孫悟空(『ドラゴンボール』)でさえ言われなかった言葉
パパ黒が夏油と星漿体の少女を相手にしている間に、五条は死の間際で「反転術式」をマスターして復活する。「反転術式」とは、呪力という負のエネルギーを掛け算して正のエネルギーを生み出す、というものなのだが、ここら辺はふんわり理解していればいいヤツだろう。たぶん芥見下々もそこまで全部理解した上で読んでくれとは思っていないはずだ。「反転術式」のほかにも「術式反転」だの「術式順転」だの「虚式」がのが出てくるので、そこら辺もざっくりで諦めちゃってもいい。
とにかくここで大事なのは、五条が「反転術式」をマスターしたこの瞬間に、「最強」というポジションを確保したことだ。意識の外でも敵の攻撃の無力化に成功し、この先は呪力の無いパパ黒のような敵に不意を突かれてもやられることはない。イカサマレベルで無敵になった五條は、ひとりで全てをこなし始める。
任務失敗をいとも簡単に尻拭いされた後輩の七海建人(ななみ・けんと)は、「もうあの人ひとりでよくないっすか?」とこぼした。『ドラゴンボール』ではクリリンが「悟空さえいれば」と言っていたが、これとは意味が似てるようで感情がまるで違う。リスペクトを飛び越えて軽蔑が含まれた言葉だ。そりゃそうだ、どんなに強い格闘家だって、横にピストルを持った警察がいたら率先して強盗に立ち向かおうとはしない。五條は、呪霊と同時に呪術師の存在意義を殺したのだ。
そんな五条ができなかったこと
これによりコンビを組んでいた夏油はひとりで行動する機会が多くなる。もとから繊細な性格の持ち主だった。
「救われる立場」である非術師への嫌悪の思いを抱いていた夏油は、特級呪術師・九十九由基(つくも・ゆき)によって、「呪霊の元となる非術師を消せば、この世から呪霊がいなくなる」という事実に気付かされる。自分が命を賭けても守れなかった星漿体の少女の代わりがあっさり見つかり、問題なしとされたことも正義の置き所を失わせた。
とある村で呪力を持つ少女が非術師によって虐げられていた事実を目の当たりにした夏油は、非術師の村民を皆殺しにする。夏油は、呪術師から呪詛師へと生まれ変わったのだ。何でもひとりでできるはずの五條は、変わってしまった盟友を止めることはできなかった。
9巻のラストは、回想が終わって現代に。呪術高専京都校の2年生・究極メカ丸(アルティメットめかまる)が、呪霊軍団のスパイだったことが発覚する。スパイの報酬として、真人(まひと)の能力で身体を治してもらったメカ丸は、その場で真人に戦いを挑む……というところで終わり。10巻では、現時点で最長編となる「渋谷事変」が開幕する。
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