先輩たちが震え上がるほどの知識と技術を持つスーパー無名芸人、リップグリップ岩永



先輩芸人を震え上がらせた、スーパー無名芸人

ところでこのプライム枠の初回収録の日、「ゲーマーの異常な愛情」の出番を終えたノブオが帰り際、僕にこんな言葉を残していった。

「今度この企画に出るときは、僕もう一度オーディションから参加します。
ちょっと初心に戻ってやってみたくなったんで……」

明らかに収録での立ち居振る舞いを反省している様子のノブオ。僕が見ている限り特に目立ったミスはないようなのだが、当の本人はどこか浮かない顔である。少し心配になった僕はMCの酒井に「ノブオさんがちょっとだけ元気なかったんですけど、何かあったんですかね?」と聞いてみた。すると酒井はこう言った。

「岩永のプレゼンがすごかったから『ヤバい!』って思ったんじゃない?
アイツのしゃべりがうま過ぎて、俺らもちょっと震えたもん」

先輩たちを震え上がらせるほどのプレゼン力で、その日の収録現場を支配した芸人。それはマセキ芸能社の若手漫才師、リップグリップの岩永圭吾という男である。

リップグリップ
リップグリップの(左から)岩永圭吾(いわなが・けいご)、倉田紘顕(くらた・ひろあき)
写真提供:マセキ芸能社

おそらく多くの読者にしてみれば「誰やねん」も甚だしいスーパー無名芸人である岩永。しかし彼のゲームへの愛とプレゼンターとしての実力は、これまで番組に出演してきたどの芸人たちをも凌駕する。

「ゲーマーの異常な愛情」の新人プレゼンターはオーディションで決められる。審査方法も至ってシンプルで「とにかく好きなゲームソフトの話を10分間してもらい僕がその話を聞く」、ただそれだけ。事務所も知名度も一切関係なし、ただひたすら“ゲーム愛”と“プレゼン能力”を問う、いわば就職面接のような形式でオーディションは行われる。

しかしながら、このオーディションが想像以上にしんどい。というのも、ただでさえ出演へのハードルが低いと思われているこの番組、「テレビに出てみたいんでとりあえず来ました」的なまったく“ゲーム愛”のない芸人もかなりの確率で混ざっており

「本日僕が紹介したいゲームは……“ゲームボーイのテトリス”です!」

みたいな「10分もしゃべることねえだろ」的なメジャータイトルを堂々と持ってくる冷やかしがめちゃくちゃいる。

確か岩永が初めてオーディションにやって来たのも、そんな冷やかしプレゼンの連続に僕がすっかり辟易していたときである。部屋に入ってくるなり、自己紹介で「現役京大生」であることを告げてきた岩永。「家庭教師で受け持った生徒を全国模試1位に導いた結果、時給が12000円に跳ね上がった」などのテレビで使いやすいエピソードを絡めて、自身のキャラクターをしっかりアピール。オーディションの掴みとしては完璧な出だしだ。

岩永をいわゆる「インテリ芸人」と認識した僕は、それとなく「そんなに賢いなら芸人じゃなくてほかの仕事をやればよかったのでは?」と聞くと、岩永は“待ってました”とばかりにこう答えた。

「よく言われるんですけど……
そもそも京都大学に入った理由が、芸人としてのキャラづけのためなんですよ。
キャラがあったほうが、オーディションとかに呼ばれやすいじゃないですか」

めちゃくちゃ頭のいい人だなと思った。実際、僕はまんまと話を聞いてしまっている。そしてそのまま流れるようにゲームプレゼンが始まった。

「本日僕が紹介したいゲームは……『The Witness』です!」

島を探索しながら至る所に点在するひと筆書きの迷路を解き進めるパズルゲーム『The Witness』。極端にヒントが少ない難解な作品としてゲーマーの間では有名なソフトで、いかにも「このコーナーで扱いそうな」タイトルではある。

ただこのゲーム、まったくと言っていいほどプレゼンに適したゲームではない。なぜなら、作品中にストーリーと言えるものがほとんどないため、基本的にプレイヤーは延々と似たようなパズルを解いていくのみ。つまりネタバレをせずに10分のプレゼン尺を埋めるにはあまりにも話すことがないのである。

「キャラもいいし、トークもうまいけど選ぶタイトルを間違えたかもなあ……」などと思っていると、岩永は開口一番、こう切り出した。

「このコーナーって“どんでん返し”みたいな、壮大なストーリー展開があるタイトルを取り上げることが多いですよね?
だから今日はあえて“まったくストーリーがないゲーム”を持ってきました……」

こちらが考えていることはすべてお見通し、そんな語り口である。観ている者の気持ちを先読みするかのようなハイクオリティなプレゼンは、オーディションの映像をそのままオンエアにのせたとしても問題ないレベルであった。番組の初代プレゼンターであるヤマグチ某を彷彿とさせる“ゲーム愛”と“プレゼン能力”を併せ持つ逸材の登場に、僕は興奮を隠せなかった。

あとで聞いた話だが、岩永はアルコ&ピースの大ファンで、憧れの平子と酒井に会うために、オーディションに向けて何度もプレゼンのシミュレーションを重ねたそうだ。そこまでして会うべき人たちなのかというのはさておき、やはり「努力は必ず報われる」のである。

『勇者ああああ』が発掘した新世代ゲーム芸人・リップグリップ岩永。彼がノブオのようにゲーム業界で活躍する日もそう遠くないだろう。初代プレゼンターのように何か問題を起こしたりしなければ、だけど。

ちなみに、問題を起こした初代プレゼンターは、9月24日の深夜枠最終回に出演予定。興味のある方はぜひこちらもご覧くださいませ。


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板川侑右

(いたがわ・ゆうすけ)2008年テレビ東京入社。制作局で『所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ』などのADを経て『ピラメキーノ』でディレクターデビュー。その後『ゴッドタン』『トーキョーライブ22時』などのディレクター業務を経て特番『ぽい図ん』で初演出を担当。過去に『モヤモヤさまぁ〜ず2』のディ..

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