1999年当時の韓国社会を垣間見る
毎回挿入される5人の学生時代の回想シーンでは、新入生歓迎会での出会いや、バンド活動の始まりなどが描かれている。当時の髪型やファッションがどことなく野暮ったく垢抜けないのも、現在のビシッとした医師の姿と対照的で微笑ましい。恋愛がメインの作品ではないが、実はいろいろな想いが錯綜していたことも、徐々に明かされる。
さらに、回想シーンでは当時の韓国社会の様子が垣間見られ、現代とのギャップが感じられるのもとても興味深い。
たとえば第4話では、ソッキョンの最新型携帯電話に全員が驚くシーンがある。「32文字もメッセージが送れる」と自慢げなソッキョンに、「将来は携帯電話で写真が撮れたり、クレカ代わりに決済できたり、テレビまで観られるようになるかも」と一同が盛り上がる。2021年現在、それらすべてが当たり前になり、サムスンがスマホシェアで世界1位を競っている現状(※3)を当時の5人に伝えたら、どんな反応が返ってくるだろうか。
第6話では、地方出身のイクジュンとジュンワンが大学の試験会場に向かうシーンがある。バスの乗車料金が340ウォン(約34円)であることに「ソウルは物価が高い」と驚いたり、小銭を数えるさまが印象的だ。現在ではバスの乗車料金は1,250ウォン(約125円)、非接触IC交通カードかスマホをかざす乗客が大半で、現金で支払う乗客はほぼ見られない。
大学生だった5人が40歳の優秀な医師へと成長した20年間で、韓国社会もまた猛スピードでさまざまな変化を遂げてきたわけだが、ドラマを通じてその一端を少しだけ感じることができる。
作品内で直接描かれてはいないが、彼らが大学に入学する少し前に、韓国は国家破産をギリギリで逃れるという国難に見舞われている。
80年代末に軍事政権が終わり民主化を遂げ(1987年)、ホスト国としてオリンピックを主催(1988年)。好景気を享受したが、アジア通貨危機(1997年)で状況が一変。財閥グループは破綻、中小企業が次々に倒産し、大量の失業者が生まれた。
そのあとIMF(国際通貨基金)の支援を受けて財政改革を図り、2002年には日韓共催でサッカーワールドカップのホスト国となる。元祖韓流ブームの火つけ役となった『冬のソナタ』は、同年韓国で放送開始となった(日本では翌年の放送)。
筆者は5人と同世代なのだが、当時、ワールドカップや『冬ソナ』関連のニュースを通じて垣間見られる韓国は、日本と大差ないように見えた。だが、実際にはその直前に激動の時期をくぐり抜けてきており、そんな時代にあの5人は10代を過ごしてきたことになる。
そのような想像を巡らせると、現代史として歴史の教科書に刻まれるような一連の出来事も、グッと身近に感じられる。ドラマには、そのような力もあるように感じている。何度目かの韓流ブームが到来し、韓国のドラマの人気が高まる昨今、一過性のブームで終わるのではなく、隣国とそこに生きる人々への理解につながっていくかもしれない。
※3:『聯合ニュース』「スマホ世界シェア サムスンが21.7%で首位奪還=1~3月期」参照
待望のシーズン2、初回放送は歴代1位の視聴率を記録
韓国では2020年のNetflix年間視聴率1位だった『賢い医師生活』、日本での順位を見てみると、なんと62位(※4)! 1位の『愛の不時着』や3位の『梨泰院クラス』のようなわかりやすさはないが、1話でも観てもらえたら、必ずやそのいぶし銀のような魅力が伝わるはず。
シーズン2の初回放送ではtvNドラマ歴代1位の視聴率を記録し、韓国での変わらぬ人気ぶりが窺える。シーズン2も全12話完結、9月に最終回がNetflixで配信される予定だ。今からでもまだ間に合うので、ぜひシーズン1から追いかけてみてほしい。
※4:『FlixPatrol』「TOP 10 on Netflix in Japan in 2020 (Full)」参照
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