全員出入り自由?な個人楽屋
自社ゲストとなると、生意気にも個室の楽屋が用意されていた。
他の出演者は、全員一緒の大きな楽屋。
所属している事務所のライブなのに、楽屋のドアには「納言様」と書かれた紙が貼られていて、何だかソワソワしたし、ちょっと寂しい気にもなった。
ただ、お手伝いの後輩の子が書いてくれたであろう張り紙のその字は、左手で書く練習してないと説明がつかない程汚かった。
先輩のコンビ名で左手で書く練習しちゃう所が太田プロっぽくて、凄く良かった。
前の仕事の都合で、少しだけ他の皆よりも遅れて楽屋に入る。
荷物を置き一旦トイレに寄って、また楽屋に戻ると、後輩のさすらいラビーの宇野君が納言の楽屋のセンターで、この上なくくつろいでいた。
「おはようございます。みゆきさん、仕事だったんですか?」
敬語でさん付けしてくれてはいるものの、敬語でさん付けしていない位、くつろいでいた。
もはや、タメ口で、呼び捨てだった。
太田プロっぽくて、非常に良かった。
しばらくすると、ぐりんぴーすの牧野さんがワックス片手に納言の楽屋に入って来て、勝手に楽屋のミラーを使って髪型を整え始めた。
10代の頃からお世話になっている、ぐりんぴーす牧野さん。
「牧野さん、今日飲み行けるんですか?」
勝手に楽屋に入って来て、髪型を整える牧野さんに聞く。
「行く訳ないじゃん!車で来たよ!」
行く訳が、無かったらしい。
仲良い人を飲みに誘うのはよくある事だから、別に訳ない事は絶対無いだろとは思ったけど、勝手に楽屋に入って来て、髪型を整えて、飲みを断って、勝手に出て行った。
個人楽屋、全然個人楽屋じゃなかった。
最初に感じた寂しい気持ちは何だったんだろう。
お願いだから、私の寂しさを返して欲しい。
2年前の太田プロライブとさして変わっていなくて、楽しい楽屋だった。
ただ、2年の間に変わった事もある。
知らない後輩が増えていた。
ライブの後半、後輩のストレッチーズの貫太が楽屋に訪れてきた。
寛太は外部ライブでもよく一緒になるから、後輩の中では仲が良い方。
「みゆきさん、飲み行きません?」
飲みに誘ってくれた。
勝手に楽屋に入って来た牧野さんに飲みを断られたから、もちろん行くと答える。
すると寛太は
「誰か誘っておきます。みゆきさんに紹介したい後輩誰だろうなー」
紹介したい、とか言い出してきやがった。
ショウカイ、、?
もうそんな立場なのか、私は。
先輩と飲む機会の方が多い私は、いわゆる後輩を可愛がった事がほとんど無い。
自衛隊芸人のやす子か、前ルームシェアしていたポンループのアミ位しか、プライベートで誘う後輩は、ほぼ居ない。
その為、飲み会では私が一番後輩になる事が多いから、芸歴2年目位の気持ちで居た。
しかし気付けば11年目。
11年といったら、乳幼児が、小学校ギリ卒業してない位だ。
ちょっと例えが悪過ぎて歴が浅く聞こえちゃったけど、実際超若手という訳でもない。
後輩を可愛がる、みたいな事をしても良い芸歴だ。
「うい!誰でも良いよ!」
平然を装って何となく先輩っぽい返事をしたけど、少し感慨深いものがあった。
ライブが終わり、寛太が紹介してくれた後輩、センチネルというコンビの大誠君と、先輩のハナイチゴの関谷さんと打ち上げをした。
先程の、タメ口で呼び捨てにしながら私の楽屋でくつろぐ後輩、さすらいラビー宇野君も遅れて勝手にやって来たけど。
大誠君は終始私に
「緊張します!」
と言ってくれた。
誰でも何処でも何時でも、誘われたら飲みに向かう様な奴に緊張なんぞしなくても良い。
でも、最近打ち上げなんかで一緒になる後輩に、緊張すると言われる事がたまにある。
教えられる事なんて何もない、酒が好きなだけの私に対してでも、後輩は緊張するものらしい。
確かに私も、超新人の時は、ベテランとまで行かない若手の先輩にも、ド緊張していた事を思い出した。
緊張しながら飲んでいたら、皆優しくて、ホッとしたし、そんな先輩は今でもずっと大好き。
それの代表が、この日勝手に楽屋に入って来て髪整えながら飲みを断った、ぐりんぴーすさん。
私の中で永遠に一番の兄さんだと思っている。
可愛がると言うとおこがましいけど、久しぶりの『月笑』に出て、これからはもう少し後輩とも接点を持ちたいなと思った。
ちなみに、その決意としてこの日たらふく酒を飲んで飯も食った後、皆を私の家に呼んで、大誠君に麻婆豆腐と米を食わせてやった。
男芸人の先輩の可愛がり方してやった。
これからもたらふく酒を飲んで飯を食った後に、家で麻婆豆腐と米を食ってくれる、可愛い後輩を沢山作っていきたいと思った、そんな日だった。
連載「納言・薄幸の酔いどれコラム」は、毎月1回の更新予定です。
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