敵よりも悪に見える五条悟
後半では、「渋谷事変」が開幕。2018年10月31日ハロウィンに夏油と特級呪霊たちが起こした事件だ。渋谷の東急百貨店を中心に半径400mの帷(とばり、この場合は一般人が出られないバリアのようなもの)が降ろされ、大勢の一般人が身動きが取れなくなった。
ずっと前から入念に準備した超大掛かりな仕掛けは、まるで大物ボスを倒すためのよう。だが、この作品の強さの頂点には正義である五条悟(ごじょう・さとる)がいるため、ソレを行うのは敵側の夏油たちだ。五条は、言われるがままに、仮装した一般人が閉じ込められた渋谷駅副都心線ホームにひとりで赴く。
大勢の一般人の中で、待ち構えていたのは大地の呪い・漏瑚(じょうご)と森林の呪い・花御(はなみ)。能力を使うだけでまわりの人間を殺してしまう五条の動きを封じる作戦で、戦場自体が人質だ。しかし、基礎的な体術と呪力操作だけでじゅうぶんに強い五条は、2体の呪霊を圧倒する。
途中で一般人を巻き込む漏瑚だが、五条は「命を賭けてでも被害者をゼロにする」という損得度外視の熱血ヒーローではなく、「ある程度の犠牲は仕方ない」という冷静さを兼ね備えたリアリストなヒーローだ。まわりで人がバンバン殺されてもまったく同様の色を見せない。もっとも呪術師全体がそういった覚悟を持っているらしく、主人公である虎杖悠仁(いたどり・ゆうじ)も、少しずつそっち側へと変貌していく姿が描かれている。
焦りながら一般人を殺しまくる漏瑚たちに対して、五条は冷静に2体を追い詰める。やってることは完全に呪霊側が悪なのに、五条のほうが魔王っぽく見えるから不思議だ。「ココ弱いんだって?」と花御の両眼から飛び出た樹を引っこ抜く。まるで想像がつかない痛みの描写なのに、なんだかエグいことをしてる感が伝わる。
漏瑚に「こっちを見ろ!!」と一般人を人質を取られても、五条は無視して花御を呪力でゴリゴリゴリゴリッと潰して殺す。ぜんぜん正義の味方に見えない。
芥見下々のそういうところ
五条が花御を殺す一方で、虎杖は帷を守る呪霊・蝗GUY(こうがい)と対峙する。バッタが大量発生する災害・蝗害からきたもので、人語を話したり、人間の頭をボリボリ食べたり、それなりにインパクトがあったのだが、全ては虎杖の成長を見せるための前フリに過ぎなかった。「小細工では埋まらない差が、両者にはある」だそうで、やられる描写すらなく蝗GUYは殺されている。
また、死んでいく大勢の人間が「ハロウィンの渋谷でバカ騒ぎしてる人」なのも、芥見下々のそういうところがちょっとだけ垣間見えた気がする。
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