東京03、最大の危機を超えて“このタイミングで”単独公演『拗らせてるね。』をやった理由
東京03による生配信ライブ『稽古場単独公演「拗らせてるね。」』は、彼らの現実とコントとの境界を今まで以上に薄める、大胆でアクロバティックなものだった。
1月16日(日)までアーカイブ配信もされているこの公演での挑戦と魅力はどこにあったのか。コント芸人なら誰もが憧れる存在として多忙を極めながらも、2021年も単独公演に挑んだ東京03の魅力と共に解説する。
徹底して本名を使う東京03の「境界線」
コント師には大きく分けてふたつの流派がある。「ネタの中で本名を名乗る派」と「別の名前を用意する派」だ。この差異にずっと興味があり、コント師へのインタビュー時に余裕があれば理由を聞くことにしている。
たとえば空気階段は本名を名乗らない。『キングオブコント』1本目の『火事』ではふたりは「岡村」と「崎山」だった。「なぜネタで本名を使わないのか」と尋ねたとき、鈴木もぐらは「そっちのほうがなりきれるからです。ちょっと恥ずかしくなっちゃうんですよね。自分なのかキャラなのかがわかんなくなっちゃうっていうか」と言っていた。
東京03のコントでは徹底して本名が使われる。豊本が女性役をやるときですら「豊美(トヨミ)」という本名由来の名前がつけられている。日常の中のやりとりが笑いに昇華される東京03のコントにおいて、それはごく当たり前のこととして受け止められてきた。
本人であって本人でない。かつてその意義がひときわ強く現れたのが『トヨモトのアレ』(『第19回東京03単独公演「自己泥酔」』)だ。会社の休憩スペースでしゃべるサラリーマン3人という設定でありながら、実際の豊本の身に起きた(起こした)出来事を出発点にしたネタで、ライブで大きな笑いを起こしていた。
そして2021年12月18日に行われた生配信ライブ『稽古場単独公演「拗らせてるね。」』は、その境界をさらに薄めるものだった。本公演のコントはすべて作家のオークラ氏が書いている。なぜ東京03+オークラ氏は、今このタイミングでアクロバティックな構成の配信ライブに挑戦したのだろうか。
現実からコントへのシームレスな移行
19時配信開始予定だったライブはしばらく待っても蓋画のままだった。ややあって飯塚が画面に顔を出し、配信トラブルで開演が押している旨を説明する。
「緊張すると鼻水出ちゃうんですよねぇ」
謝りながら、フリートークで場をつなぐ。前説のような時間が流れ、10分押しで公演が始まった。カメラはタイトルどおり、稽古場らしき場所を映している。そこでは角田と飯塚が豊本に関する愚痴を話している。やがて飯塚が角田を「待て待てお前」と咎め出し、最終的に「なんで俺が悩み相談してるのにお前も悩み事で返してきてんだよ!」というツッコミが出て、このコントの構造が明らかになる。
飯塚が角田のことを「お前」と呼ぶのはコントのときだけだ。『クイック・ジャパン』本誌の東京03特集で何度か取材をした際にも、二人称も三人称もずっと「角ちゃん」だった。つまりこの「お前」には、今展開されているのがコント内のくだりの稽古であることが示されている。劇中劇ならぬコント中コントだ。
しかしその後、コント中コントを降りても普段の豊本への批判がつづく。豊本のスタンスについて文句を言い合うコントを演じていたところから、実際の豊本のスタンスを飯塚と角田が責めるコントへとシームレスに移行する。
飯塚がコメントで発表しているとおり「等身大の芸人の自分達という設定」で本公演は進んでいく。すべてのネタに登場するのは「東京03の飯塚・角田・豊本」というキャラクターたちだ。そして東京03の単独ライブにおけるお約束である最後の長尺コントは、「今から行われるコントはあるお笑いグループに起きた稽古場でのトラブルです」という前置きつきで始まる。
ネタバレを避けるため内容の詳細には触れないが、序盤でストーリーテラーの角田が「彼の名はトヨモト」と述べる。手に持ったiPadに「トヨモト」と表示したあとで「仮名です」とつけ加え、iPadの画面をスライドして「トヨモト(仮)」に変える。そしてトヨモト(仮)をめぐるコントがスタートする。