優しさに満ちたドラマがコロナ禍の癒やしに
ここでは、5人のムードメーカー的存在であるイクジュンのエピソードを、シーズン1からいくつか取り上げてみたい。
大学を主席で卒業し、肝移植の名医として評判の肝胆膵外科医イクジュン。唯一の子持ちで、シングルファザーでもある。第1回ではダース・ベーダーのお面で現れ(愛息ウジュと遊んでいたら外れなくなってしまったらしい)、そのまま突然代理を頼まれた難しいオペをさらりとこなした。強烈なインパクトを残す初登場シーンだった。
愛息ウジュにメロメロだったり、他人の恋愛にお節介を焼いたりと、お調子者でコミカルなキャラクターのイクジュンだが、患者とその家族には常に真摯に向き合っている。
第3話では、オリニナル(子供の日、韓国の祝日)の朝、妻子に付き添われ笑顔で退院した担当患者が、同日夜に交通事故で意識不明のまま病院に運び込まれる事態が起こった。回復せぬまま24時近くに脳死移植が決まったが、ロビーで泣き疲れて眠る子供を見て、「(死亡時刻が確定する)臓器摘出手術は15分待ってからしよう」と提案する。それは、父を亡くした日がオリニナルだと今後毎年いっそうつらくなってしまうだろうから、というイクジュンの思いやりからだった。
第7話では、肝臓を提供してくれた夫の浮気をのちに知り、自暴自棄になって治療を放棄しようとする患者を担当する。「先生は恵まれているから自分の気持ちなんてわからない」という患者に対し、イクジュンは自身も妻の浮気のため離婚した経験を打ち明ける。「一時期はすべてどうでもよくなった。でも、過去に縛られるのではなく幸せになるために生きようと思った」そう語りかけるイクジュンに心を打たれ、患者は治療の再開を決心する。
第6話で、ソンファに家族のように寄り添う姿も印象に残った。ソンファは乳癌の疑いがあることを4人に打ち明け、気丈に振る舞う。だが、翌朝精密検査の結果を受け取りに向かうとき、彼女の手は震えていた。診療室の待機ロビーでは、夜勤明けのイクジュンの姿が。「ひとりで行くから大丈夫」と言いながら、ソンファが内心とても不安だったことを見透かしていたのだ。ソンファの担当医師や看護師に缶コーヒーを手渡して労い、説明を受けるときもソンファの隣にいた。
幸い、腫瘍は良性との結果が出る。安堵したソンファが出勤し診察準備をしていると、ソッキョン、ジョンウォン、ジュンワンが次々に診察室に顔を出し、結果を聞くと安堵の表情を浮かべる。みんなのソンファへの愛情が伝わる、とてもいいシーンだった。
『賢い医師生活』は全編を通してこのような優しさに満ちていて、その温かさに触れるたび、涙があふれてしまった。シーズン1の放送時期(2020年3〜5月)がコロナ禍の拡大期に重なり、社会が不安に包まれ、同時に医療従事者への感謝と敬意がいっそう深まっている時期だったことも、もしかしたら影響しているかもしれない。
ちなみに、韓国で医師は常に人気の職業だが、昨年実施した小中高生の憧れの職業調査では、医師・看護師の順位が急上昇したのだそう(※2)。
※2:『wowKora(ワウコリア)』「韓国の子どもたち”憧れの職業”、医師・看護師が急上昇=コロナ禍が影響」参照
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