三浦大知の新曲『Antelope』は、困難な時代を乗り切るための“ワクチン”

2021.1.6

文=荻原 梓


ウイルスの脅威が世界を襲い、人びとを不安で覆い尽くした今年。アーティストたちの動向はこれまで以上に注目されていたと思う。

この未曾有の事態に彼らがなにを発信するのか、なにを世の中に訴えかけるのか、多くの人びとが気にかけ、そして同時にそれを求めていたように思う。この予測不可能な状況にも柔軟に対応したメッセージをSNSで投げかける者もいれば、なかには頑なに世間との接続を断って制作に打ち込む者もいた。

※本記事は、2020年12月25日に発売された『クイック・ジャパン』vol.153掲載のコラムを転載したものです。


渇いた心に降り注ぐ慈雨のように

どちらがよいということはなく、どちらの姿勢にもそれぞれ救われた人がいたはずだ。大事なのは、私たちはそうした彼らのアクションやアティテュードに共感することで少なからず助けられているということ。

彼らの歌や言葉で不安が払拭されたり、スカッと気持ちよくなれたり、あるいは日常生活に集中できたり、なんであれ自分にとっての道標となるようなものを示してくれる存在の必要性をつくづく感じた1年でもあった。

そのなかで三浦大知は、人びとに全力で寄り添うような歌を作った。

新曲『Antelope』は一人多重コーラスによるアカペラからはじまるラブソング。アメリカのアリゾナ州にある渓谷に着想を得たこの曲は、コロナ禍で擦り減った人びとの心を、雨や風で削られてできたそのアンテロープキャニオンの姿形に重ね合わせる。無駄な音を削いで研ぎ澄まされたサウンドは、まさに渓谷の絶景のように美しい。幾重にも重ねられた彼の歌声は、まるで天から降りそそぐ恵みの雨のごとく優しく温かい。

さまざまなニュースに気が滅入ることの多かった今年。混迷を極める世界の状況を見て「愛を伝える歌が必要だと思った」という彼の真っ直ぐな思いが曲全体から伝わってくる

星野源との「うちで踊ろう」や絢香との「ねがいぼし」といったコラボなど、彼はこの災禍の中でも社会に向けて発信し続けてきたひとりである。だからこその境地がこの曲には宿っているようにも思う。表舞台に立つ者が放つ特有の切実さと言うべきか。

MVに「心が洗われる」「ホッとする」といったコメントが寄せられているように、人びとの渇き切った心に深く染み渡るような癒しの歌だ。

ひところと比べれば明るい兆しも見えはじめているものの、まだまだ予断を許さない情勢が続く。そして心が削られる日々は、ウイルスが過ぎ去った後も完全になくなりはしないだろう。困難な時代を乗り切るための“ワクチン”が、この先も求められる。


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荻原 梓

(おぎわら・あずさ)日本の音楽を追いつづける88年生まれのライター。『クイック・ジャパン』、『リアルサウンド』、『ライブドアニュース』、『オトトイ』、『ケティック』などで記事を執筆。

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