岡野陽一との借金頂上決戦
特に1月19日に公開された借金のプロでもある先輩芸人・岡野陽一との借金頂上決戦は『LIAR GAME』や『スラムドッグ$ミリオネア』を超えるリアルな心理戦に血湧き肉躍った。
ヒコロヒーが予想した額は2千円。スタッフが予想した額は2万円。ヒコロヒーは、岡野が『THE W』優勝で賞金を手にした芸人の吉住から借金する予定であることを知り、それを当てにしていたのだがここで問題が起きる。岡野宛てに吉住のファンや人力舎の社長から「吉住に近づいたらマジでシバく」というお達しが出てしまったのだ。そこで岡野はこの電話を逆に利用し、ヒコロヒーに吉住から借金させて、それを経由して自分の手元に金が入るように画策する。岡野に金を借りるつもりが。いつの間にか別の人間への借金の相談へと話がすり替わっている。まるで『HUNTER×HUNTER』の念能力かのような「借金移動(デッドムーブ)」に震え上がった。
しかし、これはヒコロヒーの作戦だった。ヒコロヒーは吉住から借りた金を岡野へと渡す際、それを「自分の金」として貸すことによりその金に利息をつけ儲けようという算段だったのだ。まず、ヒコロヒーは「金が早急に必要だ」という岡野に対し、「吉住から金を借りる前に、自分が現在所持している現金から岡野に渡してもいい」と提案する。そして岡野に貸す8万をトゴ(10日で5割)というあり得ないほどの高金利で要求した。当然岡野は「やり過ぎじゃない? いざとなったら訴えるよ」とそれを一蹴する。するとすぐさまヒコロヒーは、「トイチ(10日で1割)にしますか?」と利息率を下げ交渉に入る。岡野は「トイチか……全然いけんじゃない? いいよ」とアッサリその要求を飲んでしまう。
最初にわざと断られるような高い要求を吹っかけ、相手が渋った瞬間に低い要求をし相手にそれは「得だ」と錯覚させる。蜘蛛の巣のように何重にも張り巡らされたヒコロヒーの罠に岡野は一瞬にしてがんじがらめになってしまった。これは交渉術のひとつ「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」だ。そして皮肉にもこのテクニックは岡野自身がヒコロヒーに数分前に話したテクニックだったということ。
しかし、話はこれで終わりではなかった。これでは単に「ヒコロヒーが吉住に借金をし岡野に金を貸す」ということだけになってしまう。この戦いの勝利は「岡野から借金をする」ということでしか得ることができないのだ。
満を持してヒコロヒーは「今私にいくら貸してくれます?」と、岡野に問いかけた。しかしこれが大きな間違いだった。岡野が次に放ったひと言によって戦況は一変した。
「ヒコロヒーが俺に12万貸してくれたら2万あげるわ」
ヒコロヒーから受け取った金の一部をヒコロヒーに渡すと言う岡野。当然ヒコロヒーは、12万という大金を貸すことはできない。ヒコロヒーの目論見はもろくも崩れ去った。結果としてヒコロヒーは、岡野に金を貸して利息分を受け取る約束を取りつけることはできたものの、「岡野自身から金を借りる」という最大の目的は果たすことはできず、この頂上決戦はある意味ドローというかたちで幕を下ろした。
ここまでリアルな人間模様を見ることができるのは、ある意味人間にとって最もシビアで生々しい「借金」というテーマをエンタメに昇華することができる、ヒコロヒーの芸人としての実力の高さ、そしてヒコロヒーに対する芸人たちの信頼の厚さがなせる技だと思った。
ある意味「今一番観るべきYouTube」、『ヒコロヒーの金借りチャンネル』は2021年要チェックのチャンネルのひとつだ。願わくば広告収入で借金返済してほしい。
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