VTuber黛灰(チャンネル登録者40万人)が起こした一連の「街頭ジャック」事件は、見えないかたちで確実に現実を変えた。刺激的な発言、行動を新しい劇場表現として捉え、VTuberのご意見番たまごまごが解説する。
黛灰が起こした現実への干渉
6月19日の新宿アルタビジョン。にじさんじのVTuber黛灰(まゆずみ・かい)が映し出された。広告ではない。いわば仮想的な「街頭ジャック」だ。普通の広告が流れるなか、唐突に映像が切り替わり、彼はつぶやき始めた。
「この映像は宣伝でも広告でもなく、何か意義のあるものでもない。これを聴いている現実を生きる人たちに、ただ聴きたいことがあって、こうして直接干渉しに来た」
当日の実際の発言はフルでアップされているので、動画で一度見てほしい。
この動画は視聴者や通りすがりの人がいろいろなカメラで捉えたものの、多視点の組み合わせになっている。彼はディスプレイの向こう「バーチャル側」から語りかけている。聴いているのは「現実」のファン。
「今耳を傾けて、目を向けてくれる人たちには、俺がどう映ってる?」
「俺は、今見てる人たちと同じ「人間」なんだ。「人間」のはずだった……」
VTuberがリアルタイムに自身を表現する、今までに例のない見せ方。ネットに上がっていたコメントによると、通りすがりの知らない人は「映画の撮影かな」と話していたそうだ。
SNSが捉えられなかったバーチャルの幻
この映像には新宿だけでなく、渋谷のスクランブル交差点の多数の大型ビジョンにも、黛灰が映されている様子が見られる。ただ渋谷での様子については現実での意見が錯綜している。
ツイッターでは渋谷のスクランブル交差点で黛灰の映像を見たという証言がほとんどない。新宿で映す、という発表は事前にあったのでファンはそちらに集まっていたのだが、渋谷はみんなノーマーク。だからほとんどのファンはそもそも渋谷におらず現場を見ていない。
技術の高い合成映像ではないか、という意見も出ていた。だが、この映像が「本物ではない」という証明がその時点ではできなかった。情報が集積しまくるSNSですら決定的な事実を出せず、むしろ錯綜した。彼の言うように、バーチャルな一存在の必死の訴えは、一般的には「宣伝」や「広告」にしか見えていなかったのかもしれない。
「現実に干渉してきたって、SF風味な設定の最近流行りのVTuberの映像って、そんなところなんだろうか」
早足で人が歩く渋谷のスクランブル交差点で、流れる映像を凝視する人はほとんどいない。それが電波ジャック的な干渉だとしても「消費される1キャラクター」として扱われるかもしれない、という(真偽はともあれ)説得力がある映像だ。だからこそ、がらんどうのガワでしかない、と語りかける黛灰。
「どうしてそっちがリアルで、こっちがバーチャルなの」
そう語ったあとに彼は消え、ビジョンにはいつものCMが再び流れ出した。多くのファンの衝撃がざわめきとなったものの、動き出した街は彼のいた余韻を幻だったかのようにかき消してしまった。
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