ウクライナの危機に、私たちは何ができる?カルチャーシーンに広がる支援策をチェック

2022.3.19

文=菅原史稀 編集=田島太陽


ロシア軍の侵攻により、ウクライナや近隣国で民間人が深刻な苦難を強いられている。砲撃やミサイル、空爆などによって多大な被害が及ぶなか、医療用物資や食料、防寒着の不足によって今まさに苦しめられている人々への援助が急務だ。

ウクライナ侵攻の犠牲者へ向けた人道支援は、世界各所においてさまざまな方法で試みられている。本稿ではカルチャーシーンで行われている支援を中心に、日本に住む私たちが参加できるプロジェクトを紹介。“私たちにできるウクライナ支援”について各自が考える一助になればと思う。

ドヴジェンコ国立映画センターの取り組み

ウクライナ首都のキエフにあるドヴジェンコ国立映画センターは、ウクライナにおける社会の歩みと現状を伝えるドキュメンタリーとフィクション作品を広めている。

公式YouTube上では、2013年から2014年にかけて親ロシア派の政権に抗議する市民によって起こったユーロ・マイダンのさまざまな側面を記録したドキュメンタリー『Maidan』が無料公開されている。

https://www.youtube.com/watch?v=bbdarLkUKVI
Maidan (2014) Sergei Loznitsa

また英メディア・ガーディアン紙では、ドヴジェンコ国立映画センター研究員の選ぶ“ウクライナで起こっていることを理解するのに役立つ20作品”が掲載された。

現在、ドヴジェンコ国立映画センターは運営存続に向けた寄付を募っている。同センターが発表した声明より一部を抜粋して日本語訳したものを以下に記す。

ウクライナとその文化は再び攻撃を受けており、センターのアーカイブおよび活動は危機に瀕しています。ウクライナと映画への重要な貢献にもかかわらず、センターは常に資金が不足しており、ロシアの侵略によってスタッフへの支払いやアーカイブの保護、運営の継続ができなくなっています。

同センターへの支援は、ウクライナの歴史的記録と映画文化を守ることにつながるだろう。

ドヴジェンコ国立映画センター募金受付サイトより

アジアンドキュメンタリーズ「ウクライナ 自由への闘い」視聴料寄付プロジェクト

ウクライナ支援の動きは、日本の動画配信サービスからも起こっている。

優れたアジアのドキュメンタリー映画を通じ、世界を知る・学ぶ・考える手がかりを与える動画配信サービス・アジアンドキュメンタリーズは、ウクライナ緊急支援企画「ウクライナ 自由への闘い」を実施。視聴料を在日ウクライナ大使館へ寄付する取り組みを行う。

4月1日より実施予定の特別編成に先行して、3月11日より『ピアノ─ウクライナの尊厳を守る闘い─』が配信中。

この機会が日本初公開となる本作は、2014年のユーロ・マイダン革命さなか、キエフの独立広場で音楽院の学生がバリケードとして利用されかけたピアノを救い出したことで、広場のピアノと政権側から“ピアノ過激派”と呼ばれた人々が平和革命の象徴となり、抵抗を見せていく様子が描かれる。

本作の視聴は寄付へとつながると共に、ウクライナの人々がつづけてきた尊厳を守るための戦いについて知るきっかけとなるのではないだろうか。

アジアンドキュメンタリーズ公式サイトより

インディゲームのチャリティパック「Bundle for Ukraine」

インディゲームの販売サイトItch.ioは、計992タイトルのゲームや書籍などをセットにした「Bundle for Ukraine」をリリースした。

10ドル以上を支払うことで購入できるこのチャリティパックは、ウクライナ支援の呼びかけに応じたインディーズスタジオや個人クリエイターたちによって提供されたゲームタイトルなどが封入される。収益は医療サービスや民間人のメンタルヘルスケアを支援する人道支援組織・International Medical Corps、そして戦禍で苦しむ子供たちを支援する社会事業団・Voices for Childrenへ50%ずつ寄付された。

Itch.io公式サイトより

リアル脱出ゲームのプレイを通じて寄付

東京・吉祥寺と愛知・名古屋にあるリアル脱出ゲーム店では、キエフを拠点とするARVI.Inc社が製作するVR脱出ゲーム『VR ESCAPE GAMES from ウクライナ』が設置されている。

リアル脱出ゲームを運営する株式会社SCRAPは、2022年3月3日(木)から3月21日(月・祝)の対象期間内に同タイトルで発生した売り上げを国連UNHCR協会へ全額寄付する。

リアル脱出ゲーム吉祥寺店公式サイトより

クックパッド「#powerofcooking」プロジェクト

貨物列車の線路や食品工場への被害などにより食料の配送が滞っている現地では、今もなお深刻な食料不足に苦しむ人々があとを絶たない。

料理レシピのコミュニティウェブサイト・クックパッドは、調理環境がじゅうぶんでないなかでも作ることができる料理のレシピを募集しウクライナの人々の食生活を支援する「#powerofcooking」プロジェクトを実施した。

クックパッド公式サイトより

ウクライナを含む世界74カ国の人々に利用されているクックパッドは、本プロジェクトを行うにあたり以下の声明を発表。

国連WFPによると、ウクライナにおける紛争により、首都キエフとハリコフの一部では、すでに食料と飲料水の不足が報告されています。
また、食料品の供給が減少しており、お店の棚はほとんど空になっている状況です。
避難所ではガスが使えないなどの環境もあり、食生活もこれまで通りにはいきません。
クックパッドは日本含め、世界74カ国の人々に利用されており、ウクライナも例外ではありません。
ここにはウクライナの毎日の家庭の様子が映し出されています。
ウクライナ人の現地スタッフからも、現在は食料や水の不足、調理設備がない中での食生活を強いられており、その中でも作ることができる料理のレシピが求められているという情報が届いています。
わたしたちは、料理がもつ力を信じ、料理を通じて長期的に支援を続けていきたいと考えています。

なおレシピ募集は3月13日をもって締め切られたが、クックパッドの公式ホームページ上では国連WFPへの寄付フォームが設けられている。

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