誰かの「好き」を否定しないマンガ『推しが武道館いってくれたら死ぬ』

2020.1.26

リュウコミックス「推しが武道館いってくれたら死ぬ ①」 ©平尾アウリ/徳間書店

文=けんすう 協力=アル開発室
編集=鈴木 梢


「マンガは、出た瞬間に読むのが一番おもしろい。なぜなら、マンガは時代の空気や人々の暮らしから多大な影響を受けるものだから。その影響が一番ダイレクトに伝わる時期に読んだほうがいいんじゃないか」

このようにマンガに対する持論を語ったのは、マンガコミュニティ「アル」を運営する、“けんすう”こと古川健介氏。これから隔週で「このマンガがいま生まれた意味」を考えながらおすすめのマンガをご紹介する。

『推しが武道館いってくれたら死ぬ』

今日のおすすめは『推しが武道館いってくれたら死ぬ』です。通称、“推し武道”と呼ばれています。

推し武道は、地下アイドルの舞菜の大ファンである女性ドルヲタの「えりぴよ」が主人公のマンガです。舞菜への強い想いがあふれつづける作品です。実は舞菜もえりぴよのことが好きなのですが、それは表に出せずに、塩対応になってしまい、すれ違い続ける……という話です。

マンガ『推しが武道館いってくれたら死ぬ』(徳間書店)より、主人公のえりぴよ(引用:アル

個人的にこのマンガを推しているのが「好きなものを好きと言うのは、とても普通のこと」という今の時代のメッセージがとても色濃く現れているからです。

ここ数年のポリコレの流れとLGBT

筆者は20年以上、インターネットのコミュニティサイトに没頭しつづけてたのですが、ここ5年くらいのネットの空気としては、「ポリコレ」が色濃く出たと思っています。ポリコレとは、ポリティカル・コレクトネスの略称で、差別や偏見を防ぐため、政治的に公正・中立な発言や行いをしよう、というものです。

アメリカでは1970年くらいから論争の対象となっていたらしいのですが、近年、日本でもこの流れが強く出てきています。日本でも人種差別や女性差別などはもちろん、セクハラ、パワハラなどのハラスメント系もだいぶ許されない雰囲気になっています。もちろん昔から許されない行為だったのですが……。イメージとしては、「ちょっとしたセクハラ発言くらいなら、眉をしかめられたり、陰で悪口を言われるくらいで済んでたものが、今ではネット上で袋叩きになる」みたいな感じです。

これを「正義感が暴走しすぎて、何かの失言だけでも引きずり降ろそうとする」という見方をする人もおり、たしかに、正義感を振りかざして人を叩くことに快感を覚えている人たちもいそうです。これを「ポリコレ棒で叩く」とネット上のスラングで言われることもあります。

極端な行動を起こす人が一部いたとしても、ポリコレを多くの人が意識するようになったことでハラスメントや偏見、差別が減り、大多数の人は恩恵を被っているのではないかと僕は考えています。

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けんすう

2004年、JBBS@したらばをlivedoorに事業譲渡、2006年からリクルートにて事業開発室に所属。2009年にnanapiを創業。KDDIに2014年にM&Aされ、2019年にマンガサービスの「アル」を提供するアル株式会社を創業。

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