お笑いコンビ・ランジャタイの国崎和也が、徒然なるままにコラムを執筆。本連載での名義は「ふっとう茶☆そそぐ子ちゃん」です。
今月は、“年に一度の瞬間”について教えてくれました。
タイムスリップ
金木犀の香りがやってきた。
年に一回、街中どこへ行こうとも
この香りだらけの日がある。
『今日だね』
マツクラさん(マツモトクラブ)からメール。
そうなんだ。今日なんだ。合っている。
ずっと。感覚はズレていない。
この瞬間を、待っていた。
あたくしは、匂いでいろいろ思い出したりすることが、趣味みたいに楽しいのでございます。
夕方、
近所を歩いていると、ふわりとカレーの匂いがすることがありませんか?
家の中から『トントン』包丁の音が聞こえてきて、夕飯の支度をしているであろう感じ。
「ああ、この家は今日はカレーなんだな。」
そう、あなたが思うように
また行き交う人も、そう思ってるかもしれません。
あたくしはこの時に、
子どものころに
「カレーの匂いがする家」に入った時のことを思い出します。
近所から少し離れた、山のふもとを探索していた時のこと。ふと、ふんわりとカレーの匂いがしたので、見上げると一軒家があって、その家の庭を見に行くと、縁側で自分より少し小さい子が、ゲームボーイで「ポケモン」をしていた。
ふむふむふむ、と。
あたくしはその子に近づいて、
「面白い?」
と聞いた。
その子は一瞬、ビクッとして、
そしてあっけにとられながらも、
「・・・・うん。」
と答えてくれた。
さらにあたくしは、
「今日、カレーなんやね!いいね!!」
と言うと、
「うん!」
と答えてくれた。
そのあと少しだらだらと話して、
「じゃ、またね〜!」
と帰ってきやしたが、今思えば急にカレーだ何だで庭から来たやつに、あの子は、よく話してくれた。
住宅街で、カレーの匂いがした時、ふとこの記憶にタイムスリップします。
これが、とても楽しいのです。
さて、金木犀。
1番記憶に古い、金木犀の香りは、幼稚園のころまで遡る。
園の裏庭に、大量の金木犀があった。
ずっと幼稚園がその匂いに包まれて、
子供ながらに
「なんていい匂いの幼稚園なんだ我が園は。」
みたいなことを思っていた。
さらに、
その幼稚園ではないけれど、その近くの少しはずれた場所に、小さな神社?みたいなところがあったが、いかんせん行き方がわからなくなって、どうも場所がわからなくなった。
高校生の時にふと思い出して、自転車で周辺を探して回ったけれど、最後まで見つけられなかった。
あの場所はどうやって行くんだっけ?
小学校では金木犀の香りが、校舎を吹き抜けていく感じがあった。
放課後、校舎のベランダで友達と、食パンを食べた。
校舎の3階から一望できる山々と、下にある少し緑色になってきたプールを見下ろして、友達とお互いに「内緒」で持ってきたものを取り出した。
自分はイチゴジャム。友達はピーナッツクリーム。それを給食の残しといた食パンに塗って、食べた。
「んんまあーー!!!」
学校で食べる、外部から持ち込んだ物が、信じられないくらい美味しかった。
「国ちゃんよ、、これもあるんやぜ!」
友達が、カバンの中から
オレンジジュースの「なっちゃん」の缶を2つ。カバンから取り出した。
「うわあああああああ!!!」
最高だった。
まさかの小学校に「なっちゃん」。
その「なっちゃん」で乾杯して、
食パンに、ありったけのジャムとピーナッツクリームを塗って、食べた。
沈んでいく夕日に、
プールサイドがオレンジ色になってきて
目の前が、綺麗になる。
ジャムの味。
食パンの感触と、ピーナッツクリームの色。
なっちゃん。
金木犀が、風といっしょに、来る。
いい匂い。
高校生のころに、
海老坂という、地元で、ながーい坂道があった。
そこの坂道を登っていく途中に、タージマハールというカレー屋があり、さらに坂道を登ると一軒家がぽつんとあった。
そこに外国人が住んでおり、そこの家の、娘さんであろう、金髪の綺麗なおねいさんが、タバコを吸いながら、
「ハーイ。」
と、挨拶してくれたのだ。
当時バスケ部だった自分は、腰を抜かした。
そしてすぐに、
部室でこの話をした。
「タージマハールの先に、とんでもない美人が待っている!」
わが高校はほぼ男子校だったので、
その場にいた部員全員が、黙って聞き入った。
「「「・・それで?」」」
普段あんなにガヤガヤする彼らが、
その時ばかりは「しん」として自分に真っ直ぐな目を向けて、一言も聞き漏らさまいとした。
「海老坂を登り、タージマハールがある。そこを越えると、ポツンと白い家がある。そこだ。そこにいる!本当に見た!タバコを吸って、自分に笑いかけてくれた!」
部室がどよめき出す。
部員「く、国崎!その人は何か言ってたか!?」
「ハーイ。と、言っていた!!!」
部員「うひょー!」
「笑って、くれた!!!」
部員「うひょー!!」
皆、歓喜した。
その時のあたくしは、
ワンピースでいう、
ほぼ、ゴール・D・ロジャーだった。
ロジャー『おれの財宝か?欲しけりゃくれてやるぜ…探してみろ。。。この世のすべてをそこに置いてきた!』
あたくし「金髪美女か?見たけりゃ教えてやるぜ…探してみろ。。。海老坂の家で窓からのぞいてた!!」
部員「うひょー!!!」
「金髪美女(ワンピース)は、存在する!」
部員「うわああああああああ!!!!」
世は、大金髪時代──。
その日から
みんな各々、血眼になって海老坂を登った。
自転車を漕ぎ、漕ぎに漕ぎ、ペダルを踏みに踏んで
理想郷を目指した。
坂道を登り、
カレーの匂いが漂う「タージマハール」を通過し
目的地の、美女がいるであろう、白い家の前を、
ゆーーーっくり、ゆーーーっくり、通り過ぎる。
家「・・・」
ゆーーーっくり、
ゆーっくり、
家「・・・」
しかし、「あれは奇跡だったのか!?」
というくらいに、家の窓は開いておらず
何日も何日も、「タバコ金髪美女」は窓から顔を出さなかった。
そのうち、坂道途中の「タージマハール」のことが皆嫌いになってきた。
汗だくで坂道を登っている時に突如として現れるカレー屋「タージマハール」。
カレーの匂いにただただお腹が空いて、
それでも金髪美女に会いたい一心でペダルを漕ぎ
坂道を登り続ける。
カレーの匂いを引き離し
その誘惑に打ち勝ち、
登った先に、理想郷。
「タバコ金髪美女御殿」。
ゆーっくり、ゆーっくり、
家の前をふーらふら。
家「・・・」
しかし、毎回、とんとお留守。
タバコ金髪美女、出てこず。
来た道を、引き返す。
下り坂道を、駆け抜ける。
ブレーキもせず、白目で、駆け抜ける。
「タージマハール」をものすごい勢いで通過する。
一瞬だけカレーのいい匂いがして、また白目に戻る。
「タージマハール」がムカついてくる。
皆、「タージマハール」が憎くなってくる。
汗だくで走って、カレーの匂い、その先に、まったく現れることのないタバコ金髪美女。
帰り、白目。
またタージマハール。
まじタージマハール。
タージマハールを、とんでもないスピードで通過。
白目で通過。
いないじゃんタージマハール。
美女出てこないじゃんタージマハール。
なんとか言ってよタージマハール。
そんなある日。
もう皆がタバコ金髪美女のことを忘れかけていた秋口に、
T君という部員が、ついに理想郷にたどり着いた。
皆「いたのか!?確かに、いたのか!?!」
T君「・・・ああ。」
昨日の帰り、Tくんは確かにタバコ金髪美女を見たというのだ。
自分「タバコ金髪美女(空島)はいたろう?」
T君「ああ。タバコ金髪美女(空島)は、いた!!」
皆「うわああああああ!!!」
全員、歓喜した。
「いた!やっぱりいたんだ!!」
「やった!!!」
「すげえ!」
皆『人の夢は──、終わらねェ!!!!』
世は、大金髪時代──。
しかし、よくよく聞くと、
T君が言うには、
なにやら彼氏さんと思われる人物と、家を出ていくところを目撃したというのだ。
「・・・」
全員、白目になった。
どんよりとした、ちびまる子ちゃんのあの
「ガーン!」の感じに。
「後半へ続く──」の感じに。
白熱した大金髪時代は、こうして幕を閉じた。
それからしばらく立って、またその金髪美女のおねいさんを見かける機会があった。
たまたま家から家族と出かけていくところを、見た。
楽しそうに話している、その家族を追い越して、自転車で海老坂をシャーと降った。
海老坂は山沿いにあるので、木々が生い茂っている。
金木犀の匂いがする。
もうすぐタージマハール。
カレーの匂い。
タバコ金髪美女がいたぜタージマハール。
あの子幸せそうだタージマハール。
最高だなタージマハール。
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