『見つける東京』:PR

都内に「すずらん通り」が多い理由とは?『見つける東京』が教えてくれる東京の秘密

2021.9.30
見つける東京

文=西村まさゆき 編集=高橋千里


「東京」をテーマにした雑学写真集『見つける東京』(岡部敬史 著・文/山出高士 写真/東京書籍)が2021年7月に発売された。

知っているようで意外と知らない「東京」のこと

日本一面積が大きい都道府県は、改めて言うほどでもないが北海道だ。では、日本一“範囲の広い”都道府県はどこか。それは東京都かもしれない。

東京都の広袤(こうぼう・東西南北の広さ)は、最北端の奥多摩町の酉谷山から、最南端かつ最西端の沖ノ鳥島まで1700km、その沖ノ鳥島から最東端の南鳥島まで1900kmもある。

北海道の宗谷岬から鹿児島県の佐多岬までを結ぶ直線距離が約1890kmであることを考えると、その広大さがわかると思う。

『見つける東京』(東京書籍)
『見つける東京』(東京書籍)

冬は雪に閉ざされる高山から熱帯の島までを含む東京は、広いだけではなく、日本全国から集まった人も含めて1400万の人が住み、政府や官庁があり、テレビ局、出版社、大企業の本社から零細企業まで、人とモノが集中する。そして、東京に関する情報は、日々マスメディアを通して日本各地へ大量に発信されている。

東京の情報が大量に発信されているメディアに常に触れている私たちはつい、東京についてなんでも知っているような気になっているかもしれない。

しかし、そういった東京への浅い認識に新たな視点を提供して、より深い理解へのヒントをくれるのが、この『見つける東京』だ。

「すずらん通り」が都内に15カ所以上ある理由

たとえば、東京には似たようなものがいくつもある。

見つける東京(東京書籍)
『見つける東京』(東京書籍)

渋谷の待ち合わせスポットとして有名なモヤイ像。これは、渋谷にあるものが一番有名だが、実は蒲田駅の東口にも存在する。さらに、竹芝、そして新島にもモヤイ像が存在している。

モヤイ像といえば渋谷だろう、という先入観を揺さぶる衝撃の事実だが、この「ひとつだけじゃなかったのか」というものはこれだけではない。

見つける東京(東京書籍)
『見つける東京』(東京書籍)

社会科の教科書にも載っている大森貝塚跡は、実は2カ所存在する。

大森貝塚は、日本で初めて発掘調査が行われた貝塚として有名だが、実際の場所は、発掘調査を行ったモース博士が、論文に詳細な場所を記さなかったため、長らくその詳細は不明となっていた。

見つける東京(東京書籍)
『見つける東京』(東京書籍)

その後、品川区と大田区がそれぞれ大森貝塚の記念碑を建立したため、貝塚の跡地は2カ所に分裂してしまう。現在は、品川区側のほうがおそらく正しいのではないか、ということになっているらしい。

『見つける東京』(東京書籍)
『見つける東京』(東京書籍)

また「すずらん通り」という通りも東京にやたらあるというのは、指摘されて確かにそうだと思わず膝を打ってしまった。

パッと思いつくものでも、銀座に「すずらん通り」があるし、神保町の駿河台交差点から白山通りまでの商店街は「すずらん通り」だ。

「すずらん通り」を名乗る通りは都内に15カ所以上あるというが、もともとは神保町の「すずらん通り」が大正時代にすずらん型の街灯を設置して繁盛したため、それにあやかり、各地の商店街が「すずらん通り」と名づけられたという説がある。

こんなふうに、同じようなものを見つけ出すだけなく、その微妙な差について思いをめぐらすのもいい。

見つける東京(東京書籍)
『見つける東京』(東京書籍)

たとえば、城南島の海浜公園の砂浜とお台場海浜公園の砂浜。どちらも東京都内に存在する人工の砂浜だが、砂の色がずいぶん違っている。城南島の黒ずんだ色の砂浜に対して、お台場海浜公園の砂浜は白い。お台場海浜公園の砂は、神津島から運んできた砂だから白いらしい。

見つける東京(東京書籍)
『見つける東京』(東京書籍)

離島といっても、同じ東京だ。海で何百キロも先の島とつながっていることを想像すると、わくわくするエピソードだ。

見つける東京(東京書籍)
『見つける東京』(東京書籍)

今年オリンピックが行われた新国立競技場の近くに国会議事堂みたいな建物がある……ということは、気づいている人も多いだろう。

石造の重厚な建物で、国会議事堂によく似ているけれど、真ん中の天井部分がドーム型になっていて国会議事堂とは微妙に違っている。明治神宮外苑の銀杏並木の先にあり、わりと目立つ建物にもかかわらず、いったいなんの建物なのかあまり知られていない。

見つける東京(東京書籍)
『見つける東京』(東京書籍)

この建物は聖徳記念絵画館といい、明治天皇の業績を中心に、明治維新の事績を顕彰した絵画を展示するために建てられた美術館である。中には、社会科の資料集で見たことがある大政奉還の絵や、憲法発布式の絵などが展示されている。

国会議事堂という、日本国民なら誰もが知っている建築物にそっくりの建築物が、あれだけ注目されたオリンピックスタジアムのすぐ横にある。こういった誰でも知っていそうだけど意外と誰も知らない東京の秘密を、密かに「見つけた」ような気がして楽しい。

場所だけじゃない。「東京」を教えてくれる食べ物

さらに、東京には建物や場所だけに注目していても見つけられないものもある。

和菓子店やスーパーなどでよく見かける「すあま」について、そこに東京らしさを見つけている人はどれほどいるだろうか。

すあまは「ういろう」によく似た味わいの和菓子だが、東京以外ではほぼ見かけない。このほかにも、カステラをあんで挟んだ「シベリア」、甘じょっぱい「みたらし団子」といったものも、東京にしかない独特な食べ物である。

こういった東京ならではの食べ物は、東京も日本にある地方都市のひとつでしかないということを、逆説的に教えてくれる。

『見つける東京』(東京書籍)
『見つける東京』(東京書籍)

以上、本書で紹介された東京についての事柄をいくつか紹介したが、これらは、一般的な旅行ガイドブックではなかなか紹介されることがないような小さな事柄だ。しかし、こういうことを知っているか知らないかで、東京という町に対する向き合い方は確実に違ってくるだろう。

この本には、東京という町の基礎教養として知っておいて損はない情報がどっさりと詰まっている。

東京書籍の本

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  • 『見つける東京』(東京書籍)

    『見つける東京』(東京書籍)

    著者:岡部敬史
    写真:山出高士
    発行:東京書籍
    判型:A5変形
    定価:1,430円(税込)
    初版年月日:2021年7月5日

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