ショーケン主演、青春映画の傑作がDVD化!名匠の大著と共に今こそ必見

77
2020.2.4

ショーケン_神代辰巳_メイン

文=宮田文久 編集=森田真規


2019年春に鬼籍に入ったショーケンこと萩原健一。彼が主演した1974年公開の映画『青春の蹉跌』が、昨年末にDVD化された。約半世紀前の作品ながらも、思うようにいかない日々を、人生を送る者にとって“今の映画”として響くはずだ。
そして、『青春の蹉跌』を監督した神代辰巳の全貌が明かされた704ページに及ぶ大著『映画監督 神代辰巳』が昨年10月に刊行された。
特別な関係性を築いていたという名優と名監督。2つの作品がそろった今、ふたりの“切実な表現”に分け入ることができる幸福を堪能してください。

名優・萩原健一と名匠・神代辰巳の切実な表現へのアクセス――映画『青春の蹉跌』と書籍『映画監督 神代辰巳』

人生は思うに任せないものであり、少なからず、何かをやり過ごすことなのかもしれない――。そう言われてもしリアリティを感じる人ならば、1974年に公開され、2019年末に待望のDVD化が実現した『青春の蹉跌』は、“昔の映画”なんかでは、全然ないだろう。

ショーケンこと萩原健一は、この映画の中で何度も、両手両足を地に着き、つまりは四つ足になって、地面を這いまわる。

両足で立って歩くときだって、幾度となく背後を振り返る。うしろを振り返るのが俺の癖だ、と言いながら。きちっと前を向いてなんて、とてもじゃないが歩けない、とでも言いたげな姿だ。

そんなショーケンの立ち居振る舞いに、10年弱ぐらい前だろうか、社会人になっていた20代半ばの筆者は、言葉を失うほどに魅せられた。地下街の一角の映画館、今はもうない「銀座シネパトス」のスクリーン。そこに映る彼の姿は、自分がいる場所がよくわからない年齢だった筆者の胸倉を、時代を超えてつかんだ。

映画の中で、実在のCMが流れる。「what to do next」――次になすべきこと、と謳うコマーシャルを、ショーケンは顔に添えた指の隙間から見つめる。正面から見据えることができないのだ。彼が呟くように繰り返し口ずさむ「エンヤートット、エンヤートット……」という節回しも、ズルズルとした歩行にシンクロしていく。

ショーケンが演じるのは、すべてを引きずるようにして生きる、ひとりの大学生である。家庭教師の教え子(桃井かおり)と関係を持つも、自身の司法試験合格へ向けバックアップしてくれている裕福な伯父の娘(檀ふみ)とは婚約関係に。彼はどちらを選ぶともなく、迫りくる未来にも愛想笑いを浮かべるように過ごすのだが、現実の側はそれを許さない……。

挫折に満ちた主人公の姿が、なぜこんなにも心をつかむのだろうか。2019年春に鬼籍に入ったショーケンが、『青春の蹉跌』で現場を共にして以降、尊敬の念を抱きつづけた映画監督の言葉を見てみよう。

同年秋に刊行、名匠の全貌が初めて総括された記念すべき書籍『映画監督 神代辰巳』は、B5判、本文2段組、704ページという大著だ。読み終わることのない愉悦を味わいながら気ままにページをめくると、神代監督のこんな言葉が書いてある。

「何となく自分がやっているような気がするんですよ、ショーケンとやっていると。(中略)てめえが役者になったような気がしますね」

監督と役者の間にある壁が、不思議な崩れ方をしている。ロマンポルノを中心に、ずっと徹底して、世界を転がりつづけるような人物たちを描いていった神代。そんな彼を、「自分がやっている」ような心地にさせるショーケンという存在。

風に吹かれては折り重なる落ち葉のような、ある生の感触を、彼らは共有したのだろう。半世紀近い時間が過ぎた今、私たちもまたその切実な表現へ手を伸ばすことができるようになったのは、幸福以外の何物でもない。


青春の蹉跌』<東宝DVD名作セレクション>
2,500円(税別) 2019年12月18日発売 東宝


神代辰巳『映画監督 神代辰巳
12,000円(税別) 2019年10月25日発売 国書刊行会


宮田文久