映画『カモン カモン』“ちゃんとした子供”になり損ねた大人たちのレッスン

2022.6.3
『カモンカモン』

映画『ジョーカー』(2019)で狂気の男・アーサーを演じたホアキン・フェニックスが、マイク・ミルズ監督・脚本の『カモン カモン』で主演した。独身生活を謳歌していた主人公と9歳の甥っ子との数日間の共同生活をモノクロ映像で映し出す。これはいわば親、そして大人になる「練習」を描いた物語である。

子供との思いがけない経験を想起させる本作をレビューする。

※この記事は『クイック・ジャパン』vol.160に掲載のコラムを再構成し転載したものです。


胸を打たれる子供たちの感受性

『カモンカモン』
(C)2021 Be Funny When You Can LL C. All R ights Reserved.

その昔、「子供交換」を3日ほど体験したことがある。自分の息子が小学生時代、お世話になっていた学童保育主催のキャンプ大会での話だ。

当然、現地では班に分かれて行動するのだが、親と子は別々のグループになるというルール。従って、よその家のお子さんを5、6人、責任をもって預からなければならない。我が子でも手が掛かって大変なところを、気心の通じない“他者”が四六時中、目の前にいるのだ。最初はもう、勝手がわからずに、てんてこ舞い。と共に、「うちの息子も皆さんに、さぞかしご迷惑をかけているのでは……」と気になって仕方なかった。

『カモンカモン』
(C)2021 Be Funny When You Can LL C. All R ights Reserved.

しかし、共同生活の2日目あたりから、この“交換ゲーム”が少し面白くなってきた。それぞれに個性があり、関わっていくうちに「親であること」の練習をさせてもらっているような感じもした。だいたいこれは、子供たちの目線からだと「親交換」のゲームなのであって、言葉には出していないものの、接した大人を直観で一人ひとり、査定していたはず。今から考えてもあの数日間というのは、なかなか得難い経験であった。

なぜこんな過去を振り返ったのかといえば、マイク・ミルズ監督の新作『カモン カモン』を観たからである。ホアキン・フェニックスが扮するのは、インタビューでさまざまな子供のナマの声を集めているラジオジャーナリスト、独り身でNYを拠点にし、米国中を飛び回る日々だ。が、妹がやんごとなき事情で家を留守にする数日間、9歳の甥(英国出身の子役ウディ・ノーマン)を引き取ることに──。

『カモンカモン』
(C)2021 Be Funny When You Can LL C. All R ights Reserved.

すぐに想起したのは(マイク・ミルズ本人も影響を認める)監督ヴィム・ヴェンダースの傑作ロードムービー『都会のアリス』(74)。モノクロ映像であるところも似ている。そもそもはミルズが2012年に父親になり、身辺の出来事を見つめていったのが発想の源。それにしてもウディ君演じる甥っ子をはじめ、登場する子供たちの瑞々しさには心底打たれる。あんな感受性を長じて失ってしまうなんて、きっと大人になったり、親になる“練習”の過程で、なにか決定的に間違ってしまったのだ! 自戒を含めて記そう。ぜひとも、一人前の大人になった(と思い込んでいる)方々も本作を鑑賞し、そして胸に手を当ててみてほしい。

「おとなはみんな、だれしも、かつてこどもだった。それを覚えているのは、ほんのひと握りだけ。」(サン・テグジュペリ『星の王子さま』)

映画を観終えてグッと、この有名な一節を、噛み締めた。

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  • 映画『カモン カモン』

    『カモン カモン』

    監督:マイク・ミルズ
    出演:ホアキン・フェニックス、ウディ・ノーマンほか
    配給:ハピネットファントム・スタジオ
    TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
    (C)2021 Be Funny When You Can LLC. All Rights Reserved.

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Written by

轟 夕起夫

(とどろき・ゆきお)1963年東京都生まれ。映画評論家。近著(編著・執筆協力)に、『好き勝手 夏木陽介 スタアの時代』(講談社)、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)、『寅さん語録』(ぴあ)、『冒険監督 塚本晋也』(ぱる出版)など。読む映画館 todorokiyukio...