花譜は観測することで存在する。武道館公演『不可解参(狂)』はいろいろな意味で“狂った”ライブだった

2022.9.6


お祭り感満載のコラボ楽曲タイム

ここからはコラボパートに入っていく。「組曲」として発表されたコラボ楽曲シリーズなどからゲストを招き、たなかとの「飛翔するmeme」、大森靖子との「イマジナリーフレンド」、ソロ1曲とDJタイムを挟んで、東京ゲゲゲイのMIKEYとの「ダンスが僕の恋人」、ORESAMAとの新曲「CAN-VERSE」、VALISとの「神聖革命バーチャルリアリティ」とつづく。

「イマジナリーフレンド」のあとに1曲「裏表ガール」というソロの作品が入っている。花譜にとって特別な曲のひとつだ。この曲の歌詞を含む花譜の感想は、今回のライブの最後に語られているので、記事の後半で合わせて述べたい。

中でも「イマジナリーフレンド」はコメント欄とツイッターが大騒ぎになるほどの盛り上がりになった。大森靖子はいつもどおり、舞台を右へ左へと踊り狂い大暴れ。花譜は歌うときはあまり動かないスタイルのボーカリストなので、それを静かに見守る形式。舞台下ではダンサーがコンテンポラリーダンスを披露。曲の映像とタイポグラフィがめまぐるしく明滅し、舞台は狂った情報量になった。

大森靖子の激しさは一瞬で会場の空気を変えた。だからといって花譜の空気が奪われたわけではない。彼女は凛として歌うことで大森靖子を客観視しているような迫力を見せた。途中大森靖子は、花譜がカバーしたことがある「死神」のアレンジも差し挟む。静と動の熱はぶつかり、どんどん混ざっていく。最後のふたりの「イマジナリーフレンド!」の叫びのユニゾンは、別物に見えたふたりがひとつになった瞬間だった。

大森靖子が花譜を「イマジナリーフレンド」として見ていたのか、花譜が大森靖子をそう見ていたのか、はたまた下でダンスする女性のイマジナリーフレンドをふたりが観測していたのか。可能であれば正面からの定点映像を確認してみたいパートだ。

VALISとの「神聖革命バーチャルリアリティ」も、驚いている人が多数見られたコラボだった。というのももともとVALISは3Dモデルで歌い踊るバーチャルサーカス団の6人組ユニットだからだ。ところが今回は生身のオリジンでの出演。2021年の1stワンマンライブ『拡張メタモルフォーゼ』で2次元アバタースタイルと3次元リアルスタイル「オリジン」を行き来することを発表。先日行われた2ndワンマンライブ『転生デパーチャー』では全編オリジンの姿で出演している。

今回はVALISオリジンが、バーチャルもリアルも表現の一環にしてしまう自由度を見せてくれた。VALISは歌とダンスを本格的に鍛えているグループで、今回はとても躍動感のあるパフォーマンスを観せている。AR映像では花譜もVALISの輪に加わっている姿が撮影されているので、チェックしてみてほしい。

つづいて花譜を含む5人ユニット「V.W.P(Virtual Witch Phenomenon)」のメンバーが集結した。ヰ世界情緒(いせかいじょうちょ)と「深淵」、理芽(りめ)と「魔的」、春猿火と「残火」、幸祜(ここ)と新曲「歯車」をそれぞれデュエットで披露。理芽は留学中だったが、このライブのために急遽帰国したという。

「V.W.P」は楽曲だと物語性のある、強キャラ集団のようなキリッとしたビジュアルのユニットだが、いざ並んで集まると会話が一気にふわふわな仲よし女子会になる。ツッコミ不在でクスクス笑う5人の様子は、今までのステージの緊張感を完全に溶かし切っていた。

特に一緒にいた時間が長く、姉妹のような関係だった理芽に対して、花譜が両手を差し出しながら見つめながら言った「私、理芽ちゃんと離れたくない」の言葉。まるで留学に行く姉に甘える幼い子供に戻っているかのようだった。こういうV.W.Pでそろったときのほんわか優しい空気感もまた、花譜の魅力の一面。最近は公式の配信などで彼女たちのほんわかした一面がたびたび観られるので、YouTubeをチェックしてほしい。

V.W.Pの曲は「電脳」「輪廻」など力強く荘厳なものが多い。しかし今回歌われた「共鳴」はとてもポップな曲だ。春猿火の「さぁさぁやってまいりました我らが今話題のV.W.P!」というラップが入る、笑顔あふれるノリノリで楽しい作品をここで持ってきたことで、5人のパートはハッピー感あふれる時間になった。

「過去を喰らう」3部作「不可解」3部作の完結編

ここからは新衣装「特殊歌唱用形態 軍鶏」に着替え、3部作「過去を喰らう」「海に化ける」、そして新曲「人を気取る」を披露した。彼女の背後には、かつてから登場している魚のような不思議な存在「ラプラス」も泳いでいる。

「過去を喰らう」はもともとハイテンポなロックチューンだが、ターンテーブルが入ったアレンジでさらにスピード感を増した。軍鶏衣装の花譜は、珍しくステージを駆け回る。大人になるのがいやだという歌詞のように、逃げているのか、無邪気なのか。疾走感が加速する。イラストレーターPALOW.デザインの新作衣装の華やかさが、映える。

「海に化ける」では花譜の身体はAR技術で水に包まれた。反抗期、大人になることをやめた哀しみと言い訳が、訴えるような歌声で伝わってくる。

そして今回初出しの「人を気取る」。花譜曰く「何かを諦め受け入れて人間になろうと再び努力する」歌だ。ライブ内では曲が会場の熱気と噛み合って、ポジティブな決意を表現した作品に感じられた。ただ花譜の言うように「諦め受け入れる」歌なのであれば、実際フル尺のMVが発表されたときはどういう表現になるのか、とても興味の湧く作品だ。

ここで彼女は、今回のライブ『不可解参(狂)』の意味の本質を語った。MAD、狂気としての「狂う」と、「Crazy for you」という「あなたに夢中」の意味でもあるという。加えて「ばかばかしいくらいのお祭りにしよう」というプロデューサーとの話し合いもあったそうだ。今までのライブの全部を詰め込んだようなおもちゃ箱感は、ここに真意があったのだろう。ちょっとダーティに見える「狂」の語が、ポジティブに捉えられているのを知ってからこのライブを観直すと、かなり曲を聞く感覚が変わる。

つづく「不可解」「未観測」「狂感覚」も3部作のシリーズ。「不可解」は撮影OKになった唯一の作品だ。花譜を観測する際に欠かせない単語が「不可解」であり、ライブのタイトルにもなっていた。歌っている花譜の舞台の下で、なんらかのシルエットが明滅しつづけていたのが印象に残る。

花譜作品の中でもとりわけ、ポエトリーリーディング要素が強い「不可解」。観測者であるファンからしてみると、花譜の活動は初期は謎が多く、どう理解すればいいかわからないところも正直あった。それが表現として積み重なっていくうちに、不可解であり不安定であることこそが、人間としての魅力なのではないか、という解釈が見えてきた。その決定版として花譜側から打ち出されたのがこの曲だ。

2019年の1stワンマンライブ『不可解』で初めて発表されたとき、花譜は高校1年生。当時は手探りと戸惑いも混じえ、歌うことで見つけたことを力いっぱいに表現しているようにも見える。今回の『不可解』は「私が信じるものを信じたい!」という確信を、地に足がついた状態で揺らぎなく歌っている。このパートは観測者による動画がツイッターに多数上がっているので、すでに観た人も未見の人も、ぜひ検索して多角的に観てほしい。

「不可解」につづく「未観測」を披露し、その後新作の完結編「狂感覚」が歌われた。先の2曲と異なるバラードだ。この作品でも「狂」の言葉は大切にされている。フルの歌詞は発表されていないが、「君と僕と世界で三原色」という言葉は3部作の結論を表す見事なフレーズだ。直球な言葉で世界との向き合い方を歌うこの作品も、正式音源での発表が待ち遠しい。


武道館で改めてその存在をはっきり形にした

そして最後は、花譜自身が作った初めての曲「マイディア」。高校3年生の夏ごろから作っていたという。

服装は軍鶏から、素朴なワンピースに変わった。まっすぐに「my dear」、親愛なる人への思いを告げた歌だ。

花譜「私の親愛なる人はいつだって、歌を聴いてくれるあなたでした」

彼女は今まで、若者の思い、自身の存在、大人になること、表現のあり方、心のねじれ、世界への折り合いなど、心との向き合い方を中心に歌ってきた。しかし今回の曲は観測者に対しての思いを、率直に歌っている。

花譜はバーチャルなボーカリストとして、多くの人に観測されることで、存在できた。観測者は増えつづけ、武道館を埋め尽くし、配信が賑わった。観測する視点が増えつづけることで、彼女の存在はとても大きなものになっていった。

ここで、途中で歌われていた「裏表ガール」の歌詞を引用したMCが入る。「裏表ガール」は、カンザキイオリが花譜にインタビューをしながら完成させていくシリーズ三部作「そして花になる」「帰り路」につづく三作目。『花譜高校卒業記念ライブ 「僕らため息ひとつで大人になれるんだ。」』(2022年3月26日)に合わせて書き下ろされた。その中に「私だけど私じゃない」というパートがある。花譜はそこから勇気を得てきたという。

リアルな高校生として生活を送っている女の子は、歌うときにバーチャルな「花譜」になる。「自分」と「花譜」を両面抱えて生きていくのは、自身が言うような人見知りな性格を乗り越えて表現活動をしやすくなると同時に、「表現者である自分」の境界線が曖昧で不安定な感触もあるだろう。高校卒業ライブでは、活動スタイルの関係上言えないことも増えたし、感情を言葉にせず引っ込めてしまうこともあったという。

等身大の悩みを抱える彼女に対してカンザキイオリが送った「裏表ガール」の「私だけど私じゃない」という言葉は、「花譜」という存在を解釈する大きなヒントだ。

だとしたら、ひとりの歌う少女が描く「私だけど私じゃない」ほうである「花譜」の存在を証明できるのは、観測者たちによる観測だ。観測者がいるから花譜が存在できる。花譜が存在するから観測者は観測をつづけられる。

「花譜」は武道館で、改めてその存在をはっきり形にした。観測者と花譜の、なんとも不可解で不安定な「狂感覚」。だからこそ花譜の存在は今もみんなの心を狂わせつづける魅力がある。武道館は感覚を共有するかのように美しく、無線ペンライトの光で染まっていた。

今後は『不可解参(想)』のライブが行われることが発表された。そして『狂想』という3rdアルバムも発売される。

いったん『(想)』でライブ『不可解』シリーズも3部作としてピリオドになるようだが、一歩進んで観測者と共に観測することもできるようになった花譜は、次にどんな世界を見に行くのだろう。どんな世界を見せてくれるのだろう。スタッフは彼女に対してどんなスポットライトを当てるのだろう。テレビ番組まで発表された花譜の今後の活動は、まったくわからないからこそ観測するのが楽しくてたまらない。

なお『クイック・ジャパン』vol.162では、今回の花譜武道館ライブに合わせてインタビューが掲載されている。花譜の活動や音楽、今回のライブの思想に対しての、核心をついた話題を発見できると思うので、合わせてぜひ読んでほしい。

【新発表】
・花譜展3『この時間は言葉にしなくていいの。』開催決定
・「過去を喰らう」小説家「人間六度」による小説化決定
・『バーチャルシンガー花譜の廻れ!MAD TV』10月よりTOKYO MXにて放送決定
・花譜ライブ『不可解』の完結編『不可解参(想)』開催決定
・3rd Album『狂想』発売決定

【セットリスト】
M01:魔女
M02:畢生よ
M03:夜が降り止む前に
M04:ニヒル
M05:アンサー
M06:命に嫌われている(カンザキイオリCover)
M07:私論理
M08:戸惑いテレパシー
M09:糸
M10:化孵化(sasakure.UK Cover)with 可不
M11:流線形メーデー with 可不
M12:飛翔するmeme with たなか
M13:イマジナリーフレンド with 大森靖子(※「死神」アレンジあり)
M14:裏表ガール
M15:ダンスが僕の恋人 with MIKEY(東京ゲゲゲイCover)
M16:CAN-VERSE with ORESAMA ※ORESAMA提供のコラボ新曲
M17:神聖革命バーチャルリアリティ with VALIS
M18:深淵 with ヰ世界情緒
M19:魔的 with 理芽
M20:残火 with 春猿火
M21:歯車 with 幸祜 ※新曲
M22:共鳴(V.W.P)
M23:過去を喰らう
M24:海に化ける
M25:人を気取る ※新曲(「過去を喰らう」三部作完結編)
M26:不可解
M27:未観測
M28:狂感覚 ※新曲(「不可解」三部作完結編)
M29:マイディア ※新曲

『不可解参(狂)』特別再放送・10日間見放題アーカイブ視聴チケット

アーカイブ配信期間:2022年10月2日(日)23:59まで
販売期間:2022年10月2日(日)20:00まで
視聴期間:視聴開始から10日間(240時間)まで
価格:8,500円

※こちらの再放送には特別収録曲(4曲予定)が追加されます。
※ライブ当日(8月24日)の生配信チケットをご購入のお客様は同じシリアルコードにて無料でご覧いただけます。
※アーカイブ用のチケットを追加購入されるとさらに10日間(240時間)ご視聴いただけます。
※2022年9月23日(金)00:00〜2022年10月2日(日)23:59の間に視聴開始したお客様に関しましては、2022年10月2日(日)23:59までが視聴期限となります。


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