『サマーウォーズ』汗だくのラスト8分間を考察。なぜ健二は小惑星探査機の直撃を阻止できたのか?

2021.7.16
サマーウォーズ

細田守監督/スタジオ地図の最新作『竜とそばかすの姫』の劇場公開が開始した。それに合わせ、同監督の『サマーウォーズ』が金曜ロードショーで放送される。

『サマーウォーズ』といえば、主人公が渾身の力でエンターキーを押しながら叫ぶ「よろしくお願いしまぁぁぁぁす!!」が有名だ。しかし、あのシーンではいったい何をしていて、何が起こっていたのだろうか? 作中では明かされていない詳細を、天体や宇宙に詳しいライターのツヤマユウスケが解説・考察する。

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1:時速4万キロの「あらわし」は弾道ミサイル以上の威力?

『サマーウォーズ』公式サイトより

「正午のニュースをお伝えします。小惑星探査機『あらわし』は、今日午前、太陽周回軌道から地球の衛星軌道に乗りました。今後、小惑星マトガワで採取したサンプル入りのカプセルを打ち出す予定です」

映画の冒頭、インターネット上の仮想世界「OZ」でこんなニュースが流れる。

その後、ハッキングAI「ラブマシーン」が「OZ」でほかのユーザーアカウントを乗っ取り、現実世界の通信網、水道、交通、医療などのインフラを機能麻痺に陥れる。

また、ラブマシーンは「あらわし」の再突入カプセル(作中、「再突入体」とも呼称)を使ったテロ攻撃を企てる。主人公の小磯健二がいる長野県上田市陣内(じんのうち)家を目がけ、「あらわし」を落下させようとしたのだ。

カプセルは、探査機本体から切り離されて地球の大気圏に突入し、小惑星の破片を地上に届けるためのもの。モデルになったのは、実在する小惑星探査機「はやぶさ」だ。

『サマーウォーズ』
「あらわし」のモデルになった「はやぶさ」の模型(筆者撮影)

「あらわし」再突入カプセルが、爆弾でもないのに恐ろしい兵器になり得る理由はふたつある。

ひとつは、その飛行速度。「あらわし」は地球へ帰還する途中、制御不能となって大気圏に突入した。「はやぶさ」と同程度の速度だとすれば、「あわらし」は秒速約12km(時速約43,000km)だった。これは、大陸間弾道ミサイルのスピード秒速約7km(時速約25,000km)を上回る。ぶつかったときの衝撃は強烈だ。

「あらわし」が怖いもうひとつの理由は、ピンポイントで再突入カプセルを落とせることだ。

通常、宇宙からやってくるカプセルというのは、どこに落ちてくるか正確には予測できない。たとえるなら野球ボールのようなもので、投げられた瞬間の勢いと重力に身を任せて飛んでいくだけだ。翼もエンジンもないから、強風で軌道が変わっても元に戻せない。

「はやぶさ」の場合、カプセルの着地予想範囲は100km四方以上。東京都がすっぽり入るくらい広い。だから安全を考慮し、人口密集地ではなくオーストラリアの砂漠地帯が着地点になった。

対する「あらわし」は、この点、技術的な問題をクリアしているらしい。作中の描写によると、「あらわし」再突入カプセルは尾翼やエンジンを持つとみられる。つまり、軌道修正をしながら正確に目的地まで進む。

「はやぶさ」のカプセルをボールにたとえるなら、「あらわし」は自由自在に飛べるドローンのようなものだといえる(もっとも、「あらわし」レベルの小惑星探査機はまだ実現していない)。

2:ラブマシーンの戦術はGPSの乗っ取り

「あらわし」のモデルになった「はやぶさ」の模型(筆者撮影)

「『あらわし』はGPS誘導で任意の場所に落下できる性能がある」

「今まで奪われたOZアカウントは全体の38%、4億1200。その中からGPS管制を司るアカウントを取り戻すこと! 2時間以内に……」

このセリフから、ラブマシーンはどうやって「あらわし」を長野県の陣内家に落下させようとしたのか考えてみる。

GPSでなじみ深いものといえば、スマートフォンのナビアプリ。まずはそれを思い浮かべてほしい。スマホはGPS衛星からの電波をキャッチする受信機だ。GPS衛星は空飛ぶラジオ局みたいなもので、全部で30基ほどが高度2万kmにいる。それぞれの衛星が、「◯時◯分◯秒現在、当機は~の地点にいます」というような情報を全世界に流している。

GPS衛星は、同時にたくさん飛んでいることにミソがある。あちこちの衛星が同時刻に電波を発しても、それらが受信機に同時に届くわけではない。ごくわずかにタイミングがずれる。なぜなら、電波も音や光と同じように、一定の速さを持って進むからだ。このタイミングのズレをもとに、受信機は各衛星との距離を計算し、自分の居場所を突き止める。

もし、GPS衛星が偽の情報を発信すれば、受信機は自分の居場所を勘違いする。地図上の現在地が変わるので、ルートを変更してしまう。ラブマシーンは、GPS衛星を管理するアカウントを乗っ取って偽情報を飛ばし、「あらわし」を目的地とは違う場所に行かせたわけだ。

わかりやすい例が作中にある。陣内家の家族が長野県に向かう途中、カーナビの表示がデタラメになるシーンだ(車は埼玉にいるのに、画面上は北海道の五稜郭だった)。これは、ラブマシーンがGPS衛星に搭載されている原子時計を狂わせたことで起こった現象である。

ラブマシーンに勝っても、健二はやはり逮捕されるはず。その理由とは?

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