【天心vs武尊】現場で見た悲鳴と歓声。格闘ファンの欲深さが生んだ“世紀の一戦”レポート
2022年6月19日(日)、東京ドームで那須川天心vs武尊をメインカードとする格闘技イベント『THE MATCH 2022』が開催された。
大会当日は、試合を生配信したABEMAの来訪者数が史上最高数、同時接続者数は「ABEMA PPV ONLINE LIVE」において史上最高数、大会を視聴するチケットの券売は50万件を突破するなど、過去最高の格闘技イベントとして話題となった。
格闘技メディアでの執筆やリングアナとしても活躍し、『アメトーーク!』(テレビ朝日)の「キックボクシング大好き芸人」にも出演したお笑い芸人の神宮寺しし丸が、現地での観戦をレポートする。
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こんな東京ドームは初めてだった
異常な空間だった。アントニオ猪木引退試合、K-1全盛期、高田vsヒクソン、桜庭vsホイス……何度となく東京ドーム興行を観て来たが、何かが違う。東京ドーム興行特有のお祭りムードがない。超満員56,399人。みんなが緊張している。そう、”世紀の一戦”はお祭りではないのだ。
人間の4大欲求「食欲・性欲・睡眠欲・天心vs武尊みたい欲」。
その欲求を満たそうと、格闘技ファンは7年間声を上げつづけた。「早くやれ」「どっちが強いんだ」「白黒つけろ」と。そしていざ目の前で実現するとなると緊張で震えている。「実現させたぞ。本当にやっていいんだな? 今からどっちかが負けるんだぞ」。欲望のままに求めつづけたものに現実を突きつけられる。「いやぁ、本当にやるとは思ってなかったんすよ・・・やっぱりやめるって可能ですかね?」。そんな56,399人の緊張が興奮を上回り悲壮感すら漂う異常空間。こんな東京ドームを初めて観た。
この試合が発表されてから「最強vs最強いざ決戦!」「ヒーローvsヒーロー夢の対決!」といった見出しが踊った。なんとも言えない違和感。そんな綺麗な煽り文句じゃないはずだ。有象無象の欲望が生み出した”バケモノ”。それがこの”世紀の一戦”那須川天心vs武尊だ。
7年待った。試合までの8時間は贅沢の極み
13:00。オープニングセレモニー。昔のK-1のテーマ、プリンスの「エンドルフィンマシーン」が流れる。俺たちが好きだったK-1だ!(※今のK-1もサイコーです)。
全出場選手の最後に登場した那須川天心と武尊。
ヤバい、泣きそうだ……。「お前に泣く資格はない!このゴシップライターが!」と自分の太ももをつねって堪える。
メインイベントまであと15試合。8時間後だ。長い。でも、余裕です。こちとら7年待ったんですもの。しかも、今大会は那須川天心vs武尊以外にも格闘技ファン垂涎の夢のカードが実現している。それらを堪能しつつの8時間なんて贅沢の極み。しかし、どこか集中しきれず気もそぞろ。そんな自分に改めて那須川天心vs武尊の威力を知る。
21:00。いよいよ。とうとう。ついに来てしまいまった。武尊はいつもの武尊のテーマで入場。那須川天心もいつもの那須川天心のテーマで入場。当たり前です。ですが、このふたつのテーマを立て続けに聴いてる現実に震える。先に入場を終えた武尊が矢沢永吉のテーマが流れる中リングで待機している。「うあぁ、本当にやるんだぁ」と今さらながら実感。
そして、遂にリング上でふたりが対峙した。もう腹をくくるしかない。自分たちの欲望を具現化してくれたふたりの男を見届けるのみ。
ゴングが鳴る。東京ドームから悲鳴にも似た歓声が上がります。
武尊「ごめんな、本当に」天心「出会えてよかった」
1ラウンド。動きが良いのは天心。武尊はやや硬いか。天心のジャブがクリーンヒットする。アゴを上げられる武尊。終盤、前に出た武尊に1.5倍ほど早く動いた天心がカウンターの左フック! アゴの先端をピンポイントで打抜き、武尊ダウン! どよめく東京ドーム! 立ち上がる武尊。ここでゴング。東京ドーム大歓声。これぞ世紀の一戦だ!
【衝撃シーン】天心の渾身フックがヒット、武尊の顔が歪んだ瞬間
オープンスコア。5名のジャッジ全員が10-8で天心を支持。
2ラウンド。前に出る武尊。しかし、早い天心を捕まえきれない。バッティングで試合中断。那須川天心にドクターチェックが入る。「頼む!こんな終わり方だけはやめてくれー!」。5万人が祈る。試合再開に安堵の大歓声。なかなか捕えられない天心に焦る武尊。クリンチした天心に投げを打ってしまう。武尊には珍しい反則。ゴング。
オープンスコア。4名が10-10のイーブン。1名が10-9で武尊を支持。
3ラウンド。最終ラウンド。ダウンを取り返すしかない武尊は強引に前に出る。しかし、天心はスピードとクリンチでクリーンヒットをもらわない。そして、効果的にジャブ、ストレートと当てる。終盤、強引に前に出る武尊。天心もそれに応える。笑顔を見せる武尊。その笑顔へパンチを打ち込む天心。お互いのパンチが交錯する。ゴング。東京ドームは拍手と5万人の呼吸音。みんな緊張から解放されたて息をつく。判定へ。
「勝者、那須川天心〜!!!」。
リングアナのコールが東京ドームに響き渡ります。決着がついた。ついてしまった。拍手と歓声と溜息が入り混じる東京ドーム。
天心が泣いている。武尊も泣いている。ふたりは泣きながら抱き合い、語り合う。家に帰ってボリューム最大にして聞いた。
武尊
「ごめんな、いろいろ。まだ若かったのにキツかったろ。ごめんな、本当に。がんばろうな、お互い」
那須川天心
「めっちゃ出会えてよかったです。武尊さんがいたから続けられました」
“世紀の一戦”、本当にやってよかった
この試合が実現するまでには本当に色々なことがあった。絶対に実現させようとする者。絶対に実現させまいとする者。それは武尊へ対戦要求を繰り返す当時高校生だった那須川天心をK-1が訴える事態にまで発展した。そして、試合が決定してからは、「この試合は武尊が実現させた」と武尊へ感情移入するファンが急増。生配信したABEMAの勝利者予想では70-30で武尊が支持されていた。
この試合が発表されてから武尊は硬い表情を崩さなかった。対する那須川天心は終始余裕の表情を見せてきた。それは「今さらなんだよ」というK-1と武尊に対する痼(しこり)のような感情があったからだと思う。
それらすべてに対する武尊のアンサー。
この光景が見たかったんだ。ふたりが戦う姿と同じくらい、ふたりが心を通わす姿を見たかった。殴り合いもして欲しいが仲良くもして欲しい……改めて自分の欲深さにうんざりする。
しかし、ふたりが泣きながら抱き合う姿を目の当たりにして確信した。“世紀の一戦”、本当にやってよかった。とんでもない“バケモノ”を見せてくれたふたりに感謝しかない。緊張から開放された欲深き56,399人の“ありがとう”がふたりを包み込んだ。
神宮寺しし丸
(じんぐうじ・ししまる)太田プロダクション所属のピン芸人。プロレス・格闘技観戦歴38年。事務所の先輩、劇団ひとりに溺愛されていることでも有名。お笑い芸人として活動する一方、格闘技ライター、リングアナウンサー等でも活動。自身のYouTube『神宮寺しし丸チャンネル』では「今週の格闘技“裏”ニュース」として格闘技の裏ネタ等を配信中
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