『ソー:ラブ&サンダー』41歳のナタリー・ポートマンが、肉体派ヒーローを演じることの意義

2022.7.9
『ソー:ラブ&サンダー』

トップ画像=『ソー:ラブ&サンダー』より
文=バフィー吉川 編集=菅原史稀


MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の最新作にして『マイティ・ソー』シリーズ第4弾となる『ソー:ラブ&サンダー』が、7月8日から公開されている。

クリス・ヘムズワースやテッサ・トンプソン、クリス・プラットなどMCUではおなじみのメンバーに加え、ラッセル・クロウやクリスチャン・ベールといった豪華キャストが出演する今作。特に話題を集めているのが、レギュラーキャラクター“ジェーン・フォスター”を演じるにあたり、圧巻の肉体改造を行ったナタリー・ポートマンだ。


『レオン』のマチルダ役で“伝説”となった代償

ナタリーといえば、『レオン』(1994)のマチルダ役を思い浮かべる人はいまだに多いだろう。その後『スター・ウォーズ』シリーズのパドメ・アミダラ役で注目を集めるなど、スター街道まっしぐらな女優というイメージが強い彼女。2010年からは、ディオールのモデル・イメージキャラクターを務めたことでも世界的知名度を獲得した。

『レオン』(1994)(公開当時13歳)

役者として着実にキャリアを重ねていったナタリーは、ハーバード大学に現役合格した秀才としても知られている。『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』が公開されるなど、多忙を極めていた時期に合格を果たしたというのも驚きだ。

しかし「有名女優だからハーバードに入れたのだろう」という声が上がったことも。世間から向けられる偏見の目に対抗すべく、好成績を維持しようと必死だったという彼女は、時にプレッシャーに押し潰されそうになって急に泣き出してしまうこともあったほど、大きな葛藤を抱えていたという。

人生経験が映し出される圧巻の演技でオスカー獲得

そんな苦しい経験を活かしているといっていいかわからないが、ナタリーは葛藤を抱える役どころを演じるのが非常にうまい役者だ。

アラン・ムーアのグラフィック・ノベルを映画化した『Vフォー・ヴェンデッタ』(2006)では、収容所に入れられ強制的に髪を切られるシーンで実際にバズカットにするなど、精神的に追い詰められる主人公を体当たりで演じ切った。

またナタリーの経験が最も役に活かされた作品のひとつに、『ブラック・スワン』(2010)が挙げられる。本作で、一流バレエ団のプリマに抜擢された重圧に悩まされる若きバレリーナ役を演じた彼女。4歳からダンスを習っていた実体験や、「成績を維持しなければならない、それ以上を目指さなければならない」というプレッシャーを抱えていた経験を、役作りへ見事に昇華させた。その演技は誰もが認めるほどであり、アカデミー賞やゴールデングローブ賞など、この年の主演女優賞はナタリーのひとり勝ち状態だった。

『ブラック・スワン』(2011年)

ほかにも『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』(2016)では、ジョン・F・ケネディ暗殺後に突如ホワイトハウスを出ていかなくてはならない理不尽な状況に置かれ、立場が追い詰められていくジャクリーン・ケネディを演じ、また『ポップスター』(2018)では、銃乱射事件の生き残りとして世間から注目された歌手の苦悩を体現していた。

このように、自分の人生を反映させているかのような役を演じる機会が多い彼女は、葛藤を抱える複雑なキャラクターを演じる天才であるのだ。


映画業界のジェンダー格差問題に対する取り組みも

ナタリー・ポートマンは役者であると同時に、製作者でもある。女性の手で女性のための役を作り、男性社会となってしまっている映画界に風穴を開けるという理念のもと映画製作会社「ハンサムチャーリー・フィルムズ」を設立し、『メタルヘッド』(2010)や『高慢と偏見とゾンビ』(2016)など幅広いジャンルの作品をプロデュース、さらに2015年には『愛と闇の物語』で長編作の監督デビューを果たした。彼女が脚本と主演も務めた同作は、イスラエルの作家兼ジャーナリストのアモス・オズの自伝的小説を映画化したものであるが、この作品を初監督作品に選んだのは偶然ではない。自身の出身がイスラエルということもあって、ルーツを描くことにより原点回帰を試みる狙いもあったのだろう。

初の長編監督作『愛と闇の物語』

また中東問題に関する研究に携わっていた経験もあり、近年でもテロや貧困をなくそうという議論へ積極的に参加しているナタリー。業界のセクハラ問題や男女の賃金格差など、さまざまなイシューの解決に向けて取り組んでいる。

ナタリー・ポートマンが“ソー”を演じることの意義

そして『マイティ・ソー』(2011)公開から11年、シリーズ4作目『ソー:ラブ&サンダー』で、ついにナタリー・ポートマン演じるジェーン・フォスターが脚光を浴びるときがやってきた。

(c)Marvel Studios 2022

ソーがかつて使用していたハンマーを手にして、新生マイティ・ソーになったジェーン。しかしマイティ・ソーになる彼女は、癌に冒されてしまう。

今作で、病によってやせ細った弱々しい体、そしてヒーローとしての筋肉質な体の両方を見せているナタリーだが、ソーに変身したときの筋骨隆々とした体型は吹き替えや特殊メイクではない。彼女自身が、今までの役者人生で一番ハードな肉体改造だったと語っているほど、厳しい筋トレをつづけた成果だ。

これまでヒーロー映画は長きにわたり、男性ヒーローが若い女性ヒロインを助けるという構造に囚われつづけてきた。それだけに力強い女性ヒーロー、また葛藤を抱える深みのあるキャラクターであるジェーンを、ナタリー・ポートマンという役者が演じている本作からは、意義深いメッセージ性を感じ取ることができる。

作品情報

『ソー:ラブ&サンダー』

(c)Marvel Studios 2022

7月8日 全国公開
監督:タイカ・ワイティティ
製作:ケヴィン・ファイギ
出演:クリス・ヘムズワース、ナタリー・ポートマン、テッサ・トンプソン、クリスチャン・ベール、タイカ・ワイティティ、ラッセル・クロウ、クリス・プラット、ブラッドリー・クーパー、ヴィン・ディーゼル、デイヴ・バウティスタ、カレン・ギラン、ポム・クレメンティエフ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)Marvel Studios 2022


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バフィー吉川 

2021年に観た映画は1100本以上。映画とインドに毒された映画評論家(ライター)、ヒンディー・ミュージック評論家。2021年9月に初著書『発掘!未公開映画研究所』(つむぎ書房)を出版。Spotifyなどで映画紹介ラジオ『バフィーの映画な話』、映画紹介サイト『Buffys Movie & M..