ハライチ、アルコ&ピースは何を話していたのか?【芸人ラジオの初回放送を振り返る②】



『アルコ&ピースのANN』一部地域に捧げられた祈り

初回のインパクトといえば、忘れてはいけないのが2013年4月スタートの『アルコ&ピースのオールナイトニッポン0(ZERO)』である。その後の平子祐希と酒井健太のラジオ界での活躍は皆さんご存じのとおり。この時点ですでに『有吉弘行のSUNDAY NIGHT DREAMER』(JFN系列)のアシスタントは経験しており、3回行われたオールナイトニッポン(ANN)の単発回も好評だったが、それを差し引いても初回は衝撃的だった。

序盤から平子は、本来は120分の番組なのに、一部地域の放送が途中の1時間で終了してしまうことに着目。「俺は福島県出身だから、一部地域の方々の気持ちは痛いほどわかる」「言葉にできないな……。その方々の無念の思いが伝わってきて。かわいそうな地域だよなあ」とこぼし、「俺は諦めていないからね。ネット局が落ちる地域をなんとか落とさないようにできないかなって考えているんだ。俺らのがんばり次第でさ、どうにでもなることじゃん」と声高に強調した。

当時、一部地域とされたのは、香川県の西日本放送、愛媛県の南海放送、熊本県の熊本放送の3局。平子はリスナーに協力を呼びかけると、27時台最後には「人間って何かの窮地に立たされたときに、自然と心の中で祈ってんだよ。本当の最後の手だ。みんなで祈ろう。スタッフも入ってきて。みんなで祈ろうよ。一部地域に入っていない方も一緒に祈ってください。そうすれば奇跡は起こるかもしれない。俺らで奇跡を起こそうよ。みんなの絆で」と猛アピールを始めた。そして、スタッフをブースに呼び込み、全員で手をつなぐと、「主よ、香川に希望を。愛媛に愛を。熊本に光を与えたまえ」などと声をそろえて祈り始めて、そのまま28時を迎えた。

願いは届かず、一部地域は儚くも脱落してしまう。そのあと、番組は残った放送局を死守する方向にと話が進んでいく。伝説的に語られるようになるコント仕立ての形を取った“茶番”の記念すべき第一歩となった。

この日の祈りは届かなかったが、そのあと、一部地域だった西日本放送と南海放送はフルネットに切り替わった。熊本放送はいったんANN0のオンエア自体がなくなったものの、2022年3月にフルネットとして復活。アルコ&ピースとリスナーの祈りは、9年越しに成就した。当時は12局ネットだったANN0も、今や過去最大の全国27局放送となっている。これもアルコ&ピースが祈りを捧げたおかげかもしれない。

この初回は、直前の3月まで放送されていた『Hi-HiのANN0』終了を嘆くメールから始まっている。最終回の出待ちにたくさんのリスナーが集まったことにも触れており、平子は「非常に愛された番組ということなので、引きつづき愛してもらいましょうよ」とお願いしている。『アルコ&ピースのANN』シリーズは3年後に終了を迎えるが、そのときに数百人のリスナーが出待ちに集結することを知っていると、この発言にも予感めいたものを感じてしまう。

リスナーの総称も初回では話題になっていたが、酒井が例として「クルー」を挙げると、平子は「そうしたら、メールの入口は船長とかになるんだぞ」と笑い飛ばしていた。この番組でイジり倒したことでニッポン放送と接点が生まれ、のちにANN0のパーソナリティとなるテレビプロデューサーの佐久間宣行はリスナーに「船長」の愛称で親しまれていて、リスナーも「クルー」と呼ばれている。これもラジオの神様が仕組んだ伏線に思えて仕方ない。

先日の『マヂカルラブリーのANN0』でも、ランパンプスの寺内ゆうきが、かつて担当していたANN0内で、まるで“予言者”のごとく未来を言い当てていたと話題になったが、「線」としてラジオを掘り下げると、そんな予言や伏線が無数に見つかる。私以外にも、そんな出来事を発見してはほくそ笑んでいる“ラジオ変態”がたくさんいるかもしれない。

どうしても新番組の初回は、前番組のリスナーから厳しくチェックされ、批判・非難を浴びることも多い。リスナーとしてその気持ちもわからなくはないが、「線」でラジオを楽しむなら、初回のぎこちなさも、空回りも、大失敗ものちに番組を楽しむ振りになる。早急に答えを求めず、長いスパンで変化を楽しむのもまたラジオの醍醐味。初回の何気ないひと言が、10年後、20年後、リスナーを驚かせる伏線になるかもしれない。

【関連】伊集院光、オードリー、山里亮太は何を話していたのか?【芸人ラジオの初回放送を振り返る①】


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村上謙三久

(むらかみ・けんさく)編集者、ライター。1978年生まれ。プロレス、ラジオ関連を中心に活動。『声優ラジオの時間』『お笑いラジオの時間』(綜合図書)の編集長を務め、著書に『深夜のラジオっ子』(筑摩書房)、『声優ラジオ“愛”史 声優とラジオの50年』(辰巳出版)がある。

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