芸人が売れていく過程を“入れ歯”によって体感する中年ラジオ『錦鯉の人生五十年』

2021.2.15

3つの“ボケ”がない交ぜになった長谷川、AVとVTuberに異様に詳しい渡辺

錦鯉のふたりとラジオ界で活躍する同世代の芸人で大きく違うのは“立場”だ。同世代のすでに名を馳せているメンバーは芸人としての地位は確立されていて、もはや若手特有の貧乏エピソードや苦労話とは無縁である。しかし、錦鯉にとってはそれが日常。いいオッサンにもかかわらず、ラジオ番組でもひもじいバイト生活から生まれたエピソードが次々と飛び出す。

特に長谷川は「同じアパートに住む中年芸人仲間に1000円貸してと頼んだら断られて、懇願して300円だけ借りた」「交通費がなくて交番でお金を借りようとしたら、警官に取り囲まれた」「テレビの企画で貧乏芸人のオーディションがあったが、そもそも会場に行くお金がなかった」なんて笑える貧乏話には枚挙にいとまがなく、若いリスナーから「忍びない気持ちになったので食べ物を送りたい」とツッコミメールが届いたほどだ。

オッサン特有の“老い”もよく話題に挙がる。錦鯉の中では若いほうの渡辺の口からも「歳を取ると時間が経つのが早いというけど、バイトは長い」「久々に一生懸命走ったけど、前に進まない」なんてぼやきが聞かれる。もちろん『鬼滅の刃』の話題にはついていけない。禰豆子が竹をくわえていることを話したらネタバレになるんじゃないかとビビる始末だ。

歯が8本ない長谷川雅紀(右)と、無類のVTuber好き渡辺隆

これもオッサン特有の現象だが、長谷川はとにかく言葉忘れや言い間違いが多い。映像制作会社の「ピクサー」の名前を出したはずが「mixi」と言い間違い、「ダム」という単語が思い浮かばず「水を止めるヤツ」と必死に説明し、「三丁目の夕日」と言おうとしたが慌て過ぎて「ゆうちょうめ」と略してしまう。お笑い芸人としての“ボケ”、老いからくる“ボケ”、そして長谷川個人の天然“ボケ”がない交ぜになっている。

長谷川の特異性ばかりが目立っているが、聞き手に回ることが多い渡辺の秘めた魅力もラジオからは伝わってくる。自宅に所有するアダルトビデオはかつてレンタル店並みの品ぞろえだったそうで、AV女優の話題が出ると、豊富な知識を垣間見せてくれる。VTuberに異常に詳しかったり、家では全裸で過ごしていたりと、何かと気になる要素も多く、長谷川以上に独身中年としての生態を掘り下げたくなる存在だ。

こんな彼らの日常は、若いリスナーからするとただの“バカ話”なのかもしれないが、同世代からすると、共感とほろ苦さを覚えずにはいられない。何度も言うようだが、あくまで“芸人ラジオ”なのだが、どこか哀愁を帯びている。番組内では10代女子からメールが届くと、必ずと言っていいほどニセモノ疑惑が浮上するが、このラジオが持つ深みのある魅力を最も感じられるのは中年のオッサンなのかもしれない。

芸人が売れていく過程を入れ歯によって体感するバカらしい経験

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