出雲霞、みやまん……巨大な劇場型配信
今回の黛灰の場合は、今や定義が消滅しつつある「VTuber」「バーチャルライバー」という存在について、「黛灰のプレイヤー」として考える定義を表現するための物語でもあった。
今までも視聴者の考え方や意思を問うスタイルでのバーチャルな展開はいくつかあった。中でもにじさんじの出雲霞は、デビューの最初から自身の物語を構築し、数多くの配信や動画で自身の存在のあり方に絡めたストーリーを作った語り部だった。特に自身を物語として完結させ、生きた「ライバー」から「キャラクター」にするために引退するところまでセットで組み上げたのは、VTuberとしては異例で大いに話題になった。すべてが終わったあと、語り部・演出家としての出雲霞がメタ的に、解説を加える配信をしている。
YouTubeで動画を上げていたバーチャルな姿の女子高生たちが、次々と殺害されていく「都まんじゅう(みやまん)」を描いた「Project:;COLD」も大きな話題を呼んだ。最初はほんわか女子高生ライフを見せるVTuberチャンネルかと思いきや、突然彼女たちが死んでいくサスペンス展開に。その謎を解くのは視聴者、というリアル脱出ゲームのような流れが生まれ、ファンはそのモキュメンタリーの中に参加して、血眼で答えを探した。ヒントはYouTubeチャンネルやツイッターアカウントを飛び越えて、実際の町の広報やVRChat、登場人物の隠しアカウントなどさまざまな場所に散らされた。謎がすべて解けたあとに、ずっと秘密にされていた仕掛け人が登場しプロジェクトについて語っている。
1000万円の募金!
バーチャルな存在たちの物語は、語り部が大多数の視聴者を巻き込んで、リアルタイムで語ることができる強みがある。次第に観客は物語のひとりとなり、責任の一部を担い始める。今回の黛灰の映像は、より深く大掛かりに現実に食い込んだ形式の表現だ。新宿アルタビジョンで映像を見た人は、黛灰の行く先を投票した人は、その体験を一生忘れられないだろう。
同じような物語や問いかけは、映画や演劇でもできる。しかしそこにいるのは最初から「演者と無関係な作られたキャラクター」だ。一方VTuberは、キャラクターとアバターのどちらでもない、アクター(プレイヤー)本人にも近い存在、という特異な状態であるがゆえに、会話は物語は重たいものになる。もし自分の一票で相手の人生が変わったら……という恐怖感は真に迫るものがある。
彼の配信はここからまたつづいていくが、物語はいったん終了のようだ。ぜひ過去アーカイブの中から引っかかるものがあったら、少しでも観てみてほしい。きっと新しい劇場表現が見えるはずだ。
余談だが、今回の物語が完結したあと、彼は視聴者からもらったお金の中から「君たちの住む世界の児童養護施設」に1000万円の募金をしている。VTuberの社会貢献としても、彼は大きな足跡を残した。
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