昔の作品に興味がなくても、澁澤龍彥『高丘親王航海記』は現代の若者に読んでほしい

2020.11.19

文=足立守正


澁澤龍彥という作家の名を聞いてピンとくる若者はどれだけいるのだろうか。

現在のマンガやラノベの人気作品も、実は澁澤の遺伝子を継いでいる気がする。先人の蒔いた種は現代の文化に確実に根づいている。

※本記事は、2020年10月24日に発売された『クイック・ジャパン』vol.152掲載のコラムを転載したものです。


こともなげなアドベンチャー

今年、EXITの兼近大樹が放った「いつまでも『ドラゴンボール』のたとえでは、劇場に来る若いお客に届かない」という骨子の発言が、世のおじさんを震撼させた。国民的マンガに世代間の分断を背負わせたギャグと理解しつつ、身につまされたのだ。別枠で、昨年ヒコロヒーが放った「女芸人は、こんな『ドラゴンボール』は嫌だ、みたいな男寄りの大喜利にはうんざり」という骨子の発言も鋭利だったが。『ドラゴンボール』人気の新たな局面だ。

澁澤龍彥は、高度経済成長期に、海外の史談と奇談を混ぜ込んだエピソードを多く紹介した作家。当時の文学青年を虜にし、更に80年代の文庫化は、クラスの変わり者の愛読書となった。

なんて、それこそ若い世代には届かなそうだが、氏の蒔いた種は、現在の文化に確実に根づいている。『ドラゴンボール』に残された『西遊記』の遺伝子のように。思えば『鋼の錬金術師』など、澁澤龍彥ブランドのパーツでカスタマイズした印象だったもの。だから、氏の遺作で唯一の長編小説が、RPGのパッケージさながらの華やかな新装で流通しているのも納得。今、その名作『高丘親王航海記』を、近藤ようこが描き進めている。

平安時代、実在した高僧・高丘親王が、仏典を求め天竺に向かう(いわばこれも『西遊記』だ)。お供は、屈強な安展と博識な円覚の二人の僧。そこにマスコット的存在の脱走奴隷・秋丸が加わる。異国の驚くべき風景に親王の好奇心は抑えきれず、目的を逸して大冒険。その冒険が、夢かうつつかわからない。

第2巻では本作のアイドル・盤盤国のパタリヤ・パタタ姫が登場。姫の病に効く「良い夢を食べた貘の肉」のために、親王は夢を提供して朦朧となる。元気になった姫は、一頭残った貘のペニスを愛撫する。夢を通じ貘と一体化している親王は、幼少時に女官の藤原薬子に睾丸を弄ばれた甘い体験を夢想中、貘の射精とともに目が覚める。この場面を、貘と親王に振り分けて着地するコマ配置が楽しい。

しかし、なんちゅう話だ。そんな話を淡々と著すのが澁澤龍彥。そして、イメージが飽和する澁澤文学を前にしても、通常運転で「こともなげ」に受け止める近藤ようこ。そのペンさばきは、どうしても本編全体を包み込む藤原薬子の「こともなげ」な所作に重なってしまう。なにしろ、この作品世界を形づくるのは、薬子が天竺へ投げたボールを、自らキャッチして日本へ投げ返す軌跡で描かれる、壮大な輪廻なのだから。


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