かつてはアルコ&ピース、パンサーと共に『笑っていいとも!』の準レギュラーにも抜擢され「ネクストブレイク芸人」とまで言われたウエストランド。傷つけない笑いがよしとされる今の時代において、まわりどころか自分すら無作為に傷つける笑いを12年間やりつづけている唯一無二の悪口漫才師。
『M-1グランプリ2020』では惜しくも優勝を逃したが、最後の最後に出てきてただただ言いたいことをぶちまけて去っていくその姿は改めて世間に「ウエストランド」の名前を知らしめた。その魅力に少しでも迫っていきたい。
※ウエストランドはその後、『M-1グランプリ2022』で見事優勝。2020年のリベンジを果たした。詳細は下記の記事にて。
「ネタのおもしろさ=人間のおもしろさ」
今大会で「最も印象に残った芸人は誰か」と問えばウエストランドの名前を挙げる人も少なくない。
『JUNK おぎはやぎのメガネびいき』(TBSラジオ)では「あんな出番(ラスト)で出るのがかわいそうなくらい小者なんだから、絶対にラストに出てくる奴らじゃない。でも小者ながらにおもしろかった」と労いの言葉をかけていたし、『Creepy Nutsのオールナイトニッポン0』(ニッポン放送)内でもDJ松永が「最高」「大好き」と公言していた。悪口漫才師を欲している人間は確実に存在している。
「かわいくて性格のいい子はいない」
「お笑いは今まで何もいいことがなかった奴の復讐劇」
は確実にM-1グランプリ2020屈指のパワーワードだったし、日常生活の至るところで「え……? いないよ……?」と思うことが増えた。誰もが自動ブレーキつきエコカーで走る道路をトゲつきの改造車で逆走する彼らの漫才は疲れた身体と心にズッポリ突き刺さり大きな傷と同時に大きな「癒やし」にもなった。「毒は薬にもなる」ということが改めて証明された。
彼らの漫才のすごさは、「ネタのおもしろさ=人間のおもしろさ」に直結しているというところにある。自分自身を極限までさらけ出す、まさに唯一無二の「ノンフィクション漫才」、それがウエストランドだ。たとえば、お笑いファンの間ではもはや伝説となった「いぐちんランド」。あの事件を経て、ウエストランド井口浩之という人間のおもしろさは確実に増していたし、あれがなければM-1決勝は叶わなかったのではないかとさえ思う(現に準決勝で自虐的に「いぐちんランド」をネタにし会場の空気を一気に自分たちのものにした)。
件のオールナイトニッポン0でDJ松永が「(井口の言葉は)魂乗っかり過ぎてた。マジでブルース。ブルースかつヒップホップ」と評してたように、ある意味ウエストランドの漫才は己の怒り、悲しみ、憎しみといった感情を純度100%でぶつける「歌」でもあるのかもしれない。
ふたりのしゃべりの比重の差
そしてもうひとり、女と酒が大好きで努力と節制が大嫌いな男・河本太。井口がワーーーッとまくし立てる裏には河本が「異常なほど何もしていない」という不気味さがある。今回決勝で披露した『マッチングアプリ』をはじめ、ネタによっては河本は本当にボケもせず最低限の相づちやつなぎの言葉をしゃべるだけのときもあり、12月25日に配信された『ウエストランドのぶちラジ!』でも井口曰く「がんばりでいうと1位」「見取り図もマヂカルラブリーも河本と組んでM-1決勝なんて行けるはずがない」と豪語し、河本本人も「やれるもんならやってみてください」「ほかの相方なら優勝できる」と言うほど。
M-1の決勝に3度出場しているかまいたちも、自身のYouTubeチャンネルにてウエストランドの漫才を見て「河本君、こんなにしゃべんないんだ……河本君ボケてはいないよね……? 井口君がボケてもいるしツッコんでもいる……? そうではない……? 違うんかな……?」と困惑していた。
普通のコンビではあり得ない。しかし、このふたりの比重の差こそがウエストランドをウエストランドたらしめているのではないだろうか。無口なら、しゃべるのが苦手ならそのまましゃべらなければいい、前述したとおり、その人間性がそのままネタのおもしろさになるウエストランドにおいて、井口のセリフ量が増えれば増えるほど、河本のセリフ量が減れば減るほど、その漫才はキレを増す。井口が100言い終わった瞬間にそのすべてを無に帰すような河本の空虚なひと言、あのゾクゾク感はほかの芸人では味わうことができない。
今大会の結果を受けて河本は「ぶちラジ」で「(声の小ささと滑舌を改善するため)タイタンのアナウンス学校に通いたい」と言っていた。もしかしたら来年は99:1だった比重が50:50になっているかもしれない。そうなったとき、まったく違うかたちのネタで勝負するのか、それとも何も変わらないのか、どちらにせよ「人間・ウエストランド」のおもしろさは確実に増しているに違いない。
果たしてウエストランドが復讐を完遂する日はいつになるのか、これからも目が離せない。
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