“余聞”から小説家の思考をトレースできる稀有なラジオ番組『高橋みなみと朝井リョウ ヨブンのこと』

2020.12.27

最近のメールテーマは「友達をなくした理由」「僕の私の(職場から)飛んだ話」

あくまでも他愛のないトークが中心だが、時に朝井を中心にしたトリッキーな企画が行われるのがこの番組の恒例。たとえば……2017年6月に放送された「疑似公開収録スペシャル」は、ニッポン放送のイマジンスタジオに椅子を並べ、そこにリスナー37人の自撮り写真を貼るだけという無観客での企画だった。無人の客席の中で、自撮り写真と届いたメールをもとにリスナーをイジっていくという内容。ホームページで公開された集合写真には狂気すら感じられた。

2018年4月に放送された“ヨブンフェス”では、冒頭から朝井がピアノの弾き語りを披露し、そのピアノを伴奏にして、高橋もデビューシングルを熱唱。観客代わりにリスナー97人の自撮り写真をブースの壁に貼り、前代未聞のフェス風景となった。そのほかにも、「実は生放送でした」「実は収録中に予防接種を受けていました」「実は収録中にボルダリングをしていました」と番組エンディングで明かされる通称“ラジオマジシャン回”もある。これだけ読んでも、この番組の方向性がわかっていただけるのではないだろうか。

通常のトークから朝井の“作家脳”に触れられるのも興味深い部分。リスナーからのメールに対しても、何気ない表現に反応したり、文章の構成を気にしたり、その先の物語を想像したりもする。

SNSでも話題になったのが、主人公が小説家兼本屋店主という設定の『仮面ライダーセイバー』の日常回を朝井が作家視点で妄想する回だ。放送時点では『セイバー』自体が始まっていなかっただけに、「セイバー、集英社の社内カフェにて、思い切ってグァバジュースを頼む回」「セイバー、本の帯コメントを書いてもらった人から文庫解説を頼まれて悩む回」「セイバー、映像化に関してうるさいことを言いたくないけど、原作にないよくわからない指示を出されて悩む回」などと好き勝手に妄想。一般には伝わらない“作家あるある”を活かした案を次々と生み出した。

朝井によれば『セイバー』の一番の敵は眠気と怠けで、自分の読者がラスボスだと知る衝撃のクライマックスを想像していたが、今のところ、実際の『セイバー』にそんな展開はない。

そして、私が強調したい点は、その作家脳が時折、人の心に向き、グッと踏み込む瞬間があること。ここまで書いてきたように、あくまで普段はニヤニヤしながら楽しむ番組なのだが、呑気に構えていると、刃物を突然、喉元に当てられたような感覚になる。笑い話を聴いていたはずが、朝井のトークが急カーブして、シビアな問題をリスナーに突きつけてくる。この番組の一番の魅力もその高低差にあるのではないかと個人的には思う。

最近、それを強く感じるのはメールテーマのコーナーから。フリートークで話題になったことがテーマになることが多い。いくつか例を挙げると、「逮捕メール」(身近な人が逮捕された話)、「友達をなくした理由」「私から出た加虐心」「僕の私の(職場から)飛んだ話」と、かなり際どいテーマが並ぶ。お笑い芸人の深夜ラジオならば、こういう自虐的な話を笑い飛ばすという流れになるだろうが、この番組ではそうならない。もちろん「笑い」はあっても、その深淵に踏み込んでいく。

取るに足らない些細な出来事を自分の問題として受け止め、ラジオという場で言葉にする

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