12月5日『鬼滅の刃』のテレビアニメ「遊郭編」がスタート。「無限列車」での任務を終え、主人公の炭治郎たちが向かう先は「遊郭」。子供も観るアニメ作品に「遊郭」なんて!など議論も巻き起こしたが、第1回の世帯平均視聴率は9.2パーセントとやはり高い。アニメ化に期待を寄せるライター・むらたえりかは、「遊郭編」が収録されている原作コミックスを改めて読み返し、再度考察を深める。
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「遊郭編」が収録されているのは8巻から11巻
12月5日(日)夜より、アニメ『「鬼滅の刃」遊郭編』の放送がスタートした(フジテレビ、TOKYO MX、BS11ほか)。原作コミックス1巻から7巻までをもとにしたアニメ『「鬼滅の刃」竈門炭治郎 立志編』が2019年に放送され、2020年10月には劇場版『「鬼滅の刃」無限列車編』が公開。映画は全世界で大ヒットし、興行収入は2021年8月時点で517億円を超えている。400億円を超えた時点で、ファンは無限列車編メインキャラクターのひとりである炎柱・煉獄杏寿郎を「400億の男」と呼び称えていた。
世界中に多くのファンを生み出したアニメ『鬼滅の刃』。その盛り上がりに「遊郭編」への期待も自然と大きくなる。12月5日放送回では「無限列車編」から「遊郭編」までの炭治郎の過ごした日々が、プロローグとして描かれた。主人公の竈門炭治郎が煉獄家を訪れ、杏寿郎の弟・千寿郎や父・槇寿郎と出会う。そして、杏寿郎の刀の鍔を譲り受けた。その後、療養のために身を寄せていた蝶屋敷にて音柱・宇髄天元と再会する。いよいよ「遊郭編」がはじまる。
アニメへのはやる気持ちが抑え切れず、改めて原作コミックスの「遊郭編」が収録されている8巻から11巻までを読み返してみた。すると、炭治郎・禰豆子の兄妹と、倒すべき鬼の妓夫太郎(ぎゅうたろう)・堕姫(だき)の兄妹の関係が、対比という言葉では簡単に言い表せない絡み合い方をしていることが見えてくる。
共闘する兄妹は善、依存する兄妹は悪なのか
『鬼滅の刃』は、炭焼きを家業とする竈門家が鬼に襲われ、生き残った妹の禰豆子が鬼になってしまうところから物語が始まる。長男である炭治郎には家族を守れなかった後悔が常につきまとい、ひととの関わりや鬼との戦いにおいても「家族」への思いが彼をあと押しし、強くしていく。
たとえば「那田蜘蛛山編」(アニメでは「竈門炭治郎 立志編」内にて放送)では、理想の家族をつくるために従順な鬼を集める下弦の鬼・累(るい)が登場。兄を守ろうとする禰豆子に惹かれた累は炭治郎から禰豆子を奪おうとするも、本当の兄妹の絆の前に失敗に終わる。
また「無限列車編」では、煉獄杏寿郎もまた家族への思いを背負って戦っていたことが明かされる。憧れの父や、愛する弟への思い。そして、亡くなった母親からの「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務です」という言葉。杏寿郎の「俺は俺の責務を全うする!!」という名言が、柱としての責任感以前に家族との関わりから生まれたことがわかっていく。
炭治郎たち鬼殺隊の面々はもちろん、ひとを食う鬼たちもかつては人間であり、家族があった。家庭や環境の違いによって生き方が分岐してしまった悲哀に胸を打たれることも多い。
では「遊郭編」ではどうか。まず登場する鬼は、上弦の陸・堕姫だ。堕姫は「蕨姫(わらびひめ)」という名の花魁として遊郭・吉原に棲み、密かに美しい女性の花魁たちを食べて強くなっていた。階級のついた強い鬼の中でも、上弦の陸はその名のとおり上から6番目に強い。炭治郎が戦ったことのある鬼で最も強いのが「無限列車編」に登場した下弦の壱・魘夢(えんむ)だ。それよりもさらに強く、そして美しい鬼である。
戦いが進むにつれ堕姫がピンチに陥りはじめたとき、追って登場するのが堕姫の兄・妓夫太郎である。妹の堕姫のなかに潜み、堕姫以上の強さでもって宇髄や炭治郎たちを苦しめる。
「俺たちは 二人で一つ だからなあ」
それぞれが自分の頭で考えて戦う炭治郎・禰豆子兄妹と違い、妓夫太郎・堕姫は兄の妓夫太郎が堕姫に指示を送り、時に助け、そしてコントロールしながら戦っていく。
「みっともねぇなあ お前全然妹守れて ねえじゃねえか!!」
「兄貴だったら妹に 守られるんじゃなく 守ってやれよなあ この手で ひひっ!!」
(引用『「鬼滅の刃」10巻「人間と鬼」』より)
セリフのひとつひとつから、妓夫太郎が「妹を守る」ことにいかにこだわり、誇りに思っているかがビシビシと、これでもかと、力強く伝わってくる。炭治郎も当初は禰豆子を守ろうとする兄であった。しかし、戦いのなかで戦闘においても精神的にも禰豆子に助けられていき、徐々に「共闘する兄妹」の関係を築いてきたのが竈門兄妹だ。
ともに支え合い、鬼を退治する竈門兄妹を善と見たとき、どんなときにも兄が妹を弱いものとして守り戦う(たとえ妹も強くとも)妓夫太郎・堕姫兄妹の在り方は悪であったり、旧時代的なものと唾棄されるべきだったりするだろうか。一概にそう言い切れないのが『鬼滅の刃』のおもしろさだ。
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