとかひらひらしたスカートとか揺れるものを追いかけちゃうんだよ」
石器時代の始まりから4万年近く経っているというのに、この言い草である。
「その本能がまだ残ってるなら動物園で象とか仕留めに行くだろ!」「都合よく女性に置き換えるなよ!」と言いたい気持ちを抑え、「へえ~」と返す。
「男が浮気をするのは、古代から子孫を残そうとする遺伝子レベルの本能なんだよね」
「そこを理性で抑えられるのが人間だろ! いつまで古代引きずってんだよ! 令和だぞ!」と言いたい気持ちを抑え、「へぇ~」と返す。
歴史学者でも生物学者でもないのに、ネットで見ただけの話をさも賢いことを言っているふうに伝えてくる。生物学的なそれっぽい言葉に惑わされ、ネットに惑わされ、実に現代的なお客様である。そう考えると、少しは進化しているようにも思える。
“あるあるおじさん”から“唯一無二おじさん”まで、キャバクラでは数多のおじさんと出会える。
今日、どこかで生まれたばかりの男児もいつかはおじさんになる。未来では「昭和おじさん」ならぬ「令和おじさん」などと呼ばれ、腫れ物扱いされたりするのだろうか。それとも、あらゆるおじさんを反面教師にし、非の打ちどころのない最強のステキ令和おじさんが誕生するのだろうか。
ガラケーだって10年あまりでスマホに進化した。おじさんだって進化できるはず。
そんな最強のステキ令和おじさんの誕生に期待し、これからも私が出会ったおじさんを皆さんに紹介していきたい。
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