安子は効果的に英語を学習していた!
英語を話せるようになるには小学校入学前から学習を始めるのがいい、外交的な性格の人が向いている、音読が効果があるなど、いろんな説がある。『外国語学習の科学 第二言語習得論とは何か』では、「外国語を身につける」ということのメカニズムをもとに効果的な学習方法を提案している。
この本では自然な表現を覚えるための効果的な勉強方法として、例文暗記や聞き取りなどのインプットが勧められている。さらに日記を書く、友達と英語で話すといったアウトプットを組み合わせるともっと効果があるとある。
ドラマでは安子は英語講座の時間になると必ずラジオの前に座ってノートを広げていた。ただ聞き流していたのではなく、一緒に発音したり、テキストやノートできちんと復習もしていたのだろう。さらにそれだけではなく、のちに夫となる稔とのデートの際に、英語で会話するなど実際に会話練習もしていた。この点から見ると、安子は毎日ラジオを聴くことでインプットをつづけ、稔と英語で会話することでアウトプットし、効果的に学習してきたことがわかる。
さらに何より大切なのは、難しいことを一気にたくさんやるより、毎日少しずつでもいいから繰り返し継続することだ。安子は録音機材がない時代、ラジオでしか英語の勉強ができなかったからこそ、放送時間にはきちんとラジオの前で勉強していた。
また、もうひとつ英語を話す上で大事なのが自信だ。不安感があるとうまく学習が身につかないという。安子が初めて接した英語話者のロバートの態度も、安子が英語を話すのに役立ったのかもしれない。
ロバートが急かしたり安子の英語をバカにしたりすることはなかったおかげで、安子は「自分の英語は通じるだろうか?」と怖気づいたり、「この表現でいいだろうか?」と逡巡することなく、堂々と自分の言いたいことを主張できたのではないだろうか。もちろん、そのように話せるのはこれまでの安子のたゆまぬ努力や、日本語で本心を打ち明けられる人がまわりに少なかったという境遇もあっただろうが。
苦痛を超える喜びを見つけること
外国語を話す上で、思いどおりに発音したり、適切なアクセントで話したりできないことを、韓国出身の日本語ラッパーのMOMENT JOONさんは『日本移民日記』で「舌に足かせがついている」という絶妙な言い方で表現していた。
外国語を話すときには思いどおりに話せないことが多くて、そんな自分と向き合うのはつらいことだ。それだけでなく、時にはうまく話せないことが違いを際立たせる指標になって、差別やからかいの対象にもなったりする。外国語を話すことでそういったつらいこと、嫌な経験を受けることもある。だから外国語学習はよっぽどの動機がなければつづけられない。
ところで外国語の習得に大きく関わるものは、この「動機づけ」だという。昇給や留学など、なぜ自分は英語を勉強するのかという目的がはっきりしているほうが身につきやすいという。
安子の場合は、英語は稔との絆のようなものだったからこそ、戦争で英語講座が中断した際も、稔が戦死したあとも英語学習をつづけてこられた。安子にとって英語を学ぶ時間は、苦痛ではなくて稔のことを思い出せる大切な時間であり、むしろ楽しみだったはずだ。だとすれば、これに勝る動機はないだろう。
安子は英語で会話したいと思える稔やロバートといった相手に出会えたから、英語をつづけられたということが大きいだろう。もちろんその相手は恋人じゃなくても、先生や学習仲間、仕事相手でもいいはずだ。さらには、映画や小説、食文化や歴史など、その言葉が使われている国の文化でもいいかもしれない。英語学習がつづかない人は、外国語を勉強する苦痛を超えられる楽しみや喜びを探してみるといいのかもしれない。
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