折坂悠太の「分断をつなぐ」エピソードは、自分の根底にあるものを思い出させてくれた

2020.10.21
荻原梓 151コラム

文=荻原 梓


「ライブが魅力の歌い手」としてライターの荻原梓が名前を挙げたのは、折坂悠太。彼のライブでは、その企画力や構成力はもちろん、彼から出てくる“言葉”に胸を打たれる。音楽寺でのライブ中に放った彼の言葉が、今になって身に沁みるという――。

※本記事は、2020年8月25日に発売された『クイック・ジャパン』vol.151掲載のコラムを転載したものです。

生きているといろんな分断がある

ライブ盤が代表作のアーティストというのがいる。黒人歌手のダニー・ハサウェイはまさにその筆頭で、71年の公演を収めた『Live』にはスタジオ録音では決して味わえない現場の熱気や高揚感があり、人びとの興奮や一体感までをも後世に伝えられるのもライブ盤の良さだと感じる。

折坂悠太もまたライブが魅力の歌い手だ。特に7人編成で行う“合奏”形態での公演は、彼らの演奏が舞台上でうねりを起こし、会場全体を巻き込む不思議な力を生む。先日の配信ライブではなんと公演中に作ったカレーを食べて終わるという斬新な演出で幕を閉じた。何度でも生で観たいと思わせてくれるアーティストだ。

『暁のわたし』は、そんな彼のまだ『平成』前夜の初々しい様子から現在に至るまでのライブ音源を収録していて、カネコアヤノと歌った「いつでも夢を」や、韓国人フォーク歌手イ・ランとの国境を越えた共演も交えつつ、それこそ現場の熱気とセットになった昨年の『全感覚祭』での熱演など聴きどころは多い。今でこそ月9主題歌を歌うほど大きな注目を集めている彼だが、最後のトラックで“初心”に立ち返る構成も見事だ。

筆者が彼のライブで最も印象に残っているのは、岡山の蔭凉寺という会場で行われた公演である。街並に馴染むようにして建つこの寺は“音楽寺”として親しまれていて、その厳粛な雰囲気の中で話していた内容が面白かった。うろ覚えだが要約すると、祖母の四十九日でお坊さんのお経を聞いていたら、線香の煙に包まれてお経が妙に頭に入ってきたという。そのときに“こっちの世界”と“向こうの世界”がつながったのを感じたというのだ。それを踏まえた上で彼はこう続けた。「生きているといろんな分断がある。そういう“どうしようもないわかり合えなさ”に対して、たとえば僕だったら歌を歌うことだったり、それぞれが得意なことでなにか行動することが、線香の煙で世界と世界がつながるような、分断を乗り越えるひとつの手段になるのではないか……」。

このコロナ禍で多くの人が自分自身を一度は見つめ直したのではないだろうか。自分もなんとなくはじめた執筆活動だが、振り返ればその根底にあったのは「こんな音楽があることを知ってほしい」とか「この曲の言わんとしてることを世の中に届けたい」といった、ある意味で世界と世界をつなげることだったと思い直した。だから彼のこの話が、今になって妙に身に沁みているのである。


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