ドラマ『絶メシロード』は、僕たちにまだ見ぬ後悔をさせてくれる

2020.2.3

“絶メシ”は、身近にもあるかもしれない

そのシーンをぼーっと観ていた僕は、ある夫婦が営む小さな居酒屋を思い出した。『絶メシロード』の1話で描かれた土地は、山梨県の富士吉田なのだが、実は僕も富士吉田に行ったことがある。そのとき地元の人に「一番ディープな店だよ」と教えてもらった馬モツ専門店がたいそううまかった。富士吉田は馬肉が有名な地域で、主人公が食べていた名物・吉田うどんに使われているお肉も、もちろん馬肉。とはいえ「馬のモツを食べられるなんてなあ」と物珍しく思いながら食べたのを覚えている。

帰り際、僕は店主に「おいしかったです。また来ます」と伝えた。それは決して社交辞令などではなく、本当にまた来たいと思ったからこその素直な気持ちだった。けれども今考えると、「また」があるのかどうか自信がない。そのお店は富士吉田で70年以上味を守りつづけてきた老舗だけど、跡継ぎがいなければあの味は途絶えてしまう。

僕は初めて、“いつか絶滅してしまうかもしれないメシ”が決して他人事ではないことに気づいた。料理は、やはり作り手がいなければ絶滅してしまう。それは地方の飲食店だけの問題ではなく、もっと身近にもある気がする。たとえば、「母の味」は母が亡くなってしまったら食べられなくなる。そういえば、下北沢で好きだったパン屋『アンゼリカ』は、僕が下北沢に引っ越した翌月に急遽閉店してしまった。あのパンを日常的に食べる生活を思い描いていたので、すごくショックだった。

僕は『絶メシロード』の主人公の食べっぷりがうらやましかったのだ。目の前にあるメシの「今しか食べられないかもしれない」という儚さに、想いを馳せながら食べるメシはさぞかしうまいだろう。仮に、本当に食べられなくなってしまったとしても、後悔は少ないのではとも思う。

この記事が掲載されているカテゴリ

Written by

早川大輝

(はやかわ・だいき)92年生まれ。WEB系編集プロダクションを経て、フリーの編集者/ライターとして独立。生粋のテレビドラマっ子であり、メモ魔。インタビュー記事の企画と編集、たまに執筆をしています。

ツートライブ×アイロンヘッド

ツートライブ×アイロンヘッド「全力でぶつかりたいと思われる先輩に」変わらないファイトスタイルと先輩としての覚悟【よしもと漫才劇場10周年企画】

例えば炎×金魚番長

なにかとオーバーしがちな例えば炎×金魚番長が語る、尊敬とナメてる部分【よしもと漫才劇場10周年企画】

ミキ

ミキが見つけた一生かけて挑める芸「漫才だったら千鳥やかまいたちにも勝てる」【よしもと漫才劇場10周年企画】

よしもと芸人総勢50組が万博記念公園に集結!4時間半の『マンゲキ夏祭り2025』をレポート【よしもと漫才劇場10周年企画】

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記「猛暑日のウルトラライトダウン」【前編】

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記

九条ジョー舞台『SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記「小さい傘の喩えがなくなるまで」【後編】

「“瞳の中のセンター”でありたい」SKE48西井美桜が明かす“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

「悔しい気持ちはガソリン」「特徴的すぎるからこそ、個性」SKE48熊崎晴香&坂本真凛が語る“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

「優しい姫」と「童顔だけど中身は大人」のふたり。SKE48野村実代&原 優寧の“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

話題沸騰のにじさんじ発バーチャル・バンド「2時だとか」表紙解禁!『Quick Japan』60ページ徹底特集

TBSアナウンサー・田村真子の1stフォトエッセイ発売決定!「20代までの私の人生の記録」