少女漫画家にガチ添削されて「密着する男女」を描き直してみた…これがキュンか!恐るべし少女漫画脳
「少女漫画みたーい!」などと簡単に言うなかれ。それはプロの技術なのである。「キュン」も「ときめき」も解釈と狙いが組み合ったところにしか立ち上がらないのである。少女漫画家・小沢かなの容赦ない添削は、主に青年誌で活動する漫画家・うめ作画担当妹尾朝子の「少女漫画脳」を鍛え、甘いキュン技法の会得に導いたのか。
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制服の靴下を脱ぐ脱がない問題
先日、キャンペーン告知のためのイラストをアップした。
『アイとアイザワ』は天才女子高校生・アイと、AI・アイザワの「冒険」と「恋愛」をテーマにした漫画だ。これまで単行本の表紙やアイキャッチ用のイラストは、自分の得意分野なこともあって「冒険」ばかりをテーマにしてきた。しかし今回のイラストはファンサービス的な意味合いが強い。だったら、もうひとつのテーマ「恋愛」で、見た人が「キュン」とするような絵を描いてみてもいいかもしれない。
この手のときめきといえば、少女漫画である。不得手なりに、自分が持つ少女漫画力をすべてを出し切って表現した……つもりだった。そのときまでは。
公開してしばらくたったころ、親しい友人の少女漫画家・小沢かなからこんな質問が来た。
「ふたりの間の隙間は、アイちゃんとアイザワの心の距離感を表現してるのですか?」
……隙間? ……心の距離感? え? どこかに隙間ある? だいぶ密着してると思うけど。
あれより密着したらめり込んじゃうでしょ。
するとなんと添削イラストが返ってきたのだった。
妹尾の中に設置されてる、少女漫画力タンクが花瓶レベルの貯水量だとすると、小沢かなの貯水量はダムだった。
この添削を見たあとは、完全に密着していてこれ以上くっつくところなどないと思っていたふたりが、空間だらけに見えてくる。小沢かなの目を通してみると、確かに元のイラストには微妙な距離感があり、添削された方のふたりのほうが親密に見える。
しかしなんで裸足?
「え?同じ部屋にいる感じしませんか? ずっと一緒にいるんだなって。親しくないと制服の靴下脱がないかなって思いました」
へー!! 全然気づかなかった!
「ネクタイゆるめるのと同じ感じっていうか……(あまり深くは考えてなかった)」
親密度が上がる! 親しくないと制服の靴下脱がない! しかも答えた本人深く考えてない!
まるでシャーロック・ホームズみたいな考察力である。恋愛ホームズ。
LINEの返事を読みながら「なぜ、アイのふくらはぎによけいな線を1本足した!これがなきゃ素足じゃん!」と、ひとり苦悩した。
わたしも少女漫画脳を磨きます!
その後も小沢かなの名言は炸裂する。
「とりあえずどこもかしこもくっつきたいんですよ」
「その上でまだ足りない、もっとこっち見てよ、の仕草が入る感じです」
……なるほど。でもそれだと本が読めなくない?
「本なんか読んでませんよ(笑)」
「本を読もうとしていたことに驚きです!」
本なんか読んでいない!本を読んでるイラストを描いたこっちが驚きですよ!
剣豪が「剣を抜く前に勝負はついてる」みたいな境地である。
この「キュン」にまつわる鋭く深い考察があまりにおもしろいので、フェイスブックやツイッターに投稿したところ、少なからず反響があった。コメントをくれた方の中には、なんと「キュン」や「ときめき」を自在に操るはずのベテラン少女漫画家さんやBL漫画家さんもいた。あなた方は小沢かな側の人間なのでは……!
・朝子さんのだけ見てる時は普通にラブいね♡と思ってたのに、かなかなのを見た後だと「ちょ…アイ…む無理すんな…」て思ってしまうのすごい…。(『ホタルノヒカリ』など。ひうらさとるさん)
・妹尾先生のイラストもグッとくるんですが「靴下を脱がす」だけでも全然感じられる雰囲気が違うと知りました。小沢かな先生すごい。ディテールが作る空気…(『ちはやふる』など。末次由紀さん)
・かなかな師匠に師事して、わたしも少女漫画脳を磨きます!(『深海のふたり』など。冬乃郁也さん)
こんな感じで大絶賛である。
ほかの方の感想もご覧のとおり。
・す、すごい&面白い!我々のトキメキはこうやって引き出されてるんですね…!
・カナカナ妄想バージョンは裸足もそうですが、さりげなく男女の足が絡んで密着してることで露出対策にもなっててさらに安心感!
・体格差ってこの時のこのような為に大事なのですよね♡
小沢かな大絶賛が落ち着くと、妹尾に対するフォローもちらほら。ありがとうございます。
・かな先生verのキュンがメガ盛りに震える!(中略)もとのふたりの距離感の初々しさがまぶしい恥ずかしい、ちょっとー! となりましたw
・やはりゲームを描くだけあってコリジョン判定が厳密なのかもしれません!
・朝子さん、視線が男性側にあるよね。
いや、礼を言うとこではなかったかも。
小沢かな本人は面食らっていて「私よりキュン度高い人いっぱいいますよ!」と謙遜している。でもね、確かに「キュン」や「ときめき」を息をするように表現できる方はいるかもしれないけれど、こんなふうに言語化・解説できるのは特殊能力だって。身の回りの大人たちは「どこもかしこもくっつきたい」対象が今では「ペットなら」「子供とはよく」という方がほとんど。大人になっても心の中で10代のころの自分を飼いつづけている稀有な存在なんだと思う。
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