『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』から生まれた“伝説の一日”【今、ラジオで活躍する中年パーソナリティ①】

2022.6.22


佐久間宣行の“伝説の一日”

語られたのは箱根神社への半日旅行だった。佐久間は前年にテレビ東京から独立した際、まわりから勧められて箱根神社で祈祷を受けていた。数日後の会議が中止になり、15時ころまでヒマになったため、1年ぶりに箱根神社を参拝しようと思い立った。

そのことを家族に告げると、春休みのため、家でヒマしていた高校1年生の娘が「私も行こうかな」と反応。しかし、佐久間は「朝7時に起きないと行けないから無理だろ」と否定的な意見から入ってしまい、自分の部屋に戻ってから「なんで一緒に行こうって言わなかったんだろう。なんでこのタイミングでカッコつけたんだろう」と頭を抱える。10代リスナーには想像つかないだろうが、父親はどんなときでも娘にカッコよく見られたいもの。そして、その意識が過剰過ぎて、失敗を繰り返すものなのだ。

思春期を迎えている娘との関係は、このラジオでもことあるごとに語られてきたが、来るべき反抗期や親離れを前に佐久間は時々感傷的になっており、今年の正月の放送では、元日に娘と夜の街を散歩したことを明かし、「俺の人生のピークだなと思った。これ以上いいことは人生に起きないぐらいの気持ちになった」と語るほどだった。

そんな状況で突然降って湧いた娘と小旅行する千載一遇のチャンス。しかし、気恥ずかしくて娘の本気度を確認できず、時間ばかりが過ぎていく。前夜は隣の部屋にいる娘が本気なのか、やきもきし、自分が眠れなくなってしまった。もはや精神状況は、さながら10代の初デート前。実際に娘と小旅行することになったら、ダサい父親と思われるわけにはいかない。事前に服も用意し、娘が好きそうな現地のお店もチェック。移動中のトーク内容を考えて、睡眠時間がほとんど取れずに当日の朝に。娘が起きてくる気配はなく、されど部屋をノックする勇気はなかったが、電車に間に合うギリギリのタイミングで、佐久間曰く「一番いい服」を着た娘が現れた。

喜びを抑え切れない佐久間は、現地で偶然を装い、娘をあんころ餅屋や撮影スポット、ピザ屋へと巧みにエスコート。気分がよくなり、ビールを飲み過ぎて酔っ払って娘に怒られたり、間違えてロマンスカーに乗ってしまったりと失敗をしながらも、楽しい時間を過ごした。こうして佐久間にとっては“ダウンタウン31年ぶりの漫才”に負けない“伝説の一日”が幕を閉じた。

リスナーから続々と届いた“伝説の一日”

ここからさらに番組は盛り上がっていく。佐久間の娘と同じ高校1年生女子リスナーから「そこまで考えてくれるお父さん、メッチャかわいいと思いました」というメールが届いたのだ。つづく「私、お父さんにメッチャ冷たくしているんですけど、どうしたら優しく接せると思いますか?」という質問に「グサッときた」という佐久間は、いつも以上の本気モードで返答する。

「急に優しくするのは無理だと思うのね」と指摘しつつ、「ありがとうから始めてみるのはやっぱりいいと思う」と提案。自分から言うだけでなく、父親が言いやすい状況を作るかたちまで提示し、「『お茶飲む?』でもいいわけよ。それは冷たくてもぎこちない関係でも言えるじゃん。そのお茶飲むと言われて飲んだお茶、一生忘れねえからな。マジで頼む! ちょっとだけお茶を注いだりしてやってくれ、お父さんに!」と切実に訴えた。

同じく高校1年生の男子リスナーからは「先月、ディズニー好きの母親とふたりでディズニーシーに行き、『いるわけのない友人と会うのではないか?』や、絶対に気のせいであるまわりからの視線を気にしてしまい、『もうふたりで来ることはないね』と母親に言ってしまいました」というメールが届くと、ラジオブース内は一瞬にしてヒートアップ。

佐久間が「待てよ!」と反応すると、普段は笑い声しか発しない構成作家の福田卓也も思わず「ふざけんなよ!」と叫ぶ。佐久間は「気持ちはわかるよ」と思春期男子特有の気持ちに理解を示しつつも、「母ちゃんにとって“伝説の一日”だぞ? これは反省してください。なんでかって言うと、お母さんの“伝説の一日”を最後に悲しい思い出で終わらせているから。思い出したら、毎回悲しい思い出になっちゃうじゃないですか」と親目線でピシャリ。「ていうことは、これは答えはひとつです。もう1回行く。もう1回行くしかありません」と断言してみせた。

番組のエンディングでは、数年前に父親を亡くした女性からのメールを紹介。初めてラジオに投稿したというこの女性が「高校生のときも大学生のときも、父とふたりで京都に行ったり、東北や金沢に旅行に行ったりしました。飛行機や電車で何カ所か付箋のついた『るるぶ』があったり、佐久間さんと同じようにたまたまいいお店に辿り着いたり、すごく父の愛を今の話を聞いて思い出しました。素敵な話をありがとうございました」と思いを綴ると、ブースは感動的な空気に包まれた。

佐久間は「亡くなったけど、思い出すきっかけにこのラジオのエピソードトークがなったなら、こんなにいいことはないと思う」と返答すると、感極まった思いを必死に隠すように、「おい、これはもう決まってますね。絶対母ちゃんと行けよ!」と改めて母親とディズニーシーに行った高校生に念押し。「今のメールを読んだの聞いたか? 全部がお母さんの思い出になるだけじゃなく、君の思い出になるから。特に男と母ちゃんでの旅行なんて、こんなもん、一生ずっと自分の体に染み渡る思い出になるから」と熱くアドバイスしつつ、「ていうか、そもそも高1で母ちゃんとディズニーシー行ってる時点でお前メチャクチャいいヤツだな」としっかりフォローした。

“中年ラジオ”こそがANNの原点?


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村上謙三久_新プロフィール

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村上謙三久

(むらかみ・けんさく)編集者、ライター。1978年生まれ。プロレス、ラジオ関連を中心に活動。『声優ラジオの時間』『お笑いラジオの時間』(綜合図書)の編集長を務め、著書に『深夜のラジオっ子』(筑摩書房)、『声優ラジオ“愛”史 声優とラジオの50年』(辰巳出版)、『いつものラジオ リスナーに聞いた16の..

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