傑作韓ドラ『D.P.─脱走兵追跡官─』軍隊の歪みが脱走兵を生み出す「みんな知ってて傍観してたくせに」

2021.9.16


「国民的年下彼氏」の顔を封印したチョン・ヘイン

主人公のアン・ジュノ(チョン・ヘイン)は韓国陸軍の憲兵隊所属となる。いきなり同室のファン・ジャンス(シン・スンホ)兵長から暴力の洗礼を受けるが、壁から飛び出した釘が頭に刺さりそうな場所で殴り続けるあたり、軍隊での暴力の陰湿さを象徴している。

Netflixシリーズ『D.P. -脱走兵追跡官-』独占配信中
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ジュノは洞察力の鋭さと物怖じしない態度、子どもの頃に父親のDVから身を守るために身につけたボクシングの経験をD.P.担当官のパク・ボムグ(キム・ソンジュン)に買われてD.P.となるが、最初の任務に失敗してしまう。軍隊の実態とジュノの失敗を描いた1話はひたすら暗くて重い。しかし、2話からジュノのバディとなるハン・ホヨル(ク・ギョファン)が登場すると、ホヨルの飄々とした性格も相まってストーリーに軽みと疾走感が与えられる。

ジュノを演じるチョン・ヘインは、『愛の不時着』(19年)のソン・イェジンと共演した『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』(18年)に主演して大ブレイク。「国民的年下彼氏」と呼ばれていたが、本作では甘さを完全に封印した役どころに挑んでいる。すでに兵役の経験があり、本作の軍隊のセットがあまりにリアルだったため、当時の緊張を思い出して「二等兵チョン・ヘイン!」と言ってしまってNGを出したエピソードがある。

ホヨル役のク・ギョファンは数多くのインディーズ映画に出演したカリスマ的な俳優で、自らプロデューサーを務めることもある。近年は大作『新感染半島 ファイナル・ステージ』(20年)にも出演。本作ではコメディリリーフ的な軽みのある演技で、大いにファンを増やした模様。どことなくロンブー淳のような風貌もSNSで話題となった。

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「みんな知ってて傍観してたくせに」

生真面目でまっすぐなジュノと口八丁のホヨルがバディとして脱走兵を追い、コワモテだが実は部下思いのボムグがボスとして2人を見守る。脱走兵にはそれぞれ事情や背景があり、彼らを逮捕してもジュノとホヨルの心にはどこか虚しさが残る。

クズの脱走兵に貢ぎ続ける女性の悲哀としたたかさを描いたエピソードや、認知症の祖母を守ろうとする頭脳明晰な脱走兵を追うエピソードなどは、1970年代の日本の刑事ドラマのような雰囲気が漂っていた。この時代の刑事ドラマは社会の歪みが犯人を生む物語が量産されていたが、『D.P.』では軍隊の歪みが脱走兵を生み出していることになる。

物語を覆う闇が濃くなっていくのは5話からだ。ジュノとも親しかったアニメ好きの心優しい先輩兵士、チョ・ソクポン(チョ・ヒョンチョル)が脱走してしまう。ソクポンは軍隊の中で執拗ないじめに遭っていた。血まみれになるまで殴られ、恥毛をライターの火で焼かれ、先輩兵士の退屈しのぎに自慰と射精を強要されていた。

我慢の限界に達したソクポンは、先輩兵士を半殺しにして脱走する。目的は自分をいたぶり抜き、除隊してしまったファン・ジャンスへの復讐だ。ソクポンはジュノとホヨルの説得にも耳を貸さない。彼はこう吐き捨てる。「みんな知ってて傍観してたくせに」───。

作家のキム・ボトンはインタビューやSNSなどでこのように語っている。現在でも軍隊にはまだ深刻な問題があり、「今はよくなった」と過去のことにしてはいけない。そして、無関心で傍観者である自分たちにも大きな責任がある、と。これは日本にいる我々にも突き刺さるメッセージだ。閉鎖的で腐敗した組織の中ではハラスメントや虐待が横行しやすく、上の世代の理不尽な論理は容易に下の世代に受け継がれていく。韓国の軍隊だけでなく、日本のそこここにも似たような“闇”があることを自覚し、変えていかなければならない。

最終話は必ずクレジットの後まで観てもらいたい。衝撃のラストシーンを見れば、我々はもう傍観者ではいられないはずだ。

『D.P. -脱走兵追跡官-』予告編 - Netflix

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    『D.P.─脱走兵追跡官─』

    出演:チョン・ヘイン、ク・ギョファン、キム・ソンギュン
    原作・制作:ハン・ジュニ、キム・ボトン

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大山くまお

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大山くまお

1972年生まれ。名古屋出身、中日ドラゴンズファン。『エキレビ!』などでドラマレビューを執筆する。

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