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稲田俊輔『だいたい1ステップか2ステップ! なのに本格インドカレー』が教えてくれた 豊かな人生のための「時短レシピ」

2021.4.30

「食」への偏執狂的パッションがレシピを駆動する

本書は、タイトルに「インドカレー」と銘打っている「カレーのレシピ本」だ。しかし、これから紹介する3章「つくおきスパイスおかず&つまみ」こそが、実は本書のハイライトにして真骨頂だと考えていたりする。

ここではカレーの副菜や、晩酌用のスパイスつまみのレシピが紹介される。しかし、それらは基本単体では存在せず、いずれも「つくおきベース」と呼ばれる、おかず/つまみの素的なものから派生するかたちをとる。

つくおきベースには、「万能マリネベース」「水アチャール」「万能キーマベース 」の3つがある。

「万能マリネベース」は、香味野菜+ハーブ+レモン汁+酢から成る、玉ねぎたっぷりのマリネ液。この汎用性の高さがすごい。生魚と和えてもよし、焼き野菜と和えてもよし、茹でたジャガイモと和えれば酸味の効いたスパイシーポテサラまでできてしまう。もちろんベースは同じだから味の傾向は似ているが、ヨーグルトやスパイスを効果的に使うことで見事に差別化を図っている。

万能マリネベースを使って作った「サーモンのインディアンセビーチェ」。「もしも南インドに生魚を食べる習慣があったら、こういう料理があったにちがいない……」という想像から生まれた創作モダンインド料理、とのこと。ヨーグルトの爽やかなまったり感がいい
タコと枝豆のマリネ。飲みながらでも余裕で作れる簡単さが素晴らしい
ジャガイモのボルタ。練りがらしがいいアクセントになったスパイシーポテサラ

「水アチャール」は、塩水に野菜、ニンニク、レモンなどを漬けたもので、ビジュアル的にはピクルスとか水キムチを思わせる、浅漬けみたいなもの。これにヨーグルトを混ぜればライタに、パプリカパウダーとカイエンペッパーなどを混ぜれば、インドカレーのつけ合わせでおなじみの真っ赤なアチャールに変身。もちろん、そのまま食べても旨い。

水アチャール
水アチャールを使って作った「スパイシーアチャール」を添えた「絶品ポークビンダルー」。圧力鍋を使うので豚バラブロックがホロホロに。本レシピ集の中では手のかかる部類だが、この濃厚な味わいは試す価値アリ。強くオススメ

一番驚いたのは「万能キーマベース」だ。フライパンに挽肉、スパイス、パクチーなどを放り込み、大胆にもそこで混ぜてしまう。そのまま薄く広げて両面を焼くと、でき上がるのは平べったい大型のハンバーグ状のもの。半分はそのままハンバーグとして、残り半分は粗めにほぐして使用する。

スパイスの効いたドライめな肉は、インドのつくね、シークカバブを思わせる味と食感で、そのままハンバーグやハンバーガーとして食べても旨い。ほぐしたほうは、パンに載せてとろけるチーズと共に焼いたり(おつまみキーマトースト)、やきとん屋で定番のつくねの食べ方のように、半分に切った生ピーマンに詰めてバリっとやってもいい。

コフタ風スパイシーハンバーグ(万能キーマベースのほぐさないバージョン)
絶品エスニックバーガー。肉の主張が強いので、バンズもおいしいものを使いたい(近所のスーパーで適当に買ったら、完全に肉に負けていた……)

さらには、フライパンに残った焼き汁にスパイスや香味野菜、トマトの水煮缶などを加えて「万能ソース」にリメイク。これはハンバーグやハンバーガーのソースとして使ったり、ゆで卵と一緒に食べたりする。ほぐした肉と合わせれば、肉肉しいキーマカレーに変身だ。一切の無駄なく、貪欲に食べ尽くす胃袋魂に脱帽である。

「パリパリピーマン肉詰め」と「万能カレーソース」を使ったエッグマサラ。酒が進む
「万能キーマベース」と「万能カレーソース」を合体させた濃厚なキーマカレー

「これでもか」と言わんばかりのアイデアのつるべ打ち状態に、「食」への並々ならぬ関心——なんてものを遥かに超えた過剰さ、ある種の偏執狂的なパッションをビシバシと感じる。が、考えてみればそれもそのはず。2021年に、著者が発表したエッセイ集『おいしいもので できている』(リトルモア)が、まさに「常軌を逸して食べることが好きな人(中略)の自己症例報告のようなもの」と位置付けられているように、このレシピ集も、そうした人間による実践報告の一形態だと考えれば合点がいく。

「時短」の真の目的

本書を通底するテーマに、「時短」があるということはすでに書いた。

時短とは、文字通りアイデアによって作業工程や時間を短縮することである。その目的は余剰時間を作ることであり、それは他の労働や休息などに充てられるイメージが強い。

しかし、「常軌を逸して食べることが好きな人」である稲田は、時短によって生じた余剰時間を、さらに「食」へと充ててほしいと欲望する。1種類のカレーを作る時間で2種類作れるようレシピを構築したり、ひとつのベースから複数のおかずやつまみを生み出せるよう趣向を凝らすのも、読者にゆっくり食事を楽しんでほしいから、よりたくさん食べてほしいから、という願いが根底にあるからにちがいない。巻末に「帰宅後30分で始められる! かなり本格スパイスディナー」と銘打ち、帰宅してお酒などを飲みつつ調理・食事をするプランを、タイムテーブル&フローチャートと共に懇切丁寧に提案する「読者の生活」への過剰な介入っぷりも、「食こそ幸福の源である」という信念ゆえのこと。

記事中では触れてなかったが、本書にはスパイスドリンクのレシピも収録されている。写真は「スパイシージンジャーエールの素」をキンミヤ焼酎のストレートにたらしたもの。やきとん屋でおなじみ「キンミヤ梅割り」のイメージで、勝手にアレンジ。これはガツンときます。そして、よ、酔う……(氷を入れると飲みやすくなります)。 普通にキンミヤ+ソーダで割ってもおいしいし、ソーダのみならジンジャーエールに

実用書としての役割を十全に果たしながら、同時に「豊かな人生」という大命題へとリーチする本書は、レシピ本のかたちを借りた“ある種の”思想書と言ってもいいのかもしれない。


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  • だいたい1ステップか2ステップ! なのに本格インドカレー 書影

    だいたい1ステップか2ステップ! なのに本格インドカレー

    発行:2021年3月1日
    定価:1,760円(税込)
    著者:稲田俊輔
    頁数:118ページ

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