物語の構造から真犯人を推理
冒頭に掲げた疑問点をもう一度記す。
・なぜ考察しにくい物語構造にしているのか?
・「デヴィッド・フィンチャーのオープニングみたいですね」と警察官が言ったわけは?
・過去回想で「私彼氏できても絶対言わない」という場面が指し示すこととは?
・考察YouTuberぷろびんなど、野次馬の喧騒を強烈に描くのは何故か?
・失踪を心配しはじめて3日後に、炎上覚悟でネット記事を出すのはさすがに性急すぎないか?
・ドラマの冒頭が(今のところ事件と関係のない)エリンギサンタ事件で始まるのは何故か?
・『真犯人フラグ』というタイトルの意味は?
なぜ考察しにくい物語構造にしているのか?
『あなたの番です』で視聴者の考察が盛り上がり、今回の『真犯人フラグ』も「考察させよう」という意図がはっきりしたドラマになっている。
だが『真犯人フラグ』は考察のための小ネタやフラグこそふんだんに盛り込んであるが、実は考察に向かない物語構造になっているのだ。
第1話のレビューでも指摘したが、『あなたの番です』は、基本的に容疑者が団地内に集結していた。交換殺人ゲームをやっている設定で、つまり「犯人がこの中にいますよ」というフレームが明確で、殺人の連鎖を示唆するゲーム的設定をベースに考察を進めていけばよかった。「考察への導き」が物語構造として示されていた。
だが『真犯人フラグ』は考察しづらい物語構造になっている。
限定空間ではないので容疑者の範囲が絞りにくいのだ。
また、交換殺人ゲーム的な設定がないので、怨憎の人間関係が示唆されない。
そもそも凌介の家族が生きているのか死んでいるのか判然としないのだ。
第1話のラストで送られてきた少年の死体も、息子(篤斗)のものではなかったので、家族失踪とまったく関係のない便乗犯の可能性も高い。
そうなってくると、フレームがゆるゆるで、何でもありになり、考察するほどの絞り込みが未だ困難だ。
考察班の動画などをいくつか観たけれど、「まだ第2話なのでガッツリ考察できないね」というエクスキューズが語られる。
だが、人心を手玉に取ることに長けた天才、秋元康が企画原案だ。フレームを絞って疑心暗鬼の人間関係を作り上げて考察を加熱させることなどお茶の子さいさいのはずだ。
なぜ、それをしないのか。
そこで導き出される結論はこうだ。
『真犯人フラグ』は最終的には考察させるための推理ドラマではないのである!
どういうことか。
それを説明する前に、もう少し疑問リストに答えていこう。
「デヴィッド・フィンチャーのオープニングみたいですね」と警察官が言ったわけは?
「デヴィット・フィンチャーのオープニングみたいですね」というセリフが登場した。
『真犯人フラグ』が、デヴィット・フィンチャー監督の『ゴーン・ガール』と似ていることは、この各話レビューの1回目でも指摘した。SNS上でも多数指摘されている。
だから、このセリフは製作者からの「『ゴーン・ガール』とオープニングは似てるけど、ここから違う展開しますよ」というメッセージだと考えていいだろう。
もし『ゴーン・ガール』と同じ展開をするなら、わざわざ明かしたりせず隠そうとするだろうからだ。
では、それをどう裏切ってくるのか?
過去回想で「私、彼氏できても絶対言わない」という場面が指し示すことは?
第2話の過去回想シーンは、重要な場面だろう。
仲のよさそうな家族シーンとして描かれているが、キーはふたつある。
1.妻の真帆と娘の光莉と、凌介が会話してる場面で、娘の光莉が冗談っぽく言う「ダメだ、私彼氏できても絶対言わない」というセリフ。
2.篤斗がサッカーボールを部屋でバウンドさせていると、部屋のチャイムが鳴って、真帆が「ほら、来ちゃったよ」と言っている場面。
1は、失踪時には光莉に彼氏ができていても、父の凌介は知らないということを示唆している。
2は、相良家の下の部屋の住人が、騒音で苦情を言いに来たことが何度かあることを示唆している。
そして、相良家の下の部屋の住人は、ルールに厳しい池上さんだ。
特に【1】のポイントは、父凌介は、家族のことに無頓着だという描写のひとつだ。第1話では、息子の篤斗がサッカー部のエースだと凌介だけが気づいてなかったという場面もあった。
父親の無頓着は、家族失踪とどう関わっているのか?
考察YouTuberぷろびんなど、野次馬の喧騒をていねいに描くのは何故か?
『真犯人フラグ』の特徴は、事件関係者ではない野次馬が、考察したり、推理したり、暴言や苦情を吐き出す様子を強烈に描いているところだろう。
「炊飯器失踪」がSNSのトレンドに上がり、凌介はマスコミに囲まれる。
考察YouTuberぷろびんは、強烈なキャラクターで毎話登場するし、挿入歌まで歌っている。さらにドラマの中だけでなく、実際のYouTubeに動画がアップされている。
SNS上の暴言や、情報を切り取って曲解する様子も描く。日野の店にいた客がすべて潜入している記者だったというコミカルな描写もあった。
『あなたの番です』では、ドラマの外側にあった「野次馬として考察している人たち」を、今回はドラマの中で描いているのだ。
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